18.学校

ギルド員にそれを欲しいと言ったとき、おかしな顔をされた。

それは、何かの感情を噛み殺している顔だった。


よくやりがちな間違いを笑ったわけじゃないと思う。

そうじゃなくて――


「やっぱり……」


きっと、このダンジョンの秘密を、一端とはいえ当てたことに対するものだった。


「へえ、すっげ、というかこれ、確かに見覚えあるな」

「……うぅ……」


ぼくらがいるのは、第二階層だ。

そして、目の前にあるのは巨大な建物だった。


地図を参考に第二階層を歩きに歩いた先に、ここがあった。


どこか禍々しく、けど、確かな存在感で建っている。

形としてはコの字型、中央には尖塔があって時計があるけど、ちゃんとした時間じゃなさそうだ。

短針が行ったり来たりする時計とか普通に壊れてる。


学校だった。


いろいろと悪趣味にデフォルメされていた。

その内部には、影みたいな形で怪物が見えた。

見えるだけで4匹、内部にはもっといるはずだ。


「やっぱり、この第二階層、同じなんだ……」


ぼくがギルドで購入し、手にしているのは、上の都市の地図だった。

都市部の様子が、地図記号で記されている。


うっすらと見える道の形は、それとまったく同じだった。


そう、このダンジョンは横へと広がっている。

魔力が降り注いでいる


なんのために?


都市部で発生した魔力を、そのままダンジョンで再利用するための構造だった。

つまり――


「この第二階層のダンジョンの形は、上の都市と鏡写しになっている」


そうして、魔力が発生しやすい場所、人々の感情がぶつかるような場所に、怪物たちは現れる。

どれだけ「住宅地」を巡っても意味がなかった。


「そりゃ、ぼくらを初心者のままでいさせたいよね」

「どういうこった?」

「ぼくらがここで探索を続けるほどに、都市の事情について詳しくなっちゃう」


ただ単純に位置関係を理解できるってことだけじゃなかった。

たとえば、秘密の地下通路みたいなものだって、ここでは鏡写しに生成されているかもしれない。


そして――


「あの学校、なんか……あたし、嫌……」

「ああ、うん、なんとなくライラとは相性悪そうだね」

「リーダー、抱きしめて……」

「へいよ」


怯える子を抱きしめながらも続ける。


「仮にだけどさ」

「オレも抱きしめれるべきか?」

「そういう義務感はいいから、とにかく、あそこじゃない?」

「拒否られるとそれはそれでモヤモヤすんな、なんだよ」

「この第二階層で宝箱があるとすれば、ああいう建物の中じゃないかな?」


抱きしめられたライラがびくっと震え、エマの目がまんまるになった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る