電車で寝てしまったら、いつの間にか異世界の馬車に乗っていた。日本では醜いと言われて仮面を付けていた。そんな私を好きだと言ってくれる人がいた。
まとゆく
第1話 気が付けば異世界
私は麻丘麻耶、反美高校2年生、初夏の太陽が眩しい。今日も学校に行くのが辛い。電車から見えるビル群は畑に変わり2時間をかけて田舎の公立高校に通う。超進学校で古い校風のこの学校は今でもセーラー服でリボンも自分で結ぶ。ここでも私は入学初日に有名になった。電車の中でまたひそひそ話し声がする。もう慣れた反応だ。
~入学式~
「ねえ、あの子仮面を被っているわよ」
「知ってるわ。あの子有名よ。生まれたときから被ってるらしいよ。私は嫌だな。仮面被ってまで人並みの顔になりたいのかなあ」
「昨日の伯爵仮面と同じ結末かもね」
「確かあの番組は昨日最終回だったわよね。王子が『伯爵の仮面を取ったら、本当に醜かったのか。ドブス』と言って別れるシーンは感動したわ」
「そうよね。最後のシーンは圧巻だったわ」
「わかるわ。王子の手にあった本よね。『醜いアヒルの子』でしょ」
「本当にいい話だったわ。ある意味裏切られたわ。醜い子だから仮面を付けて育てられたのだけど仮面の下は本当に酷く醜い子だったのよ。私は最後は醜いアヒルの子のように仮面の下は美しい女性だと思っていたわ」
私の両親と私には血の繋がりはない。私は特別養子縁組でもらわれた。もう家に帰るのも嫌になる。両親は毎日のように喧嘩をしている。きっと今日も喧嘩をしているんだろう。
「あなたがあんな子を貰ってくるからこんな辛い目にあってるのよ」
「お前だって賛成しただろ」
「こうなるとは思わなかったのよ」
「二人で面接してもらったんだから仕方ないだろう」
「あのときは赤ん坊で他の子と同じように猿顔だったのよ」
「あたりまえだろう。赤ん坊のときはみんな猿顔だ」
「でも、そのまま私達のように綺麗に変化しなかったわ」
「だから、仮面をつけさせているだろう」
「そろそろあの子が帰ってくるわ。これ以上近所の人から馬鹿にされるのは嫌だわ。もうあの子に出て行ってもらわない!!!」
「そうだな!!二人の幸せのために今度こそ醜くない子をもらってこよう!!!」
“キンコンカンコーン、キンコンカンコーーーーン”
「はー!」
(また2時間電車に揺られるのか……)
「ねえ、あの子……もしかして」
電車の中でまたひそひそ話す声がする。
人目を気にしなくて済むどこか違う世界に行きたい。
このまま電車から飛び降りたら違う世界に行けるかなー?
『帰りは……泣きすぎたかも……疲れた……とても眠い』
「あーーーーー!!寝過ぎたわ!」
ここは何処?
廻りを見渡せば中世ヨーロッパのような服装をしている人たちが?
「ドン」
「痛い!」
「お嬢さん、馬車に乗るときは厚手の生地を尻に敷かないと跳ねたときに痛いよ」
正面に座ってる中年の紳士が声をかけてくれた。
廻りをよく見ると赤レンガの建物が並ぶ。それに他の客の服装も中世風のものだ。
私が乗っているのは電車ではなく乗り合い馬車のようだ。いつの間にか電車から馬車に乗り変わっている。私の住んでいた日本とは違う世界であることはひと目で理解できた。だが不思議と違和感はない。それにほかの乗車客も私と同じ顔のつくりをしている。私はどうせ家に帰る気はなかったから夢でないことを願った。
「あのう、すみません、私はいつからこの馬車に乗っていましたか?」
中年の紳士に尋ねた。
「そういえば、お嬢さんはどこから乗ったかな?」
誰も私がどこから乗ったのか憶えていない。
カバンは……あった。
中味は……今日の授業で使った教科書が入っている。スカートもリボンそのままだ。スマホもあるけど電池切れだ。不思議なこともあるものだ。でも日本に戻る気などさらさらない。あそこは上辺だけ平等で私にとっては差別が酷い国だった。
「あ、仮面がない!!!」
私が仮面を捜していると
中年の紳士は笑いながら、答えてくれた。
「君の服装は見たことがないし、面白い仮面を付けていたから悪いと思ったけど仮面が外れていたので、素顔を見てしまったよ。ヨダレが垂れていたのは記憶から無くしたから気にしないでくれ」
「それはすみません。醜いものを見せてしまいました。ほんとにすみません」
「仮面はどこにありますか」
「頭の上にあるよ」
は、恥ずかしい。私はすぐに仮面を被った。
「そんなにあわてて仮面をしなくてもいいよ。それに君はそんな面白い仮面をつけなくても人の気を引くことはできるよ」
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