第16話 賢王アルフォード・カーランド視点

 

 ワシはカーランド王国第13代国王アルフォード・カーランドである。


 6年前、突如、この国の大賢者アルツハイマーが、魔の森に出掛けると国を出て行き、あろう事か、魔の森の南側の守護者レッドドラゴンに敗れてから、我が国の東側にあるローランド帝国がちょっかいをかけるようになった。

 そして、遂に、2年前から戦争が始まってしまった。


 最初は、国力が勝るローランド帝国が押していたが、騎士団長オットン、大魔法使いリーフ、そして、賢王であるワシの神の如き采配により、なんとか前線を保っていたのだが、騎士団長のオットンが、大怪我を負い戦線を離脱。ワシも、毒と呪いを掛けられてしまい、日に日に衰弱。戦況も思わしくなくなっている。


 なんとか、精霊魔法が使える宰相で大魔法使いのリーフに、解毒の魔法で、毒は完治できたのだが、如何せん、大魔法使いのリーフの精霊魔法を持ってしても、呪いの解除は出来なかったのである。


 そして、日々、症状は悪化。

 精霊魔法で、HPとかいうものが分かるリーフが、ワシの余命を宣告する。


 余命数日前には、完全に意識が朦朧。

 ワシのベッドの前に、愛娘のセリカが何かを言いに来た気がしたが、もう既に、愛娘の言葉さえ聞き取る事も出来なくなっていた。


 そして、死の宣告日。


 ワシは、王妃と子供達、部下達に見守られて、予定通りに死んだのであった。


 なのじゃが……


 ん?!


 強制的に、パッチリ目が覚めた。

 ワシは、呪いによって死んだのでは無かったのか?


 目の前には、ワシの手をギュッと握り締めている、愛娘のセリカがいる。

 もう、既に、安心しきった表情。


 そして、セリカの後ろには、人の頭位の大きさの、何やら巨大な魔力を秘めた人ならざる存在が浮いてるのが、薄らと見えている。


 一体、何なのだ?ワシは、目を細めてマジマジと観察する。


 すると、宰相のリーフが、慌てた声で、


「恐れながら、申し上げます!アルフォード王を生き返らせて下さったのは、ここにおられます。精霊王様でございます!」


 土下座しながら、教えてくれた。


 なるほど、精霊王か。それならば、ワシが生き返った理由も、リーフが土下座してる理由も分かる。


 しかし、この薄らと見える物体が、本当に精霊王なのか?

 精霊王は、魔の森の中央にあるという聖域の泉を護る為に、決して魔の森からは出て来ないという言い伝えがあるのだが……


「それは、まことか……精霊王殿が、わざわざこの国に来て下さったのか……」


 この見えない物体が、本当に精霊王なのか、それとも得体の知れない邪悪な者なのか、自分には分からない。

 だがしかし、ワシには、聖の象徴である精霊王様であるとは到底思えないのである。

 何か、ドス黒い何かを内に秘めてる気がするのだ。


 実際、大賢者アルツハイマーも、魔の森に出掛ける直前、ワシだけに、何やら魔の森の様子が、おかしいと告げてきていたのであった。


 大賢者アルツハイマーが言うには、魔の森中央付近に邪悪な存在が居る気配がすると言って、ワシに、精霊王様が心配なので、魔の森に行く許可を取りにきていたのであった。(その頃、森の精霊さんは、職業魔王で、闇の魔素を森中にばら蒔いていた)


 そんな事もあり、ワシは、目の前に居る存在が、どうしても精霊様とは思えなかったのだが、


【&✯! TA♡○JA@@@&/TM☆❊!】


 薄らと見える何かが、リーフに向かって何かを言う。


「カーランド王、精霊王様は、セリカ姫に請われて、カーランド王国に来たと仰られてます!」


 と、リーフが、精霊王の言葉を通訳する。


 なんと、この薄い物体は、我が愛娘セリカが連れて来たというのか?

 すると、あの魔法も使えぬセリカが、魔の森に行ったと言うのか?信じられぬ……

 しかし、セリカは嘘を言うような娘じゃないというのは、ワシが一番知っている。


「そうか……セリカが、ワシの為に、あの魔の森に行ってくれたとういのか……」


 セリカの顔を見ると、嘘を言ってるようには見えない。

 自分が魔法を使えないと分かってからは、全く自信を失っていたのだが、今は自信に満ち溢れた表情をしてる。

 きっと、魔の森から、精霊王を連れて来れた事により、自信が戻ったのだろう。

 元々、優秀な娘だったのだ。


「精霊王殿。そして、セリカ。本当に感謝する!」


 ワシは、嬉しくなってしまい、セリカと精霊王に、感謝の言葉を述べる。


 セリカは、今迄の辛かった事を思い出してか号泣してしまう。

 無理もない。元々巨大な魔力を有して生まれて来たので、将来は、大魔法使いか聖女になるのではと、人々に持ち上げられて生きてきたのに、魔法が使えないと分かると、一転、残念王女、顔だけ王女と、罵詈雑言。


 それを、ただひたすら耐えて生きてきた、不憫で、可哀想な娘なのである。


「カーランド王、流石に、お礼の言葉を言うだけでは、精霊王様に失礼だと思います!」


 何故か知らないが、リーフが汗をダラダラ垂らしながら、ワシに向かって、有り得ない殺気を放ってくる。


 何じゃ?ワシに向かって、殺気を放つじゃと?

 もしかして、ワシは精霊王に対しての対応を間違えたという事か?

 ならば、褒美か何かを与えてたら良いじゃろう。


「そうじゃな、そしたら、精霊王殿に褒美を取らせよう!」


 どうじゃ。これで良いじゃろ?

 ワシは、チラリとカーランド王国の頭脳と言われている宰相のリーフを見る。


「違います!カーランド王!精霊王様は神に匹敵する存在です!褒美じゃなくて、貢物です!

 言葉を間違えないで下さいませ!」


 リーフは、殺気を放つだけじゃなく、言葉で直接述べてきた。

 精霊王は、そこまでの存在じゃったのか。

 ここまでリーフが怒るという事は、そうなのじゃろう。

 確かに、リーフは、ずっと精霊王に対して土下座してるしな。


「そ……そうか……」


 肯定の言葉を発すると、リーフの殺気が薄らいだように思える。


「それでは改て、精霊王殿、なんなりと貢物のリクエストを仰ってくださいませ。

 私に出来る範囲ならば、どのような貢物でも献上致しまする」


 ワシの言葉に、精霊王は少し考えている。


 そして、


【♡○↑&@、T☆☆@○♡!】


 精霊王が、言葉を発する。

 リーフの通訳によると、精霊王は、毎月100万ゴルのお小遣いと、それから、セリカと友達になる事を望んでおるようだ。


 これは、貢物というより、逆にご褒美ではないのであろうか?

 即ち、たった100万ゴル程度の端した金で、精霊王が、カーランド王国を守護すると言ってるようなものであるのだ。


 しかも、セリカと友達になるという事は、即ち、精霊王がセリカの後ろ盾になる事を意味する。

 魔法が全く使えないセリカに、精霊王が後ろ盾になるという事は、これ以上、誰もセリカに魔法が使えないなどど、陰口が叩けなくなる事を意味する。


 精霊王は、死んだ者でも簡単に生き返させる事が出来る存在。

 そんな存在の友達となったセリカを、誰が後ろ指させようか。


「そんな貢物で、宜しいので……」


 ちょっと、申し訳なさ過ぎて、もう一度だけ、確認を取ってみる。


「精霊王様は、無欲なのです!」


 精霊王に質問した筈なのに、何故か、リーフが返答する。

 精霊王に口答えなどするなと、暗に言ってるようだ。

 土下座したままのリーフに、鬼気迫る迫力を感じる。


 だとしても、セリカの意見だけは聞かなければいけない。

 ワシも人の親。セリカには随分と苦労させてしまったので、例え、リーフがどう言おうとも、セリカの意見を尊重するつもりだ。


「セリカよ?お前はどうしたい?」


 セリカに確認を取る。


「ハイ! 私でよろしければ」


 セリカ姫は、ハッキリと返事をした。

 まあ、セリカならば、例え嫌でもウンと返事をするかもと思っていたが、セリカもどうやら、精霊王と友達になる事を望んでるようである。


 そして、セリカの返事を聞くと、また、精霊王が何かを話しだす。


【&@○♡❃↑】


 そして、すぐさま、古代エルフ語が分かるリーフが訳す。


「精霊王様が、城に住みたいと仰せられております!」


「何と、精霊王殿が、そう仰られているのか?」


 カーランド王国を守護して、セリカの友達になって貰えるだけで、カーランド王国として喜ばしい事なのに、まさか、精霊王が城に住む?

 それは、精霊王が魔の森から、移動するという事を意味する。


 精霊王が、聖域である泉を離れて良いかというのも気になる所だが、カーランド王国としては願ったりもない事である。


 即ち、精霊王がカーランド王国の城に居るという事は、カーランド城こそが、精霊信仰の中心。

 エルフに連なら者は、決して、カーランド王国に手を出せなくなる事を意味するのだ。


 そして、


【@&、○♡☆↑!】


 また、精霊王が話しだす。

 どうやら、リーフの通訳によると、「悪い精霊ではない」と言ってるようである。


 それを聞いたワシは、ドキッとしてしまう。

 ワシは、確かに、初めて精霊王を見た時、言われてるほど、聖なる者ではないと感じていたのだ。

 表面的には、神々しくて聖なる存在だとは感じるのだが、内に秘めたドス黒い何か……

 大賢者アルツハイマーの言葉もあるし、今でも心の中で少し精霊王を疑っていたのである。


 それを、完全に見透かされた……


 やはり、精霊王はリーフの言うように、神のような存在。

 完全に心を読まれているのであるなら、喧嘩するのは得策ではない。


 幸い、精霊王は娘を気に入ってくれている。

 娘を気に入ってくれている内は、精霊王は、カーランド王国を悪いようにはしないであろう。


 カーランド国王アルフォード・カーランドは、そう思い込む事にした。


 ーーー


 ここまで読んで下さり、ありがとうございます。


 流石は、賢王アルフォード・カーランド。

 森の精霊さんの内に秘めたドス黒さに気付くなんて……

 まあ、そのドス黒さなんだけど、大それたドス暗さじゃなくて、セリカにちょっとだけイタズラしちゃおうという、しょうもないドス黒さなんだけど……


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