第11話 セリカ姫視点(3) 侍女視点

 

 精霊様が、私と、私の侍女と、兵士の真上をクルクルと飛び回り、精霊様の七色の羽根から、金色のキラキラとする鱗粉が、私達の体に降り注ぐと、


【森の精霊から、祝福が与えられました! 精霊王の加護を得ました!】


 突然、私の目の前に、半透明な画面が現れ、そこには、見た事もない文字が書かれていた。


「こ……これは!?」


 オットンが、ワナワナ震えながら驚いている。


「オットン。貴方にも半透明な画面が現れているのですか?」


 私は、オットンに尋ねる。


「はい。この半透明の画面に書かれてる文字は、古代エルフ語で間違いありません!

 ですが、私は、言葉は少しだけ分かるのですが、文字の方はチンプンカンプンで……

 ですが、これは、精霊魔法を使う為のコマンドと呼ばれるもので間違いない筈です!

 我が国の宰相でハイエルフのリーフ・ストロガルフが、精霊魔法を使う時に、顔の前で手を動かす行為を、何をしてるのかと問うた事があったのですが、自分だけに見える半透明の画面があって、それを操作して精霊魔法を使ってると聞いた事がありまふ!」


 何か、オットンは、興奮してるのか、最後に噛んだ。


「精霊魔法? 精霊魔法とは、確か、ハイエルフしか使えないと言われている伝説の魔法の事ですか?」


 私は、冷静を装い、オットンに質問する。

 精霊魔法とは、普通の魔法の何倍もの威力を発揮する魔法と言われているのだ。


「ハイ。ハイエルフが精霊と契約して使う魔法です!

 そして、私共は、精霊は精霊でも、魔の森を総べる精霊王様と契約を結んでしまったようであります!

 古代エルフ文字は苦手なんですが、流石の私でも、コマンドに書かれてる精霊王という文字は分かります。

 我が国の宰相で大魔法使いと言われているリーフ・ストロガロフでさえ、上級精霊としか契約してないというのに、まさか、精霊王様の加護を頂けてしまうとは……」


 オットンが、未だに私達の真上を飛んでいる、森の精霊様に祈りだす。

 少しだけエルフの血を引いてるらしいので、精霊様への信仰心が厚いのだろう。


 というか、森の精霊様は、やはり精霊王様であったようだ。

 トンデモナイ存在である筈なのだが、何事でもないかのように、鼻歌交じりに上機嫌でクルクル、私達の上を飛んでいる。


 しかしながら、まさかの精霊魔法。


 魔力循環回路の詰まりが解消されて、魔法が使えるようになるかもと喜んでいたのに、まさかのそれを飛び越えての精霊魔法……


 森の精霊様の大盤振る舞いに、どう恩を返せば良いのか、ますます分からなくなってしまった。



 ーーー


【セリカ姫侍女マリン・モスキート視点】



 私は、カーランド王国第一王女セリカ・カーランドの侍女をやっている、マリン・モスキート。


 セリカ様は、生まれた時から巨大な魔力を有し、将来は、大魔法使いや聖女様になるのではと言われていた神童。


 頭も良く、誰に対しても優しい、絵に書いたような完璧なお姫様だった。

 しかし、5歳から魔法を習い始めて、評価が一変する。

 そう、セリカ姫は、魔法が全く使えなかったのである。


 そして、運命の日。


 セリカ様は、国の決定に従い、魔の森にあると言われている伝説のエリクサーを、父であるカーランド国王の命を救うために探しに出掛ける事となったのだ。


 もう、この時には、私の命は無いものと思っていた。

 だって、あの大賢者アルツハイマー様でさえ、魔の森で死んでしまったのだ。


 魔法が使えぬお姫様と、元カーランド王国騎士団長だが、ローランド帝国との戦争で怪我を負い、セリカ様の護衛騎士に左遷されてしまったオットン護衛隊長。それから急遽集められた騎士達では、とてもじゃないが魔の森で、エリクサーを手に入れられるとは考えられなかったのだ。


 だって、この150年間。魔の森でエリクサーを手に入れられたのは、大賢者アルツハイマーだけなのだ。

 そのアルツハイマーでさえ、6年前に魔の森で死んでしまったのである。


 そんなふうに思ってたのだが、魔物に殺されるのではなく、まさかの急遽、新たに招集された護衛騎士達による裏切り。

 急遽集められた護衛騎士達は、多分、ローランド帝国の間者だったのである。


 そして、頼みの綱のオットン護衛隊長も倒れ、帝国の間者が、セリカ様を殺す為に馬車に乗り込んで来た時に、私は死を覚悟する。


 私の人生って、最悪だったと、

 そして、ケチケチしないで、もっと美味しいものを食べときゃ良かったと、


 でも、何故か、私は助かってしまうのだ。


「何だ……剣が動かん」


 帝国の間者が、セリカ様に突き刺そうとしてた剣が、何故か、セリカ様の心臓の目の前で止まっていたのだ。


「妖精……?」


 セリカ様が呟く。


 ん?妖精?


 セリカ様の呟きが気になり、目を凝らすと、そこには、緑色の髪をした可愛らしい精霊が、帝国の間者の剣を両手で受け止めているのが、薄らと見えたのである。


 それからは凄かった。多分、帝国の間者が、精霊の手によって、あっという間に全滅。

 死んでしまったオットン護衛隊長ら、元々のセリカ様の専属護衛騎士達が精霊の魔法によって生き返ったのだ。


 本当に、何が何だか分からない。

 精霊が使った魔法こそが、伝説のエリクサーで良くない?と、思ってしまうほど。


 そして、何故か少しだけ古代エルフ語が分かるというオットン護衛隊長と精霊が交渉して、エリクサーが湧き出る泉に案内してくれる事となったのだ。


 まあ、ここまでは問題ない。

 しかし、ここで私にとって、とても重大かつ、大事件が起きたのだ。


 森の泉に到着して、セリカ様が泉の水をくもうとしたら、精霊が、えいっ!と、セリカ様を泉の中に落としてしまったのだ。


 もう、何がなんだか分からない。

 噂に聞く、精霊のイタズラ?

 エリクサーの泉に突き落とすのが?

 これって、ある意味御褒美じゃん!


 護衛の騎士達も、一瞬、何が起きたのか理解できなかったのか、一瞬固まってしまう。

 まさか、精霊が、セリカ様を泉に突き落とすとは、誰も思わないし。


 そして、慌て出すのだか、この場所で一番偉い者が誰だか分からなくなっているようだ。


 まあ、カーランド王国第一王女のセリカ様が偉いのは当然なのだが、どう考えても精霊の方が偉い。

 だって、私達の周りには、何十万もの魔物が、精霊を守ってるつもりなのか、ヨダレを垂らして見てるし。

 そう、私達は完全に、妖精に生命与奪権を持たれてるのである。


 そうこうしてると、泉の中に入る訳にもいかなくて、オロオロしてた兵士達をも、精霊は纏めて、泉の中に突き落としてしまったのだ。


 そして、奇跡が起こる。


 ハゲてた兵士の髪はフサフサになるは、インキンタムシの兵士はインキンタムシが治るは、オットンに至っては、完全に若返ってるし、どうやら古傷まで治ってしまっているようだ。


 そして、セリカ様など、視認出来るぐらいに、魔力が渦巻くように体の中を流れ、しかも身体から魔力が溢れ出しているし。


 基本、魔法とは、体内の魔力を放出させて色んな現象を引き起こすのだが、もう今の段階で、セリカ様は魔法が使えるも同義。


 今までは、魔法循環回路が詰まってた為に、体外に魔力を放出できなかったのだけど、もうアホみたいに垂れ流してるし。


 それを見た私は、何も言わずに、勝手に泉に入水する事に決めた。


 精霊から、許可を取ったか?だって?

 そんなの、知るか!ボケ!


 私も、肌のシミやソバカスが気になるんだよ!

 それから、もうちょっと胸が大きくなりたいし!

 なりたい自分になるのだ!泉の効能は、どうやらその人が求めるものが、ズバリの効能になるみたいだし。


 ハゲを気にしてれば、髪フッサーになるし、インキンタムシが痒かったら治っちゃうし、昔の強かった自分に戻りたければ、最盛期の自分に戻れちゃうのである。


 やはり、1人だけ泉に突き落とされなかったのはフェアーじゃないよね。(完全に自分勝手な言い分)


 そして、泉の中に、自らドボン!


 だけれども、泉の中に入っても何も起こらない。

 ガブガブ泉の水を飲んでも、お腹が膨れるだけ。


 少しぐらい、若返るかと思ったのだけど、本当に何も起こらないなんて……


 結構、ショック。悔し涙がちょちょぎ出る。


 どうやら見てると、良い人であればあるほど、泉の効果はあるみたい。


 という事は、私は良い人じゃないの?


 なんか、喜んでる兵士やセリカ様を見ると、イラッとする。善人死ね!良い子ぶるんじゃねーよ!


 まあ、結構良くしてくれるセリカ様が魔法を使えるようになったのは嬉しいけど、これとそれとは違う。


 とか、思っていたら、


【森の精霊から、祝福が与えられました! 精霊王の加護を得ました!】


 目の前に、半透明の画面が現れ、何やら知らない文字が書かれている。


 オットンの話によると、書かれてる文字は古代エルフ語で、しかも精霊が加護を与えてくれて、私達は、ハイエルフしか使えないと言われている伝説の精霊魔法が使えるようになったとか。


 なんか、メッチャテンションがあがる。

 さっきまで、この精霊使えん。死ねとか思ってたけど、今は、神様か女神様に見えてきてしまう。

 もしかしたら、本当に、神様と同等な存在かもしれないけど。


 私の時代がついに来た。

 これは絶対にモテる。

 だって、精霊魔法が使えるようになっちゃうんだよ!


 私は、貧乏男爵家の娘で、お金の為にお城で働いているのだ。

 そして、魔法が使えない、王族として終わってるセリカ様の侍女にさせられた。


 ハッキリ言うと、宮仕え最下層。

 宮仕えしてる女官にもカーストがあるのだ。


 私は、王族として終わってるセリカ様の侍女にさせられた。

 しかも、今回の遠征も、先輩侍女に押し付けられたのだ。


 誰しも、死ぬかもしれない魔の森なんか行きたくないもんね。


 しかし、私は掴み取ったのだ。幸運の切符を。先輩侍女ザマー!


 精霊魔法さえ使えたら、絶対にお給料は上がるし、高位貴族からの玉の輿求婚もたくさん来る筈!


 しかも、自分が仕えてるセリカ様が魔法が使えるようになったので、王族の中の地位も一気に上がる。しかも、精霊魔法まで使えちゃうのだ。


 セリカ様、最強じゃね?


 そして、エリクサーで王様まで治してしまったら、本当に、一体、どうなるのだろう。

 考えてただけで鼻血が出てきそう。


 私は、最強お姫様の側近なのだ!(マリンが勝手に側近と思ってるだけ)


 これもそれも、全ては精霊様のお陰。

 これは、本当に神と称えても良いかもしれない。


 ちょっと、考え方が残念過ぎるエリカ姫の侍女マリン・モスキートは、森の精霊さんを、勝手に、自分にとっての福の神と認定したのであった。


 ーーー


 ここまで読んで下さい、ありがとうございます。


 セリカ様は、相変らずの壮大な勘違い。

 そして、セリカ様の侍女の残念過ぎる性格があらわに。


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