第8話 森の精霊さん、有頂天になってしまう

 

 俺は、上手いこと交渉が纏まり有頂天。


 俺の後に着いて来いと、古代エルフ語?が分かるオットンに伝えて、ルンルン気分で飛んでいる。


 ついでに、俺の凄さが分かるように、泉に向かう道には、配下の魔物を並ばせておいた。


 まあ、魔物達は、美味しそうな人間の集団に、ヨダレを垂らしてるようだったが気にしない。


 一応、シロに、仲間割れして死んだ兵士は、みんなと食っていいからと指示しておいたので、それで我慢してくれるだろう。


 いつの間にか、フェンリルの銀と、ベヒモスのクロ、そして鳳凰のアオも現れて、俺達を先導してくれている。


 勿論、人間達をビビらせてはいけないので、銀とクロには小さくなってもらい、子犬と、ただの猫にしか見えない。

 鳳凰のアオは、普通の青い鳥になってるし。


 上位の魔物や聖獣は、小さくなったり、人に化けたりする事ができたりするのだ。


 なんかよく分からんが、セリカ姫は、俺達の事を、馬車の中から微笑みながら見てるし。


 まあ、可愛らしい精霊と子犬と猫と青い鳥が一緒に並んで進んでいたら、誰しもホンワカした気分になってしまうだろう。


 実際は、魔王でもある精霊と、聖獣フェンリルと、厄災級の魔物ベビモスと、放火魔の鳳凰と一緒に居るんだけどね。


 俺が普通の人間なら、緊張し過ぎてゲロ吐くね。


 まあ、わざとホンワカした雰囲気を醸し出してるから、作戦が成功してると言えるけど。


 そんでもって、ホンワカ歩くこと30分。


 目的の森の中央の泉に到着した。

 何で、そんなに早く到着するかだって?

 そんなのバイキ〇トじゃなくて、バイデスヨを使ったから。

 この世界のバイキ〇トじゃなくて、バイデスヨは、何と、戦闘中じゃなくても使えてしまうのだ。


 しかも、ドラ〇エのように重ね掛けも出来るから、馬車や兵士にも秘密裏にバイデスヨを、重ね掛けしまくって、本来なら馬車で1週間の道のりを、たったの30分で到着させてしまったのだ。

 しかも、兵士達は、全く気付いてないし。


 絶対に、森の泉って、こんなに近かったんだと勘違いしてる筈。


 まあ、そんな事、どうでもいいんだけど。

 ただ、俺が人間に合わせて飛び続けるのが面倒だっただけだし。


 そして、到着すると、俺は、ここぞとばかりに森の泉の周りを飛び回る。

 しっかり、鱗粉マシマシしないといけないからね。


 その様子を見てたセリカ姫が、幻想的な光景を見てるかのような顔をして感動してるし。


 まあ、森の精霊さんは、キュートで可愛らしいからしょうがないよね。


 俺は、職業 鍛冶師の時に作った、絶対に中の液体が劣化しない空き瓶を、サービス品としてセリカ姫に渡す。


 しっかりと、日本語じゃなくて、古代エルフ語が分かるオットンに説明してね。


 恩を、ここぞとばかりに売っておけば、今後、セリカ姫は俺に優しくしてくれると思うから。


 森の外に出ても、王族の後ろ盾があれば、何も恐れる事がなくなるでしょ。

 俺って、引き籠もり体質だから、人の目が怖いんだよね。

 魔物に見られるのは平気だけど、人混み怖いし。


 セリカ姫は、俺に空き瓶を渡されて、恐る恐る泉から、俺の出汁をすくう。


 すると、セリカ姫が泉に触れた肌が真っ白になってしまい、俺は、思わず血の気が引いてしまう。手首より下だけが脱色してしまったと。


 そういえば、シロを無理矢理、泉に入れたら、普通の蜘蛛の色だったのに、真っ白に脱色したのだった。


 クロも、元々黒猫だったのに、黒と白のぶちの猫になってしまったし、その事を、すっかり忘れていたのだ。


 俺は、とても焦って、「えいっ!」と、セリカ姫を泉に突き落とす。

 全身、真っ白になれば、手だけが真っ白に脱色してしまったの目立たないもんね!


「精霊様!?」


 なんか、セリカ姫が慌ててる。

 オットンが、セリカ姫を助けようとしたので、面倒くさいので、オットンも、泉に突き落とした。

 すると、兵士達も慌てだしたので、纏めて、全員、泉の中に突き落としてやった。


 まあ、兵士達は、オットンも合わせて5人しかいなかったからね。

 100人位いたら、誤魔化しようがなかったけど。


 もしかして、悪人がいたらどうしようとも思ったが、悪人は1人も居なかったようで助かった。

 多分、悪人がいたら、溶けてなくなってたと思うし。


「なんか、肌が白くなった気がします」


 泉から出てきたセリカ姫が、なんか言っている。聞かなかった事にしよう。

 これで、ポッキーみたいな手になったと文句言われないで済むし。


「若ハゲが治った!」


 なんか、ハゲ親父だと思ってた奴が、髪の毛フサフサの青年に変わってしまっている。


「俺は、長年治らなかったインキンタムシが治ってるぞ!」


 まあ、そんぐらいは余裕で治るだろ。

 ムヒ付けても、治ると思うし。


「なんか、若返ってる気がする……」


 多分、とても良い人であろうオットンは、若返ってしまったようである。イケオジから、18歳くらいの美少年に若返ってるし。

 やはり、エルフの血が混じってるので、精霊信仰が厚いのだろう。


「あの……なんか、体から魔力がみなぎってるのですけど……」


 セリカ姫が、なんか言っている。


「姫様。どうやら、魔力が体の中を循環してるように見えますね」


 オットンが、目を細めながらセリカ姫に言う。


「そんな……」


 なんか、セリカ姫が、突然、涙を流し始めてしまう。

 エッ……魔力が体を循環して、何が悪いんだ?

 魔力って、普通、体の中を循環してるもんじゃないの?


 俺は、セリカ姫が泣き出した事によって、焦ってしまう。


 確かに、セリカ姫は、俺からみても凄い魔力量を持っていた。

 もしかして、魔力を体内に、敢えて貯めていたのか?

 巨大魔法を放つ為とか?


 だとしたらヤバイ。

 なんか、セリカの魔力、体中を循環しながら、体外に溢れ出てしまってるし。


 俺は、アタフタしながら、取り敢えずセリカ姫を慰める事にする。

 多分、俺って滅茶苦茶可愛らしいから、俺が慰めれば許してくれるだろう。

 森の泉の、俺の出汁まであげる訳だし。


 セリカ姫の頭をヨシヨシ撫でてみると、余計に、セリカ姫の涙が止まらなくなってしまった。


 やっぱり、泣いてる人を慰めたらダメだったのか。泣いてる子供を慰めたら、余計泣いてしまう感じみたいな。

 よく考えたら、まだ、セリカ姫はお子様だった。

 しっかりしているように見えていたので、失念していた。


 もう、こうなったら、アレをするしかない。

 日本人の必殺技、土下座。


 森に住んでた、ハイエルフも俺に対して土下座してたから、この世界でも、きっと土下座は最大限の謝罪を表す筈だし。


 そう思って、土下座しようとすると、


「精霊様……ありがとうございます」


 セリカ姫が、少し震えながら俺に、頭を下げてきた。


 せっかく貯めてた魔力を垂れ流しにしてしまって、震えるほど悔しいのに、俺が、森の泉を分けてあげたから、頭を下げているのか……


 本当に悪かったって!


 きっと、生まれてから、ずっと魔力を体内に貯めて来たのだろうな。巨大魔法を放つ為にとか。


 だって、巨大魔法って、ロマンだもんね。

 俺も、メ〇ゾーマじゃなくて、ヘラゾーマ放つ時、興奮するもん。


 辺り一面が、溶けてなくなる感覚、アレを一度覚えると、止められなくなっちゃうよね!


「姫様、良かったですね!」


 何故か、オットンまでも、泣きながら強気な事を言っている。

 どんだけ、この集団は強がりなんだ……。

 多分、俺に、罪悪感を湧かせないように、歯を食いしばって頑張ってるようにしか見えない。


「姫様、本当に良かったです」


 セリカ姫のお付の侍女までも、喜んでいる演技をし出す。

 この人だけは、泉ボチャンを免れていたのだが、何故か、自分から泉ボチャンしていた人だ。


 しかしながら、見た所、何も変わってなかったので、普通の人なのだろう。

 普通の人には、森の泉って、ただの水と一緒だからね。


「精霊様、本当にありがとうございます!

 これで、私も魔法が使えるようになります!」


 セリカ姫が、訳の分からない事を言っている。

 ん?魔法を使えなかった?何かの冗談だろ?

 だって、セリカ姫の魔力総量って、精霊の俺から見ても巨大なのに。


 多分、魔力の多そうなハイエルフ並か、それ以上なのだ。


「セリカ様、本当に良かったです」


 勝手に、泉ボチャンした人も、感極まって瞳に涙を溢れだしてるし。

 決して、泉の水じゃなさそうだし。


「精霊様、私が魔法を使えない事を知って、敢えて、私を泉の中に入れて下さったのですね!」


 なんか、セリカ姫が勘違いしている。


「なるほど、精霊様は、本当は、姫様自身が自分の詰まった魔力循環回路をエリクサーで治したいと思っていた事に気付き、敢えて、泉に突き落とした訳だったのですか!

 てっきり、私は、精霊様のイタズラか何かと思ってしまいました。

 本当に、少しでも精霊様を疑ってしまった自分が恥ずかしく、殴ってやりたいぐらいです」


 オットンまでも、盛大な勘違い。


「精霊様は、私がハゲてる事を気にしてたのに気付いてたんですね!」


 若ハゲを気にしてた兵士も、フサフサになった髪をなびかせ感動している。


「精霊様は、俺がインキンタムシが痒いの我慢してたの知ってたんですね!」


 そんなの知るか! お前の下半身の事情になんか興味ねーよ!


「……」


 セリカ姫お付の侍女も、何か言おうとしたが、口をつぐんだ。

 この人、自ら森の泉に飛び込んだけど、何も奇跡が起こらなかったからね。


 森の泉は、良い人にはエリクサーに、悪い人は毒にしかならないから、そして、本当に普通の人には、ただの水。


「精霊様、本当に、本当にありがとうございます!」


 なんか、セリカ姫に、滅茶苦茶感謝されてしまっている。

 どうやら、俺を感謝してるのは、本当の事なのだろう。


 だって、感謝の最大限の姿である、土下座をしちゃってるし。

 オットンや、兵士達、そしてついでにセリカ姫の侍女まで、俺に対して土下座してしまった。


 照れるぜ。俺、前世も、この世界に来てからも、本当に心から感謝された事ないから、取り敢えず、どうしていいか分からなくて、ウッヒョーと思いながら、セリカ姫達の周りを飛び回ったのだった。


【セリカ姫と、兵士達、それから侍女に、精霊王の祝福を与えますか? YES or NO】


 なんか、いきなりコマンドが出て来た。


 取り敢えず、とても気分が良いから、YES!


 まあ、祝福が何か分かんないけど、減るもんじゃないだろ。


 そんな感じで、セリカ姫と、5人の兵士と、侍女に精霊王の祝福を与えてしまったのだが、これが、後に、大問題に発展してしまうとは、有頂天になっている森の精霊さんに、分かる筈無いよね。


 ーーー


 ここまで読んで下さり、ありがとうございます。

 森の精霊さんが、軽い気持ちで、祝福を与えてしまいました。

 どうやら、森の精霊さんは、自分が物凄いレアキャラだという事に気付いてないみたいです。

 まあ、森の泉も、普通の人には、ただの水だし。


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