第28話 聖女と魔王


「おいヨシヒコ!最近ヒトミとは会ってないのか?」

「あぁ、、会ってないな」

「そうかそれでいい、もう忘れろ」

「そうしたいんだがな」

「俺は忘れることにする」

 ケンイチロウはそう言うと避けるように校舎へと走っていった。

「俺は忘れられないよ、この疼きは魔王のものだから」

 勇者の手は握りしめられていた。



「やあ勇者君!元気かい?」

「はい!クオンさんも元気ですか?」

「仕事が忙しくてね、特にダンジョンでだけどさ」

「そうなんですね」

「まぁ、来週からはダンジョンも公開されるしヨシヒコ君も冒険者になるんだろう?」

「僕は」

「あぁ、ならなくてもいいんだよ?自分の行きたい道を行けば」

「はい」

「あはは、これじゃ変な感じだな!高校も後何ヶ月かだろ?進路は決まったかい?」

「そうですね、大学に行こうと思ってます」

「おう!流石だな!」

「普通に生活しようかなって」

「ああ、それがいいと思うよ」

「あはは、そうですよね」

「そうそう!あっちでのことは気にすんな」

「はい!」

「あ、今度会って話さないか?」

「いいですね」

「じゃあ来週の木曜日に月和光終わる頃に迎えに行くよ」

「来週ですねわかりました」

「試験勉強頑張ってな!」

「はい!クオンさんも仕事頑張ってくださいね」

「おう!じゃあな」

「はい」

 と電話を切る。

 そうか勇者君は吹っ切って大学に行くのか!聖女が邪魔しなければいいがな!

 と真っ黒のスキル玉を持つ。

 これは勇者君にお守りで渡しておこう。


 次の週はお祭り騒ぎだった。

 初めてのギルドは大盛況でやはり水晶に触ってガッカリしてる人や嬉しがってる人がいた。

 ダンジョン用の防具や武器もそれなりの値段がするのに買っていく人が多く、ダンジョンに早速潜ってる人も多かった。

 その日売りに出したものは全て無くなり。

 追加分を出すことになったし、素材を売りに来てくれる冒険者もいて大満足な1日になった。

 その週は学校の空き地に車を停めに課の奴らを会社に送ってから勇者君に会いに行くため勇者君の通う学校まで迎えに行く。


「お久しぶりです」

「あぁ、そっちは賢者君か」

「お久しぶりです、どうしたんですか?ヨシヒコなんか呼び出して」

「そうか。いや、一緒に話をしよう。乗ってくれ」

「はい」


 俺は焼肉屋に連れて行った。

「やっぱり学生なら焼肉だろ?」

「あはは。いいんですか?」

「これでも働いてるからじゃんじゃん頼みなよ」

「「はい」」

 二人の学校の様子などを聞くとやはり学生だなぁと思う。こんな子供達に、俺はあれを渡すのか。しかし渡さないわけには行かないからな。この子達の未来のためにも。



「いやぁ、食べたな!」

「はい!ご馳走様でした」

「ご馳走様です。なんのために呼んだのかそろそろ話してもらえないか?」

「まぁそう急ぐなよ」


「ダンジョン?」

「そうだここがギルドで冒険者が闊歩しているだろ?」

「どうしてここに?」

「勇者君にこれを、開けるなよ?」

「はい」

 真っ黒のスキル玉を渡す。

「聖女はなぜだか魔王のスキルまでとってしまったようだからな」

「「なっ!」」

「今のあいつは無敵だ。魔王のスキルで勇者の攻撃しか効かないはずが聖女のスキルで癒してしまう」

「そんな!じゃあやっぱりこの疼きは」

「魔王がこの世界にいるからだろうな」

「やはり置いてくるべきだったか」


「そのスキル玉はお守りだ。必ず勇者の君に近付いてくると思うからそれを開けさせることができれば」

「俺らの勝ちですか?」

「そうなってくれるといいけどね」

「それは一つしかないからこれも渡しておこう」

「これは?」

「収納だ」

「はい」

 勇者君はスキル玉を開けて収納を習得すると真っ黒のスキル玉を収納した。

「敵わないと思ったら逃げるべきだ」

「なんて厄介なんだ」

 そうだろ?厄介なんだよ。

「まぁそんなわけでこうして会いに来たんだ」

「ありがとうございます」

「あの野郎どこまでも」

「賢者君、君は強いかもしれないが相手は不死身に近い。だから向かって行くなよ」

「…分かってます!」

「それだけだ、じゃあ送っていくよ」

「「はい」」


「それじゃあな」

「あの!このスキルの中身は?」

「それは聞かない方がいい」

「…わかりました」

「今度こそじゃあな!」

「はい」


 もう一つくらい作れないかな?

 俺の方がエンカウントが多いのだが。

 運転をしながら考える。

 聖女にはもう戻るべき道はないのか?

 いくつもの道を考えても魔王がネックだな。

 あれさえ消せれば…


 次の日はいつものように課の奴らを送ってから今まで溜まっているスキル玉を精査していく。

 必ず何かできるはずだと信じて。


 それから一ヶ月後には2個目のダンジョンがお披露目されこちらも人が多い。こちらの生産もフル稼働で行っているがなかなか間に合わないので、ドロップ品も売りに出す。


 そして三つ目のダンジョンが音を立てた。

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