5.どうして

 春日野圭祐を知ったのは、桐花が話をしていたからだ。背が高くて、かっこよくて、好きな人はという話題を女の子の間で出したら、だいたい名前が出てくるような人。困ってたら助けてくれたとか、笑顔で会話してくれたとか、見た目だけじゃなくてそういうところもきっと、良いところなのだろう。

 でも、佳鈴は「いいひとだね」と、それくらいしか思えない。

 だって困っていたら助けてくれたのは、桐花だった。笑顔で会話をしてくれたのは、桐花だった。

 合格発表の日、桐花の名前を呼んでいたのは圭祐で、桐花と一緒に帰っているのもよく見かけた。付き合ってるのかな、なんて噂をされても、ふたりともそれを肯定しなかった。

 それでも、見かけるともやもやしたものが佳鈴の中に生まれて消える。それも桐花が笑いかけてくれれば消えるものではあったけれど、花が萎れていくのは圭祐のせいだった。

「どうして、春日野君が喜ぶの?」

 ケーキをひとくち。

 ショートケーキが好き。イチゴが好き。真っ白と、つやつやの真っ赤と、甘味と酸味。

「圭祐、佳鈴さんみたいな子が好きだから。ふわふわで、かわいくて」

 大好きなショートケーキを、大好きな桐花と食べている。

 それなのにどうして、すっかり味がしなくなってしまったのだろう。味のないガムでも噛んでいるような、そんな気持ちになってしまったのだろう。

「佳鈴さんは、圭祐のこと、どう? 私はお似合いだと思うけど」

 どうして。

 今日は桐花と出かける日。かわいいスカートを買って、ケーキを食べて。佳鈴のしたいことをしようよって言ってくれるから、桐花ちゃんはいいのって聞けば、佳鈴さんが楽しければいいって言ってくれるから。

 すごくすごく楽しみにしていた日だった、はずなのに。

「そう、かな」

 普通の女の子だったら、ここで付き合ってみようかなとか、そういうことを言うのだろうか。

 でも。でも。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る