5.カツアゲ

ぼくらは順調に倒した。

もう触手ミミズはぼくらの敵じゃない。


目も耳も無いような相手だ。

それは洞窟内での生存に特化した結果なんだろうけど、それは魔術による光を存分に使えるようになれば後手に回らないってことだ。


順調かつ安泰にノルマを達成した。

監督官はものも言わずに必要分を分捕った。


だから、今の敵は怪物じゃなかった。

警戒すべきはそれ以外だった。


「どうするよ」

「うん――」


何回かのノルマを達成し、割とルーチンのようになったダンジョン探索作業から戻った際、入り口付近で待ち伏せされていた。


相手は、先輩だ。

ぼくらよりも以前に攫われて、ノルマを課されて生き残っている人たちだった。


やけに荒んだ様子で、ぼくらよりも確実に上の装備を着込んでいる。

それが集団で出入り口付近を塞いでいた。


「素直に通してくれるっぽくはねえな」

「だろうね、後輩をねぎらってくれる雰囲気じゃない」

「こわい……」


ダンジョン内は暗い。

入り口付近は、少しは明るい。

だから、こっちから先にその様子を見つけることはできた。


「徴収とかカツアゲとか、そういうのかな」

「だろうな、クソ、連中、装備だけは良さそうだな」


明らかに、ぼくらよりも体格のいい人達が通せんぼしていた。


見えるだけで四人くらい。

当たり前だけど、ダンジョンに行って戻ってきたぼくらと違って、体力を消耗している様子もない。


何をするために待っているかは、ニヤニヤ笑い合ってる様子を見ればわかる。

ご機嫌な様子からして、たぶんもう「徴税」に成功している。


「あれって狙いはオレらか?」

「だと思うよ、ぼくたち、割と目立ってたし」


魔術による攻略を盛大に活用してた。

苦労してる人たちを横目に乱獲をしていた。


なら、そのおこぼれにあずかろう、新入りから分捕ってやろう――そんな連中が出てきてもおかしくない。


「問題は――」


これにどう対処するかだった。

怪物が襲ってきた時と同じ対処をするわけにもいかない。


曲りなりにも相手は人間で、単純に討伐して済む相手じゃなかった。

やってることは怪物なのに、人間扱いしなきゃいけないのが面倒くさい。


「ね、燃やす……?」

「それは最終手段」


だからそんな期待したキラキラした目にならないで欲しい。


「やるなら……いつでも言って、えへへ……」


杖を抱えて言う様子は、それだけ見ればとても素直でいい子だった。

現実には放火魔だ。


「とはいえ、それくらいしかねえんじゃねえか? あれ、単純に敵だろ。ここで一回でも支払ったら、次もやってくるぞ、絶対」

「んー……」


最小の労力で最大の成果、そのためなら論理とか恥とか投げ捨てる、そういう人たちだ。

ぼくらが命がけで戦って得たものを楽に横から得ようとしている。


ここはダンジョンだ。

誰かが死ぬとかいなくなるとかよくある場所だ。


なのに連中は、危険もなしに対価を得ようとしている――


「連中の舌を刈ったら、いくらになるんだろ」

「ハッ、試してみるか?」

「止めとこう、人殺しにはまだ早い」

「ならどうすんだ。尻尾振って負けを認めたところで寛大になんざならねえぞ、ああいう奴ら」

「杖……取られたくない……」


そういう問題もあった。

ぼくらが持ってる中で一番の金目のものはライラの杖だ。


ここで奪うよりも長期的な目で見れば奪わないほうが得だ――そういう知能があれば、ぼくら相手に横取りなんてしようとしない。


監督官や他の連中と同じく、とにかく短期的な利益を欲しがっている。


「つまり、強盗がダンジョン入口に陣取ってる、そういう状況だ」


たぶん、殺人うんぬんを考えなければ、最適解はライラの魔術による先制攻撃だった。

相手がなにをするよりも前に一撃で決めてしまう。


邪悪なミミズを相手にやったことを邪悪な人間相手にやる。


「ただ、敵の戦力がどの程度なのかが不明」

「あんな奴らが強いってことあるか?」

「わかんないよ、少なくとも体つきはぼくらより上」

「アイツら肉とか食ってんのかな」

「お肉、嫌い……」

「お前さあ、好き嫌いすんなよ、ただでさえオレより小さいんだから」

「あたし、エマの残す野菜、もう食べなくていい……?」

「これからも仲良くやろうぜ、な?」

「二人共、ちゃんとぜんぶ食べよう、好き嫌いはだめ」

「うるせえぞママ」

「ぼく、男だって」


ぼくの当然の言葉に対し、二人揃って首を傾げられた。

仲いいね、君たち。


「それ……前から言ってた……けど、本当……?」

「な。どうみても女だろ、お前」

「ねえ、裸になって見せなきゃ駄目?」


こうして話し合いができるのは、彼らは一向にダンジョン内に入ろうとしないからだった。

呑気にのんびり待つことしかしていない。


慎重というよりも必要のためだった。

彼らの体躯じゃこの洞窟に入れない。


あと、ぼくらが魔術を使うことを知っているのもある。

反撃を警戒している。


「まあ、どっちにしても、変わんねえよ」


エマが槍を肩に担ぎながら笑った。


「こんな状況で悩んだって仕方ねえ」

「なにが変わらないの?」

「逃げるか、戦うか、それくらいしかやれることはねえ、そうだろ?」

「たしかに、そっか。ここで一番やっちゃいけないのは、話し合いだ」

「ああ」


逃げる、ってことも、実はやろうと思えばできる。

こことは違う出入り口に行けばいい、ただメインじゃないこともあってかなり遠い。


戦うこともきっとできる。

彼らがいくら強くても、魔法って利点がこっちにはある。

遠距離からの火力は、ちょっとやそっとの技量じゃ覆せない。


駄目なのは交渉だ。

だって、連中は長い時間あそこで待ってる、出迎えている。


戦ってすらいないのに「そういうコストを支払った」って意識でいる。

なんとしてでも、その対価をぼくらから搾り取ろうとする。


話し合っての解決は、彼らの「ただ黙って突っ立って待っている」っていう、とっても大変で英雄的な労働を否定することになる。

英雄に逆らったと激昂する。


交渉は、戦力が均衡してはじめて成立する。


「なら、ちょっと面倒だけど、やろうかな」

「お、やるか」

「わ、わ、燃やしていいの……?」

「違うって」

「えー……」

「ただ、連中の悔しがる顔って、見たくない?」


笑いながら構えるエマと、ワクワク顔のライラを抑え、ぼくは作戦を説明した。

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