24.ニセモノ

回復のために丸一日休んだ。

本当はもっと休息するべきなのかもしれないけど、その辺の、どれだけ間隔を開ければいいかは、よくわからなかった。


ただ一応、ノルマをぼくらは課されてる。

休み続けるわけにもいかない。


というか、一日だけでもう暇を持て余していたし、身体の調子も良くなっていた。


いつものように第一階層を巡る。

その時点で、もう違う部分があった。


「なんか、こう……」

「ああ、なんかだな」

「二人共、なに……?」


拳を握り、振ってみる。

見た目的には、たぶんそんなに差はない。


だけど、明らかに違っていた。

体感として別物だった。


「斬れ味が、増してるな……」


エマの方もそうみたいだ。


第二階層エルシェント校での戦いは、ぼくらに「魔力を操る」ことを覚えさせた。

それは、いままで使っていなかった感覚に、ようやく気づいたみたいだった。


それが存在していることを、それを知覚できていたことを、今までまったく知らないまま過ごした。

戸惑いながらもぼくらの身体は「それ」を認識し、慣れつつあった。

それを前提とした動きになった。


「んふふふ……」

「ライラ、どうしたの?」

「ふたり、仲間……へへ……!」

「言われてみりゃこれって、オレらも魔術師に片足突っ込んでるようなもんか」


ただ、魔術師としては赤ん坊もいいところだ。

盛大に魔力が満ちた環境で、ようやく知覚できるくらいの精度だ。


「他の探索者も、こういうことできるのかなあ」

「やれるだろ」

「どうして?」

「あの第二階層の怪物を、武技も武術も魔術もなしで倒せるなら、ソイツのほうが怪物だ」

「まあ、そんな人いたら、普通に怖いね」


ノルマ達成用に触手ミミズを狩りながらの返答だった。

エマの槍は当たり前みたいに首を薙ぐし、ぼくの拳は一撃で絶命させる。

ライラは出番がなくて唇を尖らせた。


「てか、もうパナッテイル限定品、誰かもう買ってんだろうなあ……」

「そんなすぐに売れる?」

「上で販売されたら、数時間後にはぜったい無い」


確信を持った顔だった。


「あれって、ニセモノだったりしないの?」

「シリアルナンバー入りで靴裏の紋章印も本物に見えた、あれがニセモノだとしたら手が込みすぎだ」

「地上とこことの価値観が違いすぎる……」

「お前の、何とかっていう水はどうなんだ?」

「ジャルブスの霊水が、ニセモノかどうかって話?」

「ああ」

「わかんない」


それこそ写真で取られているものしか、ぼくは見ていない。

だけど――


「特有の水紋は出来ていた、偽だとしてもよく知ってる人が制作したんだと思う」

「というか、それ結局なんなんだ?」

「ジャルブスの霊水……あたしが知ってるのだと、毒の一種だった……」

「あ、うん、その通り」

「おい!?」

「大丈夫だって、二人には飲ませないから」

「いや、そういう問題じゃねえだろ!」

「リーダー……?」

「エマ、迫らないで。ライラ、キラキラした目で杖を構えないで、別に自殺したいわけじゃないから」


変な誤解を与えてしまった。

けど、あれは――


「毒とはいっても、タバコとかと一緒くらいの毒だよ、大量に摂りすぎれば死ぬけど、加減すれば問題ない」

「本当か?」

「もちろん」

「ふぅん……?」

「ねえ、ライラ、どうしてぼくの胸に耳を当ててるの?」

「ライラ、どうだ?」

「嘘じゃない……!」

「そっか!」

「ねえ、ぼくの言葉、そんなに信用できない?」


ライラが爆弾でも扱うみたいにぼくの胸に耳を当てて、振り返って親指立てる姿は、ミッション成功みたいな雰囲気すらあった。

割とひどいと思う。


「ライラの欲しがっていたユハの灰だっけ、あれも大丈夫?」

「ニセモノかどうか……?」

「うん、そう」

「もしそうなら、燃やす……」

「どこを? 誰を?」

「水辺を棲家とする怪物ですらも燃えて、灰になった……普通の火だと燃やせない、それを成し遂げたのは神話の炎だった。今はもう存在しない炎で焼き尽くした……あれはもう、素材そのものが、炎の秘密そのもの、それを偽ったのなら、殺すしかない……」

「うん、関係者全員の勢いだってことはわかった」

「なんか、一周してむしろオレが欲しがってるもんが、一番ショボいまであるな」

「家一軒ぶんの価値って相当だけどね」

「とはいえ、なあ……」


ぼくらの目標は自由になること。

三人でここから抜け出すこと。


そこに立ちはだかる最大の障壁は。実はぼくらが欲しがっているものだった。


戦えば敵は倒せる。

困難があれば協力して乗り越える。


だけど、ぼくらが欲しいものは、三人の自由につながるものじゃなかった。


「一番駄目なパターンは……」

「ん?」

「ぼくらが欲しいものを手に入れた後で、また別の新しいものが入荷するパターンだよね」

「え……え……?」

「あー」


ライラは困惑しながらも、頭の中でいくつかの候補が出ている様子だった。

エマはむしろ心から納得していた。

魔導と同じくらい、コレクションにも果てはない。


とりあえず一回欲しいものを入手してから、ってやり方は、ぼくらの足を永久に止めるルートなのかもしれない。


「とりあえずは、進もうか」


ぼくは首を振って言った。

こんなの、考えても仕方がないことだった。


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