2.選択
上手く行った。
触手ミミズは「通路向こうから来る獲物」だけに注目して、後ろからの接近なんて気にしていなかった。
そして、ぼくはついさっきミミズの臭いを、その血を存分に浴びた。
人間の臭さが、抜けていた。
警戒する対象じゃなくなっていた。
振動の違いで区別するような知性もない様子だった。
それが前から来るか、後ろから来ているかも判別しない。
ぼくらは粗末な槍を手に、油断した触手ミミズを背後から襲った。
暗がりを、明かりもつけずに歩いて、獲物を狩る。
まるでこっちが怪物になった気分だった。
二度目の襲撃は上手く行き、三度目も同様に成功した。
「次、ね、次に、行こう……!」
ライラがやけに興奮してた。
目をキラキラと輝かせている。
血に酔っている状態なのかもしれない。
手にした槍は半ば折れているけど、それでも次に行こうとしていた。
「なあ」
「なに?」
「引き返そうぜ」
エマの提案は妥当だった。
「えー……けど……たおせるよ……?」
少し迷ってたけど、ライラのその声で決めた。
「うん、戻ろう」
ブーイングは無視する。
「ぼくらは暗がりで攻撃をした、それで敵を倒せた」
「だから、次もできるよね、ね……?」
「気が利く人なら、同じようなことをする」
ぼくらがやったみたいに、暗がりに潜んで待ち受けるミミズを狩りに行く。
お互いに冷静ならいいけど、突発的にぶつかってしまえば敵対する。
「人間同士で殺し合いとか、したくないでしょ?」
敵は、あくまでも怪物のはずだ。
+ + +
戻ったぼくらはお褒めの言葉とやらをもらった、その上で、どれだけノルマ達成に支払うかを聞かれた。
手にした討伐の証は、近くのギルド店へと行けば物々交換できる。
初日にはなかった説明だ。
とても親切。
けど、横でしかめっ面して立ってる騎士の人がいなければ、きっとこういうことは言わなかった。
勤勉さとか誠実を求めちゃいけない。
ぼくらは実質奴隷で、向こうはその監督役だった。
奴隷に対して親切で正直になってもメリットなんてない。
ぼくらが手に入れた触手ミミズの舌は合計で六つだった。
ノルマのための数は四日ごとに八つで、全部を支払ってもまだ届かない。
「……第十一班、ノルマを支払うな?」
「支払いません」
「あ゛あ゛ッ!? わかってんのか、お前は何も支払ってないんだぞ、やるべきことをやってから大言は言え! このダンジョン学校の生徒であれば義務を果たせ!」
「はい、もちろん。けれど、いつ支払うかのその選択権は、ぼくらにあります」
後ろではエマとライラが縮こまっていた。
「貴様ぁ! 国父様への敬意がまるで足りんぞッ!! メシも武器も寝床も与えられた上で踏み倒すつもりかッ!! この不敬者がッッ!」
「まだ期限はありますよね?」
「黙れッ!! ガキがッ! 少しはその足りない脳みそを働かせろっ! 何をどうすればお前らのようなゴミがあと二日でモンスターを狩るつもりだ!」
「僕らはこれで装備を整えます、そのために使います」
「……チッ」
監督官のちいさな舌打ちは、ぼくらの勝利の音でもあった。
彼は、ぼくにそう言わせたくなかった。
意思表示をさせたくなかった。
装備を整えたいとちゃんと表明をすれば、否定することができない。
騎士が横にいる間だけは。
だからこそ、やけにデカい態度と声で脅した。
国父様やら義務やらを大げさに言って、こっちの発言を潰そうとした。
やろうとしていることが見え見えすぎて、なにかの罠かと思ったくらいだった。
「……お前ら第十一班のノルマ期限は、二日後だ」
監督官の表情はとても忌々しそうだった。
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