第8話:即興の歌を書くまで
「父さん、母さん、告白したいことがあるんだ」
ある程度の路上ライブ収入を見込めてきた仁では、ついに自分用のスマホが買えるほどまでになっていた。スマホの動画で検索してたくさんのミュージシャンの歌を聞いていた。お気に入りのアーテイストや曲が発見して次第に増えていった。特に気に入った歌手の曲は、楽器店で譜面を買って勉強した結果、独学で音符から歌詞、コード進行を学んでいった。
「何だ、仁、勿体ぶらず言ってみろ」
「なんでしょうね、あなた、仁の告白なんてどこまで期待するべきなのかしら」
父親の千利と母親の瑞奈の期待する顔の表情を交互で見比べて確かめた後、仁は笑顔で答えた。
「今日から俺は、白紙の五線紙に歌曲が書き込みたいんだ。そうすれば、俺の曲は何時までも後の世の中まで残せるし、その楽譜を見た人へ、俺の曲が知らせられる。そうすれば、素敵な将来が俺に待っていると思えるんだ」
「お前がそう望むなら、是非やってみなさい」千利は言った。「お前を学校へ通わせられなかったことを今でも俺は後悔している。しかし、これからお前は自力で未来を切り開く武器でちゃんと備えて世の中を戦えるんだな。きっとお前なら、俺以上に豊かな出世が出来るだろう。だから、くれぐれも俺みたいにだけなるなよ」
「そうよ、仁」瑞奈は言った。「もし仁が売れっ子歌手になっても、あなたは私たちの子供だから何時までも応援して追い掛け続けるわ」
「父さん、それに母さん、ありがとう」仁は言った。「これは俺からの要望であるけど、良ければ最初の譜面の書き始めを見守ってくれないか?」
「そう言われたらするのが当たり前だ、仁」千利は言った。「お前の活躍を一瞬たりとも見逃して溜まるか!」
「一息に書きなさいね」瑞奈は言った。「あなたの想像赴くままに楽譜は書き記していきなさい」
それから仁では、自分の新しい手提げバックの中身から取り出した白紙の五線紙を自室部屋の簡素な机の上へ置いた。そして、懐からインクの出る万年筆を取り出す。曲の型は頭の中にすっかり出来上がっているため、書き直しの心配は一切ないだろう。
「行くよ、父さん、母さん! 貧しい我が家の繁栄のために!」
「「貧しい我が家の繁栄のために!」」
そう言い誓い合ってから仁が白紙の五線紙へ、最初の四分音符を書き記し出した。
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