第3話:労働時間にすること

 安藤仁と佐久間新庄の二人は仕事場で働く間際、よく休憩を一緒で仲良く取ったりしていた。


 彼らの主な仕事内容とは、灯油ボトルの蓋を作る際、そのためで蓋のパーツ同士を組み合わせて大量で納品すると言う珍しくも地味な作業だった。会社の面接でアルバイトを名乗り出た安藤は、学歴のない彼にでもできる仕事を用意された結果だった。しかし、この仕事を嫌いへ思わなかった安藤が、路上ライブへ資金集めをしたい理由で大して不満を抱かなかった。だが、佐久間新庄には、いずれ転職してより多くの儲けで増やせる仕事を見つけたいと語っていた。

 

 十六歳当時の安藤仁にとってもっとも恵まれたことでは、今まで古いアコースティックギターを両親から売り出されなかったことである。家のアコースティックギターを大事そうで弾く仁の姿を、両親では台無しにしたくない固い想いが強くあった。その理由として、仁は即興の自作曲で弾ける特技を持ち合わせていたからだった。その姿勢を彼の両親では快く評価して受け入れてくれてもらえたのだった。その一本の安いギターこそが、幼い頃からの安藤仁にとって唯一無二の遊び道具なのだった。しかし、そのアコースティックギターの弦は一本切れて弾けなくなってしまった。その頃から仁ではギターの弦を張り替えることさえ困難な貧しい家庭事情のため、無学歴で働ける仕事探しを必要であった。そうして、この任された労働仕事さながらで仁は、佐久間新庄という若くて年の離れた頼もしい労働パートナーに巡り逢えたのだった。


「それでは、仕事開始!」


 午後の仕事開始の合図と共に、それまで休憩場から戻ってきていた安藤仁と佐久間新庄の二人は、それぞれの作業机に白い使い古しの厚手の作業シートが引かれ出していった。そこに大量の灯油口用の蓋の部品が押し流されて広げられる。未完成の蓋に外枠のワッカ状の部品が手作業に填め込まれていき、周辺の労働関係者の意識が向かい合い出す。彼らが填め込み集められた灯油蓋の納品に作業の漏れがないか検査して箱詰めまで実行する。


 週に平日五日、日中は休憩と食事弁当以外、灯油蓋のはめ込みと納品用の段ボールの詰め込みで作業を追われ出す。安藤では段ボールに詰め込まれた代物が壁際に並べて、それが運び込まれたトラックの荷台に置くまで積め込むための仕事の指導が任されてある。これは年少の彼の役目にしたら凄い信頼の立場だった。労働者不足の影響なのかもしれない。一方の佐久間は、納品する段ボールの内容から明細書で記録を書いて、トラック業者へ書いた納品書類の内容を手渡す現場事務的な仕事で一任されてあった。


 明らかな単純労働ではある。


 しかし、安藤仁と佐久間新庄同士の仲はとても良く、お互いでタッグを組んで働く効率の良い連帯感を発揮し出しており、他の仕事仲間からの人望も厚かった。安藤仁と佐久間新庄の熱心な仕事ぶりは、労働会社から比較的有能なふうに評価されている。二人の有能者の作業のおかげで、灯油のはめ込み蓋送りの仕事は滞りなく問題なく進んでいくのだった。


 それについて、家が貧しい仁にとってはまさに天職のようだと思っていた。今まで過去自分の貧しい生活の立場と関係なく能力では正式に評価された結果があった。そうした彼のあまりもの貧しさと無縁そうな労働社会で参加し続けられる一連の体験は、素直に嬉しいことだと思える気持ちがあったのだ。

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