第8話 勧誘
私がこの国に来て1月が経過した。今が幸せすぎて、ときどき元の世界に戻るのでないかという恐怖で金縛りになる。寝起きは汗をビッショリかくことも多い。
私は基本的に住居と学校の往復しかしないからこの世界にも慣れてきた。学校には化学クラブがあるから入部しようと思ったら、昼食後に校長室に来るように言われた。そこにはアラフォーのちょっと小太りな女性が私の顔を見ると話しかけてきた
「マヤ様ですね。私は科学省で国家最高研究機関の責任者をしているカザンヌ・オータンと申します。放課後でいいのですが国家最高研究機関で働いてもらえませんか。それなりに報酬は出せますよ。安心してください、ジャバル様とセレスト様の許可は得ています。お二人からは本人が望めば許可するが、無理強いをするなと言われてます。そこで私が来ました」
「化学実験をしてみたいと思ってました。仮面は付けたままでいいですか?それさえよければいいですよ」
「もちろんです。仮面のことはジャバル様から聞いてます。他に気になることがありますか?」
「何時まで働くのですか?」
「時間は自由です。学業に支障のない時間に帰っていただければいいです。もちろん送り迎えはします。ジャバル様に一人にすることを固く禁じられてますからね」
「ユートリには何と言おうかなあ?」
「それは大丈夫です。セレスト様が言い聞かせるそうです」
「だったら懸念することはありません。よろしくお願いします」
話が決まったので教室に帰ろうと立ち上がると
「あーーーーくそ女、先を越されたーーーー!!」
「ほほほ、マヤ様には来ていただくことになりましたわ」
「ちょっと待て!昨日ジャバル様とセレスト様は二人で一緒に行くように言われたぞ」
「あら!あなただって私を誘ってないわよ。一人で来たじゃないのよ。私急ぐので失礼するわ」
「帰るな!まさか科学大臣が自ら来るとは思わなかった。お前も座れ!ジャバル様に言うぞ!」
「あなたも部下に任せないで自分で来たのね。いい判断よ。でもどうするかはマヤ様に任せるように命令されてますよ」
「マヤ様失礼しました。私は魔法省大臣のレオポル・ロランといいます。実はあなたの魔法を使って魔物退治を手伝っていただきたいのです。近年魔物が増えまして被害が拡大してます。あなたほどの魔力のある者は10年いや100年に一人しか出ません。どうかご協力ください。それに見合う報酬は出します。将来のため今のうちに貯金したほうがいいですよ」
「魔物ですか?それは私に倒すことができますか?」
「もちろんです。根こそぎ炭になった木を見ました。あんな魔法を使うのは宮廷魔道士でもいませんよ、しかも無詠唱なんてありえません」
「わかりました。お役に立てるなら協力します。でも時間が?」
「我々で時間調整しますからご安心ください。もちろん送り迎えします」
ニコニコ顔で二人は出て行かれた。
「こら!レオポル!マヤ様の力を軍事に使ったら、わかってるわよね!国王から即刻処刑されるわよ」
「くそ女、お前だって同じだぞ。兵器を作らせたら死刑だからな」
「わかってるわよ。本当はそのつもりだったんだけど。ちょっと話したら国王と王妃が本気で私を睨んで『墓場に行く覚悟はできてるな』って言うんだもの怖くてそんなことできないわ」
「お前もか。儂は王妃様から『一族郎党を処刑台に送るけどそれでもいいの?』と言われたぞ。あんな怖い王妃様は初めて見たぞ」
「王妃様はまるで自分の娘のように扱われてるわ。話してみたら普通の子よ。そこまでの魅力があるのかしら?」
「俺は思うがあの仮面の下に秘密があると思うぞ。化け物も驚くほどのものがあるはずだ。仮面の下が知りたくてウズウズするぞ。きっと軍事兵器になるものだぞ」
「わたしもそう思ったわ。あれほど隠すことはあり得ないものね」
「ああ、だが油断するな。俺たちは国王からみればただのパーツだ。軍事利用はもうすこし先でもいい」
「あなたと私は替えが利くけど、彼女の替えはいないということね」
「だが国王の話を聞く限り知識だけではないようだ。ほかにもある気がする?」
「いいところに気づいたわね。どうもユートリ様が御執心らしいわ。私も彼を狙っていたのよ。もう少し痩せたら彼の子供を産むんだけどね」
「やめてくれ。気持ち悪い」
お二人が帰ったので、校長に『授業に戻ります』と言ったら、『もう少しそこにいなさい』というので待っていたら
「突然申し訳ありません。あなたがマヤ様ですか。お会いしたくて申請してたのですがやっと国王の許可がでました」
「あの~、どなた様でしょうか?」
「ああ、失礼しました。ニートン・アレクサンドリアといいます」
「え!有名なニートン教授ですか?」
「いえいえ、あなたに計算間違いを指摘された老いぼれですよ」
「あれですか?大学受験用の問題集も見ていたので気づきました」
「あれを発表してまだ1年ちょっとしか経ってないですぞ。いやはや長生きはしてみるもんだ。さきほど科学大臣に会いました。儂も現役復帰して国家最高研究機関に戻りますから一緒に研究してくださらないか?」
「私のような者でいいのですか?」
「とんでもない。儂こそお願いしたい」
「役に立てるかわかりませんが、がんばってみます」
「来た甲斐があった。明日から久しぶりに忙しくなりそうだ。では研究機関でお会いしましょう」
国王は『国家最高研究機関に戻ること、マヤ様とは軍事研究をしないこと、仮面の下を暴こうとしないこと』これを守るなら面会を許すと言われた。現役時代の儂には他国に負けない兵器を発明しろと催促された国王の変わりようはどうしたものか。あれほどの知識がある子であれば儂が断念した核兵器すら発明することができるかもしれんというのに。まあいい孫の生活の役に立つ研究でもするかの。
「はー。昼休みがなくなった。でも必要とされるのは嬉しい」
やっと安心してこの世界で過ごすことができるようになった。
でもまだ仮面は外せない。
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