第10話 セリカの視点(2)

 

 森の精霊様が、悲愴な表情をして、心配そうに私の事を見ている。


「精霊様!?」


 私は、思わず精霊様を見る。

 もしかして、心を見透かされていた……

 そして、私の願いを叶えてくれた……


 しかし、精霊様は、気にしなくていいよ。

 ただの精霊のイタズラだよ。とばかりに、私が泉に落ちてしまって慌てていた、オットンと護衛兵士も、纏めて全員、泉に突き落としてしまう。


 しかも、何故か知らんぷりして、口笛を吹くそぶりをしているし。


 精霊様は、本当に慈悲深い。

 私に、変な感謝の気持ちを起こさせないように、気を使ってくれたのだ。


 泉に落としたのは、本当に、精霊のイタズラだよと。

 兵士達も、泉に落としちゃったしね。

 セリカも見ていたでしょと。


 そんなお茶目な精霊様を見て、私は、改めて、精霊様に深く感謝する。


「若ハゲが治った!」


「俺は、長年治らなかったインキンタムシが治ってるぞ!」


 どうやら、泉に突き落とされた兵士達は、何らかの効能があったらしい。


 そして、護衛隊長のオットンに至っては、完全に若返って、18歳ぐらいに青年になってしまってるし。


 そして、私は、


「あの……なんか、体から魔力がみなぎってるのですけど……」


 体の中を勢いよく流れる魔力?を感じながら、若返ったオットンを見る。


「姫様。どうやら、魔力が体の中を循環してるように見えますね」


 エルフの血を引き、魔力操作に長けているオットンが、目を細めながら私に伝える。


「そんな……」


 思わず、涙が溢れる。

 精霊様……

 嬉しくて、嬉しくて、本当に何と言ったらいいのだろう。


 精霊様は、私が泣いてしまった事に焦っているのか、アタフタしてるし。


 どんだけ、お優しい精霊様なのだろう。

 精霊様は、何も悪い事などしていないのに。


 そして、精霊様は、泣いてる私の元にやってにて、ヨシヨシと頭を撫ぜてくれる。


 今まで、よく頑張ったね。もう、大丈夫だよ。だから、泣かないでね。

 言葉は分からないが、小さい子供をあやすかのように、精霊様は、ワンワン泣きじゃくる私の頭を、私が落ち着くまでの間、ずっと、撫ぜ続けてくれたのだった。


 そして、泣き疲れて、やっと精霊様に、感謝の言葉を述べる。


「精霊様……ありがとうございます」


 私は、嬉しくて、ただ感謝の気持ちを述べただけなのに、何故か精霊様は、当惑してしまっている。


 多分、自分は大した事してないと思っているのだ。

 本当に、どれだけ慈悲深い精霊様なのだろう。

 精霊様にとっては、これが日常なのだ。

 私にとっては、人生が360度変わってしまう程の大事件だったというのに。


 精霊様にとっては、こんな事は、息を吐いて吸うような自然な行い。


 私も、精霊様のように、善行を重ねよう。

 それが、精霊様の思い。


 何故、善行を重ねようかと思ったかというと、泉に落ちた者達をみると、それぞれ効果が違うからだ。


 若ハゲが治った者。

 ただ、インキンタ……淑女の口から言うのは、はばかれる病気が治っただけの者。

 オットンに、至っては年齢が20歳近く若返ってしまってるし。


 泉の効果は、完全に、より善人の方が効果が高いように思われる。


 実際に、妖精様に泉に突き落とされなかったけど、しれっと自ら泉に入った私の侍女に至っては、全く変化が無かったようだし。


 完全に、森の泉は、精霊様の意思によって効果が変わるのだ。


 過去には、大賢者アルツハイマーのように不死者になった者まで居る訳だし。


 精霊様は、良い子が大好きなのだ。

 逆に、悪人は大嫌い。

 殺す事も躊躇わない。


 今迄、森の外周に居た4頭のドラゴンは、善人か悪人か、森に訪れる者達をジャジメントとしていたのだ。

 精霊様の手をわずわらせない為に。


 精霊様は、慈愛に溢れた心優しい存在なのだ。

 私が泣いてしまったら、泣き止むまで、ずっと寄り添って、優しく頭を撫ぜ続けてくれるような。


 そして、森を護っていたドラゴンは、そんな精霊様が治める愛が溢れる森を護っていたと思われる。


 魔の森は、人々が言うような魔の森では、断じて無い。

 実際、凶悪と思われていた魔物達も、心から精霊様の事が大好きなのだと、この目で見たし。


 泉に行く道すがら、何万もの魔物達が精霊様の歩く道を警護してたのを目撃したのである。


 多分、今回はイレギュラー。

 何故か、森を護る4匹のドラゴンが忽然と消えて、仕方が無く、精霊様自らが対応してくれたのであろう。


 私としては、ラッキーだったけど。

 しかしながら、懸念も無い事も無い。


 森の泉の効能は、どうやら、その人の善性によって決まる。

 ものすごい善人が飲めばエリクサーに、普通よりも、ちょっとだけ善人の人が飲めば、インキンじゃなくてお股の水虫が治るくらいの効果しかない。


 はたして、我が父、カーランド国王、アルフォード・カーランドは、善人なのか違うのか……


 森の泉は、人を試すのだ。

 ここまで来たら、父が善人な事を願うしかない。


 兎に角、精霊様に感謝しよう。

 私の魔力循環回路を正常に戻してくれた事を。

 そして、魔法が使えるようになったら、子供の頃の夢を実現させるのだ。


 必ず、人の役に立つ魔法使いになってみせるのだ!


 とか、精霊様に感謝の言葉を述べながらも、妄想に浸っていると、突然、精霊様が、私と、私の侍女と兵士の真上をクルクルと飛び回り始めた。


 とても、幻想的な光景。

 精霊様の七色の羽根から、金色のキラキラとする鱗粉が、私達の体に降り注ぐ。


 すると、


【森の精霊から、祝福が与えられました! 精霊王の加護を得ました!】


 突然、私の目の前に、半透明な画面が現れ、そこには、見た事もない文字が書かれていた。


 ーーー


 ここまで読んでくれて、ありがとうございます。


 森の精霊さん、セリカ姫に勘違いされまくりです。

 ドラゴンは、森の精霊さんの経験値となり、天に召されたのに……


 そして、セリカ姫の前に、【ドラ○エ、コマンドが現れた!】の回でした。


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