1.女の子は砂糖菓子

 What are little girls made of?

 What are little girls made of?

 Sugar and spice

 And all that's nice,

 That's what little girls are made of.

         ――What Are Little Boys Made Of?


 ふわりと広がるフレアスカート、唇には愛らしいピンクのリップ。ふわふわとした長い髪をなびかせて、くるりと一回転。ねえこのスカートはどうかしらと彼女に問えば、彼女はほんの少しだけ笑って「いいね」と言った。

 色とりどりのスカートは、花びらのようだった。一緒に買い物に行きましょうと可愛らしくおねだりをしたら、彼女は仕方ないなとでも言うように肩を竦めて「いいよ」と言ってくれた。

 これがデートの練習みたいだなんて、浮かれていたのはきっと佳鈴かりんだけなのだ。そもそも彼女にとってこれは、友達と出かける以上の意味はない。

「ねえ、桐花とうかちゃん。この色はどう?」

「どう? どうかな……佳鈴さんにはもっと淡い色の方が似合うと思うけど」

 今着ているスカートは、明るい黄色。菜の花みたいな色はとても綺麗だけれど、確かに佳鈴が着こなすには、色が明るすぎるかもしれない。

 手に持ったのは、淡い桜みたいなピンク色と、それから真夏の空みたいな青い色。こっちだねと桐花が綺麗に整えられた爪の先でピンク色の方を示した。

 桐花の爪は真っ直ぐで、長くて、佳鈴の小さくて丸い爪とは違う。真っ赤なマニキュアを塗ったらきっと綺麗なのだろうなと、そんな風に思える爪は佳鈴にはないものだ。

「じゃあ、こっちにする!」

 しゃっと更衣室のカーテンを閉めて、スカートを履き替える。ふわりと薄いピンク色のスカートが広がった。

 鏡を見る。きっとこれが、一番可愛い。

 更衣室のカーテンを開ければ、桐花はすぐ近くにあった服を見ている様子だった。パフスリーブの白いシャツは、胸元にもフリルがある。

「桐花ちゃん」

「あ、着替え終わった?」

 声をかければ、桐花が振り返る。

 真っ直ぐな黒い髪は顎くらいのところで真っ直ぐに切られている。その上には、白と青のキャップ。だぼっとした大きなTシャツに、黒のパンツ。

 今日も最高にかっこいいだなんて、佳鈴がそんなことを思っているのは秘密だ。

「どうかな」

「うん、いいな」

「そっか、じゃあこれにする!」

 桐花が褒めてくれるのが嬉しくて、佳鈴は自分にできる最高の笑顔を彼女に見せる。着替えて、他の色は返して、ピンク色のスカートだけを買うことにした。

 この後は桐花と一緒にケーキを食べて、と思っているけれど、桐花は本当にこれが楽しいのだろうかと不安にはなる。会計を済ませて店を出れば、桐花は壁にもたれてスマートフォンの画面を見ていた。

「桐花ちゃん」

「あ、終わった?」

「うん。ねえ、本当にこの後はケーキで良いの?」

 本当に良いのかと不安になって、桐花に問いかける。

 ヒールのある靴を佳鈴がはくと、頭ひとつぶんくらい佳鈴の方が背が高くなる。もともとあまり背が高くない桐花と少し背が高い佳鈴では、ヒールの分を入れるとどうしてもそうなってしまう。

 桐花がキャップの下から、じっと佳鈴の顔を見上げていた。

「なんで?」

「いつも私に付き合わせてるから」

「いいんだよ。佳鈴さんが嬉しそうなのが、一番楽しいから」

 いつもすました顔をしているのに、桐花はこういう時にはにこりと笑う。口の端から覗いた八重歯が、なんだか少し幼く見えた。

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