第2話:地味な仕事の休憩場所

「安藤、お前独りが貧しいわけじゃないんだ、俺には貧しい人間の知り合いが多い」


 アルバイト仕事の休み時間中、安藤仁は会話していた仕事仲間と休憩場所で過ごしていた。そこは喫煙所である。しかし、安藤仁では煙草を吸わなかった。彼は未成年だし、相手は佐久間新庄さくましんじょうという二十八歳の若いおっさんだ。そのおっさんが言ったことへ視線を預けていた安藤では意外そうな顔つきになった。


「貧しいのは、俺だけではないのか」


「そうだ。それに俺の吸うたばこさえ買えない奴はいる。ちょっとぐらいなら、お前も吸ってみないか?」


「いいえ、やめておきます」


「いいじゃんか、ちょっとぐらい」


「俺にはある趣味があります。だから佐久間さんの行為は遠慮しておきます」


「一体何だ、その趣味は」といった佐久間の気にする視線、安藤はただ純粋に口から出す言葉が詰まらず出てきた。


「歌うことです、そのため声は駄目にしたくないんです」


「どこかで歌を披露しているのか?」


「歌うことぐらいはどこでもできます。あくまで今のところは趣味ですから」


「何かしら楽器は弾けるのか?」


「アコースティックギタ―を一本持っています。本当は、路上ライブで活躍したいのですけど、資金はありません。何せ、自宅用のアコースティックギターの弦を張り替える資金さえないほど貧しい生活ですから」


「そうか、そのアコースティックギターへ弾きたい夢があるから、ここには働き口で努めていたいんだな」


「その通りです」安藤は答えた。「近頃で、ここのアルバイトから必要な資金を集められます。そうなれば仕事を止めて路上ライブの方へ向かえます」


「近頃なんて言うが、あとどれくらい働くつもりなんだ」


「後一か月ほどです」


「……それからバンドメンバーは、どこで集めるつもりなんだ?」


「地元の楽器店屋に張り紙があります」安藤は答えた。「その募集口でバンドメンバーは受け付けていて得られるそうなんで問題はありません」


「それなら、曲を歌うためで作曲者を募集するのか? 正直言って大変だと思うぞ」


「その心配はいりません」安藤は答えた。「俺に曲は即興で作れます。後では、それを披露する人員さえ集められたら何も問題ありません」

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