ビルの歌を聴け

エフエム

第1話ピーターキャット

 僕は今、失業中だ。

 五反田の街で悪友のクマネズミとバー「ピーターキャット 」でハイネケンのビールを飲んでいる。店内では『Kind of Blue』がかかっていた。悪くない。

 僕はクマネズミに聞いた。

「ビールとビルメンの共通点が何かわかるかい?」

 しばし考えたあと、クマネズミは

「知るわけがないだろう。興味もないね。So What?ってわけさ」

 と答えて、マイルスのトランペットソロを口笛で吹き始めた。

 僕はグラスに残ったビールを飲み干してこう言った。

「ビールもビルメンの職歴も、小便になって流れちまうってところさ。そこには何もあとくされがない。また新しいグラスに新しいビールを注げばいい。そんなふうに、ビルメンをやめたら新しい会社でビルメンになればいいだけさ」

 クマネズミは顔色ひとつ変えず、今度はコルトレーンのソロを口笛で吹いた。

 愛想のない奴だな、やれやれ。

 僕は明日、新しいビルメン会社の面接を受ける。

 現場は商業施設だそうだ。一般的には激務現場とされている。

「完璧な保守現場などといったものは存在しない、完璧な絶望が存在しないようにね」

 クマネズミにそう言って、僕は店を出た。

 帰り道、シャッターの降りたレコード店の前で「Jumpin' Jack Flash」をかけながら踊っている女の子を見かけた。

 僕は彼女の素敵な耳の形としなやかなダンスにひかれた。

 まるで、ジム・ジャームッシュの映画に迷い込んだような気分だ。


 つづく?

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