第7話 セリカ姫視点

 

 私は、カーランド王国、第一王女セリカ・カーランド。12歳。


 カーランド王国は、魔の森と言われる巨大な森の南側に位置する王国で、東側は、ローランド帝国という軍事国家と接している。


 大陸統一を狙うローランド帝国は、勿論、カーランド王国も狙っていたのだが、カーランド王国には、200年以上も生きてると言われている伝説の大賢者スナイデル・カン・アルツハイマーがいたので、今まで、ローランド帝国をもってしても手出し出来なかった。


 しかし、何を思ったのか、突然、大賢者アルツハイマーが、大精霊様に会いに行ってくると魔の森に出掛けられて、あろう事か、森の南側を守護してたレッドドラゴンに倒されてしまったのだ。


 初めて、森の泉に行った時は、レッドドラゴンとの戦闘を避けて、森の泉に訪れる事に成功したらしかったのだが、アルツハイマーもレベルが上がり、多分、自分の力を過信していたのかもしれない。


 なにせ、大賢者アルツハイマーの爆裂魔法は、軍事国家で、戦争大好きなローランド帝国さえも恐れるくらいの威力だったから。


 だが、カーランド王国の大賢者アルツハイマーが、レッドドラゴンに敗れ死んだと知れ渡ると、ローランド帝国が、カーランド王国にちょっかい掛けるようになって来たのだ。


 最初は、賢王アルフォード・カーランドの采配により善戦してたのだが、次第に国力が勝るローランド帝国が押してきており、そんな中、賢王アルフォードが病に倒れてしまったのである。


 そして、このままアルフォード王が亡くなってしまうと、カーランド王国は求心力を失い、そのまま滅びてしまうのではないかと言われていた。


 そんな中、いつの間にか、森の南側を守護していたレッドドラゴンが居なくなってるという情報が、王国にもたらされたのである。


 カーランド王国は、すぐさま、森の泉に湧くエリクサーを手に入れる為に、編成を組む事を決めた。


 そして、大賢者アルツハイマーにより、森の泉には、高貴な精霊が居て、その精霊に許可を得て、ようやくエリクサーを分けて貰えると言い伝えられていたので、カーランド王国も、高貴な血筋の王族である第一王女セリカ・カーランドを送り出す事を決めたのであった。


 ーーー


 そんなセリカ姫が、エリクサーを求めて、魔の森に入ったのだが、1時間前。

 現在。護衛の騎士の半分以上の者に裏切られて窮地に立っている。


 まあ、ローランド帝国が妨害してくると思ってはいたが、まさかカーランド王国の兵士が裏切るとは思ってなくて、護衛隊長のオットンを中心に善戦してるのだが、如何せん、裏切り者の兵士の方が多い。


 言い換えれば、ローランド帝国の工作が、カーランド王国の奥深い所まで入り込んでいる事を意味する。


 そして、最後まで健闘していた護衛隊長のオットンも殺され、万策尽きたと思ってた所で、突然、妖精様が現れたのだ。


 その妖精様は、七色の羽根を持ち、金色の鱗粉を振り撒き、とても可愛らしい少女のような顔をしていた。


 そんな可愛らしい妖精様が、私を襲ってくる兵士の前に立ってしまい、本当に心臓がとび出そうになるぐらい、ビックリしてしまう。


 だって、私を襲ってきた兵士は、妖精様目掛けて剣を突き刺してきたから。


 だけれども、妖精様は、その剣を両手で受止めたのだ。


 そんな小さな体で、どこにそんな力があるのだろうと驚愕してしまう。


「何だ……剣が動かん」


 どういう訳か、妖精様に襲いかかった兵士は、妖精様が見えてないらしい。

 兵士は、妖精様を襲ったのだと思ってたのだけど、どうやら、私の心臓目掛けて剣を突き刺そうとしてたらしい。


「妖精……?」


 私が、思わず声を掛けてしまうと、妖精様は、私の方を振り向いてニッコリと笑う。


 そして、


「✯@○Jなm&!」


 妖精様が、何か話し掛けてきた。

 多分、妖精語か何かなのだろうが、私にはチンプンカンプン。


 だけど、高貴な言葉だという事は分かる。

 だって、流れるような柔らかい印象の言葉を話しているから。


「クッ!どうなってるんだ!」


 妖精様が、剣を受け止めてるのが見えていない兵士が、何とか剣を動かそうと右往左往している。


 と、思っていたら、突然、妖精様の目の前にいた兵士が、馬車の外に、飛んでいってしまった。


 多分、妖精様が魔法か何かを使ったのだろう。全く、妖精様が動いてるようには見えなかったから。


 そして、襲ってきた兵士が居なくなると、また、妖精様が身振り手振りで、私に何かを伝えようとしてきている。

 だけれども、私には、全く妖精語が分からないのだ。

 ただ、妖精様が、可愛らしく動いてるだけにしか見えない。


 私が、申し訳なさそうな顔をしてると、再び、私を襲おうとしてきた兵士が、再び、馬車の中に入ろうとしてくる。


 妖精様が、振り返り、兵士の方を見た瞬間、襲いかかってきた兵士の頭が爆発し、そして、馬車の外に待機してた裏切り者の兵士達の首もチョッキンパと斬り落とされてしまった。


 私は、突然の事に唖然とするしかない。

 多分、妖精様が魔法か何かを使ったのだと思うが、動いたように見えなかったし、魔法を詠唱する素振りさえみせてないのだ。


 この妖精様……もしかして、規格外の力の持ち主……

 ちょっと考えたら、体が震えてきてしまった。

 絶対に、この妖精様の機嫌を損ねてはいけないと……

 今の所は、私に対して好意を持ってくれてるみたいだが、なんとか好意をもって頂いているまま、この魔の森を撤退しようと。


 今の段階で、護衛の兵士は全滅していて、エリクサーを手に入れるのは、もう、不可能なのだ。


 妖精様は、まだ私に何か伝えようと頑張っていらっしゃるが、何かを思い出すような素振りをすると、私を守って死んでしまった兵士の元まで飛んで行き、何やら呪文のような言葉を呟く。


 すると、


「えっ……生き返った?」


 突然、死んでしまってた筈の兵士が起き上がり、素っ頓狂な声を発する。


「妖精様の力?」


 私が妖精様に話しかけると、妖精様は、嬉しそうな顔をしてウンウン頷いている。

 しかしながら、人を生き返らせされる力を持っていられるとは、ハッキリ言うと、エリクサーと同等の力を、この妖精様は持っているという事を意味するのだ。


「もしかして、森の泉にいらっしゃるという妖精様?」


 妖精様は、何か難しい顔をしてるが、怒ってはいないようである。

 多分、何かがひっかかってるような感じがする。


 とか、思ってると、


「姫様、その精霊様が、私共を生き返らせてくれたのですか?」


 妖精様に生き返らせてもらった、護衛隊長のオットンが話し掛けてきた。


「精霊様?妖精じゃなくて?」


 私は、オットンに疑問を口にする。


「この方は、精霊様ですね。私は、少しエルフの血を引いてるので、感覚で精霊様だと分かるのです」


 オットンが答える。どうやら、精霊様が難しい顔をされてたのは、私が、精霊様に対して、妖精、妖精と呼んでたからだろう。

 どうやら、精霊様は、私の言葉を理解してたようだし。


 そして、オットンは、精霊様に向けて話し出す。


『セイレイ、アリガットウ』


 抑揚がない、優しい高貴な感じがする言葉。

 精霊様が、話してた言葉のように思える。


「オットン、その言葉は?」


「古代エルフ語ですね」


 まさかの古代エルフ語。オットンは引き続き、私の代わりに、何やら精霊様と話し始める。


 だけれども、私にはチンプンカンプン。ただ、古代エルフ語を流暢に喋れるオットンを、羨望の眼差しで見る事しかできない。


『セイレイ、オレ、エリクサーホシイ! クレ!』


 本当に、オットンを連れてきて良かった。

 多分、私1人なら、精霊様とお話出来なかったし。


 しかし、セレナ姫は知らない。

 流暢な古代エルフ語を喋ってると思ってたオットンが、相当、無礼な言葉使いで森の精霊さんと話してた事を。

 そして、森の精霊さんも、結構汚い言葉使いでオットンと喋っていた事を。

 まあ、抑揚のない日本語なので、とても優しく綺麗な言葉に聞こえてただけだという事を、古代エルフ語を全く話せないエリカ姫が、知る由もなかったのである。


 どうやら、オットンは途中から共通語で話だした。

 多分、私も居るから、精霊様が気を使って、オットンに共通語で話すように伝えたのだろう。


 言葉の感じから、優しさが感じられていたが、実際にも、とても慈愛にみちた優しい精霊様だと思われる。


 まあ、おかげで、何を話してるのか分かるので、とても助かる。


 そして、交渉をしてくれてたオットンが、精霊様に、森の泉から湧き出るエリクサーを分けてくれるようにお願いする。


 なので私も、精霊様に頭を下げてお願いする。


「精霊様、私からもお願い致します。どうか、私の父を救って下さい!」


 すると、


『○♡、J&@✯↑○♡!』


「へ?」


 精霊様の言葉を聞いて、オットンは、素っ頓狂な声を出す。


『○♡、J&@✯↑○♡!』


 また、精霊様は、愛想を振り撒きながら同じ言葉を、私達に向かって言う。


「オットン、精霊様は、何を仰られてるんですか?」


「ええと……悪い精霊じゃないと言ってます……」


 ちょっと、何を言ってるのか分からない。

 精霊とは、自由気ままに生きてると聞いている。

 そして、気に入った人と契約して、精霊魔法を使えるようにしてくれる存在。


『○♡、J&@✯↑○♡!』


 また、同じ言葉を呟いた。

 何故、懇願するように、自分は悪い精霊じゃないと、繰り返し言うのか分からないのだ。

 もしかして、精霊様が、裏切り者の護衛兵を成敗なされた時、私が唖然として、震えてしまった事を気にしてらっしゃるのか?


 そうだとしたら、なんと慈悲深い精霊様でいらっしゃるのだろう。

 私が、怖がっていると勘違いして、心を痛めてらっしゃるのだ。


『W○♡、↑✮@&/MT☆!』


 また、精霊様が、何かを言う。


「ええと……精霊様を森から連れ出せば、森の泉に連れてってくれるという事ですか?」


 どうやら、古代エルフ語が分かるオットンと交渉してるようだ。


『○♡✯✯!』


 精霊様が、分かってくれたのかと、嬉しそうな顔をして答える。


「姫様、精霊様を森から連れ出せば、森の泉まで案内してくれると言っております!」


「えっ? そんな事だけでいいのですか?」


 もう、オットンと精霊様が話してるのを聞いていて内容は分かっていたが、改めて聞くと、やはりビックリしてしまう。


「精霊様は、そう仰っています」


 オットンは、深く頷きながら答える。

 ならば、


「分かりました。そんな事でよろしければ、このカーランド王国第1王女セリカ・カーランドの名に掛けて、森の外に連れ出して差し上げますわ!

 勿論、精霊様が、森の外で、何不自由なく暮らせるようにサポートしてさしあげます!」


 カーランド王国第一王女セリカ・カーランドの名に掛けて、慈愛溢れる精霊様に尽くすと、ここに誓ったのだった。


 ーーー


 ここまで読んでくれて、ありがとうございます。


 なんだか、セリカ姫は、森の精霊さんが慈愛に溢れた優しい精霊様だと勘違いしてしまったようです。

 これもそれも、日本語は抑揚が無い言語なので、外国人が聞くと優しい言葉に聞こえるらしいですから。


 実際、森の精霊さんの言葉使いを知ってしまったら、とても驚くかもしれません

(*´艸`)

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