第15話 セリカ姫視点

 

 私は、森の精霊様から加護を頂き、精霊魔法が使えるようになってしまった。


 魔法が使えるようになっただけでも嬉しいのに、まさかの精霊魔法。


 精霊魔法は、精霊に愛されているハイエルフにしか使う事が出来ない伝説の魔法。


 しかも、森の精霊様は、私達が古代エルフ語が全く分からないと知ると、精霊王の加護を与えた一人一人に優しく精霊魔法の使い方(コマンド操作)を教えて下さったのである。


 森の精霊様は、どれだけお優しいのであろう。

 古代エルフ文字が全く分からなくても、目の前に現れるコマンドのどれを押せば、攻撃できるとか、防御できるとか、魔法を使えるとか、手取り足取り教えてくれたのである。


 古代エルフ文字の読み書きは出来ないが、言葉は理解できるオットンが、コマンドに書いてる文字を精霊様にお聞きになり、私も、オットンを通じて、【こうげき】【ぼうぎょ】【じゅもん】【にげる】という、古代エルフ文字を覚える事ができた。


 私の侍女のマリンに至っては、カーランド城に到着する頃には、もう、古代エルフ語で森の精霊様と意思疎通が出来るようになってたので驚きである。

 私も、古代エルフ語の勉強を頑張らなければ。


 それから、カーランド城に向かう馬車の中でも、森の精霊様は私の肩に乗り、ずっと寄り添って下さった。

 私の父親である、カーランド王が、病気で今にも亡くなりそうだと聞いて、私を慰めようとして下さったに違いない。本当に、森の精霊様は優しい方なのである。


 そして、カーランド城に到着すると、なんだか城の中が慌ただしい。


 聞き耳を立てていると、カーランド王が亡くなったという話が耳に入ってきた。


 私は、物凄く焦るが、慌てないように心を鎮める。

 そう、私は、エリクサーを手に入れているのだ。

 お父様が亡くなってしまったとしても、まだ1日しか経ってないのだ。

 エリクサーを持ってすれば、必ず生き返る筈。


 だけれども、少しだけ懸念もある。

 そう、エリクサーは、善人にしか効かないのだ。


 私やオットンには、抜群の効果をもたらしたが、私の侍女のマリンが、エリクサーの泉を浴びても、何も起こらなかったのである。


 だけれども、絶対に大丈夫だ。


 私の父親でアルフォード・カーランドは、賢王と呼ばれている名君。善人じゃない筈がない。


 私は、必死で平静を装う。

 どうやら、城ではかん口令が引かれているようだし。

 私が慌ててしまえば、城に居る者達に、王が死んでしまった事を伝える事となってしまうのだ。


 私は、泣いてしまいそうなのを必死に我慢する。


 そして、王の寝所に到着すると、


「姫様!と、エッ!?精霊王様……」


 カーランド王国の宰相であり、ハイエルフであるリーフが、イキナリ、森の精霊様に向かって土下座した。


 突然の事に、私は驚いてしまう。


 カーランド王国の頭脳と言われているリーフは、表情を顔に出さない人物だからか、とても冷たい感じがする人なのだ。余りに、顔が整ってるという理由もあるけれど。

 そしてプライドも高く、決して、人間に頭を下げるタイプじゃないのである。


 リーフが頭を下げるのは、王族に対してだけ。それなのに、森の精霊様を見た途端、躊躇なく、完璧なフォームの土下座をしたのである。


「リーフ様、父の容態はどうなっていらっしゃるのですか?」


 私は、今一番知りたい事を、リーフに尋ねる。


【はは~!王は昨晩お亡くなりになりました~】


 だけれども、リーフは、私の顔など一切見ずに、森の精霊様に土下座したまま、古代エルフ語で答えた。

 どうやら、ハイエルフのリーフにとって、カーランド王国の王の死より、森の精霊様の方がとても重要な方なのだろう。


 まあ、森の精霊様なら、死人でも簡単に生き返せてしまえると、ハイエルフのリーフは知ってるからかも知れないけど。


 ん? 父が死んでる前提?


 リーフに聞かなくても分かってしまった。

 ベッドの横でお母様が、目を真っ赤に腫らして気丈に立ってるし。

 お母様は、決して人前では涙を見せない方なのだ。そのお母様が泣いていたという事は、そういう事なのだ。


 でも、森の精霊様が、エリクサーが効かなくても、最悪、オットンや、兵士達を生き返らせてくれた精霊魔法で生き返らせてくれるだろうと思っても、流石に、実の父親が死んでしまってとても悲しい。


 早く、お父様の顔が見たい。


 だけれども、この国の宰相が、この世界で最大の敬意を表す時に示す土下座をしてしまっているのだ。

 例え、父お父様が死んでしまってるかもしれなくても、この場から動く事などできない。


 リーフは、汗をダラダラ垂らしながら、必死に森の精霊様と話している。


 やはり、森の精霊様は、とても高貴な方だったのだ。

 自分達の事を、高貴な種族だと思っていて、決して他の人種に対して頭を下げないハイエルフが、頭を床に擦り付けて話してるのだ。


 その光景を見て、集まっている国の重鎮達も、リーフの様子を固唾を呑んで見守ってる。


 5分ぐらい経っただろうか、突然、リーフが土下座したまま動き出し、森の精霊様を案内するかのように、カーランド王であるお父様の元に進んで行く。


 やっと、お父様の元に行ける。


「お父様!」


 私は、お父様の枕元に駆け寄る。

 顔は真っ青を通り越して、真っ白。頬も物凄く痩けてガリガリになって、冷たくなっている。

 1ヶ月前までは、戦場を自ら駆け回っていたのに、どうして……


 思わず、瞳に涙が溢れてくる。

 どうして、お父様は死ななくてはならなかったのか?

 完全に、お父様は毒を盛られてたか、呪いを受けていた。


 先程まで、気丈に立っていたお母様も、私が瞳に涙を溜めてる様子を見て、再び、我慢できずに泣いてしまっている。


 下の妹、弟は、お父様の死を理解してないのか、キョトンとしてる。


 いつまでも、泣いてる訳にはいかない。

 私は、この国の第一王女としてやるべき事があるのだ。


 まず、やらなければならない事は、皆を安心させる事。


 最初は、一番悲しいであろう、お母様を慰めなければ。森の精霊様が、私にしてくれたように。早く、必死に気丈に振舞ってるお母様を、悲しみから解放してあげたいのである。


 そして、今の私には、それが出来る。


「お父様! 私はやりました!森の泉に見事、到達して、精霊様に、森の泉を頂けたのです!」


 私の言葉に、お父様の死に立ち会っていたであろう、国の重鎮達がざわめき始める。


 お母様も、まさかという顔をして、私の顔を見ている。

 大丈夫だよ、お母様。安心して見ていて。私が、お父様を必ず救ってみせるから。


 ここまで来たら、後は、死んでしまってるお父様に、エリクサーを振り掛けるだけ。

 頼むから、善人であってくれと祈りながら、お父様にエリクサーを振り掛ける。


 だけど……


 お父様は、一向に起き上がらない。

 青白い顔のまま。


 お父様は、善人では無かった……


 私は、絶望感に打ちのめされる。


 エリクサーを振り掛けても、一向に回復しない王を見て、固唾を呑んで見守っていた国の重鎮達もざわつき始める。


「エリクサーというのは嘘偽りで、ただの水だったんじゃないのか?」


「残念王女は、父の死までも愚弄するのか!」


 私に対する罵詈雑言が、耳に入ってくる。

 逃げたしたい……


 私は、エリクサーを手に入れ、魔法も使えるようになり、更に、伝説の精霊魔法まで使えるようになって調子に乗っていたのだ。


 全て、自分の力ではなく、森の精霊様のお陰だったというのに……

 なんて、私は、浅ましい人間なのだろう。

 自信満々で、お父様をエリクサーで治してみせるような事を、高々に皆に言ってしまうなんて。


 エリクサーが、悪人には効かないという事は、既に分かっていたのだ。

 賢王と国民に称えられている我が父が、まさか善人じゃないなんて夢にも思わなかったのである。


 自分が愚か過ぎて、涙も出て来ない。

 悔しい。悔し過ぎる。アホ過ぎる自分が嫌になってしまう。

 自分がアホなのは仕方が無い。だけれども、夫が生き返ると思って喜んでいたお母様を、再び悲しましてしまった自分が許せない。


「どこまで残念な王女なんだ」


「水をエリクサーと偽るなんて」


 耐えるしかない。これは自分の罪。

 償わなくてはならない、自分の罪。


 なのだが、


「オオォォォォーー!!」


 罵詈雑言に混ざって、背後から何やら歓声が聞こえる。

 私は、ずっと生き返らなかったお父様の手を握って懺悔してたのだが、そこに、金色の鱗粉が降り掛かる。


 上を見上げると、そこには森の精霊様が、私に、もう大丈夫だよって、言ってるようなとても優しい顔をして、フワリと飛んでらっしゃったのである。


 そして、私に向かって、ウン、ウンと、頷く。


 もう、全てが分かってしまう。

 慈愛溢れる森の精霊様は、私を助けようとして下さってるのだ。

 こんな浅ましくて、愚かな自分を……


「エリクル!」


 森の精霊は、呪文を一言呟く。


 真っ白だったお父様の血色がよくなり、ガリガリだった痩せてしまっていた体がふっくらと蘇り……そして、


 父、カーランド王国、国王アルフォード・カーランドは、パッチリと目を見開いたのであった。


 ーーー


 ここまで読んで下さり、ありがとうございます。


 森の精霊さん視点と、セリカ姫の視点では、相当見解の違いがあるようです。


 それにしても、相変わらず、ドラ○エ魔法は凄まじすぎます。


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