4.燃え始め
儲けたものを全部使って武器を買うのは、当たり前だけとかなりのギャンブルだ。
それで手に入るのが本当に良いものだったらいい。
だけど、それがちゃんと機能するかどうかなんて、誰も知らない。
これは、その買ったモノが良いかどうかとは、また別の問題だ。
たとえばぼくが今、伝説の名剣とかを手に入れたところで、意味がない。
それでぼくの安全は保証されない。
だって、武器の振り方なんて習っていない。
名剣として活用しきれない。
下手をすれば鞘から抜かずに棍棒として振り回した方がいいくらいだ。
技術もないし、体格も大したことないけど、武器が強いだけで勝てるとしたら、その場合に必要なのは兵隊じゃなくて優秀な鍛冶屋の集団ってことになる。
工房の数が多い国の方が勝つような事態にはなっていない。
あと、伝説の名刀だと思って買ったら、実はただのレプリカだった、なんていうのもよくある話。
そういう意味で言えば――
「この地、この時に来たれ……アラズカーンの吐息……!」
ぼくらは、ギャンブルに勝利した。
狭い洞窟の前方を、炎がゆらめき舐め尽くす。
赤色の透明な川が流れて行ったような光景。
不思議と後ろにいる僕らに熱は来ない。
けど、その威力は疑いようがなかった。
ふわりと撫でるように過ぎた後で、あれだけ苦労して倒した触手ミミズ三体が、悲鳴を上げて地面を転がった。
輝く赤に照らされた彼らは太った白い体躯に火をつけられて、臭いニオイを生じさせる。
岩肌に転がって必死に消そうとしてるけど、上手く行ってる様子はなかった。
「エグいな、おい」
「言ってないで、もう楽にしてあげるよ」
「えへへ……」
ぼくとエマが槍でトドメをさしている後ろで、楽しそうに笑っているライラは、ちょっとだけ怖かった。
「魔術ってすげえな」
「だよねえ」
「炭と灰と、あとは、なんだっけ? そんだけでこんな火力になるのかよ」
「ふへ……の、残りの材料は、秘密ね……?」
「お、おう」
半ば焦げてるけど、証拠の舌は刈り取れた。
「ライラ、まだ魔術は使える?」
「うん、なに燃やすの……?」
そりゃ当然、次の触手ミミズ――そう言おうとして、ふと思う。
ぼくが今、のたうち回るあのミミズみたいにしたいと、心から思う相手は誰か?
「そっか、あの監督官を燃やせばいいんだ……えへ……」
「思っただけ。言ってない。頼んでもいない」
「思ってはいるのかよ」
「だって、あの人、隙あればぼくらのノルマをちょろまかしそうじゃない?」
「あー……」
「あ、それは、だいじょうぶ、だと思うよ……?」
妥当な警戒だと思ってたんだけど、意外なことにライラの意見は違った。
「それは、どうして?」
「あの手の奴って、でかい悪事はしねえが、小さな悪事はいくらでもするタイプじゃねえかなあ」
「うん、ぼくもそう思ってた」
「だって、あの人、奴隷だし……」
「どれい」
思わずオウム返しにした。
「それ、なんでわかんだ?」
「魔術の、流れがある、から……? あの人、契約で、縛られてる……」
「はー、そういうのもわかるのかよ」
「うん……」
ぼくらは「奴隷みたいなもの」だけど、実際にはそうじゃない。
対外的な言い訳でしかないけど、立場としては学生だ。
本当の奴隷は別にいた。
「けど、別の言い方したら、ぼくらって奴隷以下?」
「言うなよ」
「あの人、燃やす……?」
「ライラ、とりあえず燃やそうとしないで? 止まって?」
「えー……」
酷く不満そうだった。
ライラがここにいる理由が少しだけわかった気がした。
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