異世界のゴミアイテム『聖遺物』で『宗教ビジネス』……のはずが『ルネサンス・宗教改革』~ 追伸、信徒が『カルト教団化』し、国を滅ぼそうとしてます。誰か助けて下さい ~
第49話 大農園 ”神の園” 羊達とこの農場の謎
第49話 大農園 ”神の園” 羊達とこの農場の謎
『もう一つの譬を聞きなさい。ある所に、ひとりの家の主人がいたが、ぶどう園を造り、かきをめぐらし、その中に酒ぶねの穴を掘り、やぐらを立て、それを農夫たちに貸して、旅に出かけた』 ―― マタイによる福音書 21章 33節 ――
領主との会議終わり。
俺達はマリーが推し進める”
辺境都市<ボンペイ>から離れた、人の目に触れずらい鬱蒼とした森の奥。その一角の木々を全て取り払い、既に開墾された広大な土地。
そこに広々とした田園風景。
燦々と降りそそぐ太陽光を浴びて、青々と実る多種の作物。色鮮やかな花が畑一面、埋め尽くしていたのだった。
「これ……全部が作物なのか……?」
その光景を見て――俺は驚く。
そのどれもが、物珍しい異世界の農作物ばかりで……それが遠く霞んだ場所にまで延々と畑は伸びているからである。
「ええ、カミヒト様。この農園にある作物は全て食用でございます。この森特有の気候一年中、熱帯のような高温、高湿度を利用して栽培しております……」
彼女は畑を一望し、説明を続ける。
その話を聞きながら、広大な畑の様子を注意深く観察していると――等間隔に農作業を行う黒と白の祭服の姿が視えていた。
その進捗は俺の想像を遥かに超える規模で……。
(そういえば……報告はちょくちょく受けていたが……)
既に多くの従業員が働く、一大農業施設が完成していたのだった。
こうして足を運んだのは初めてだった。
すっかり、圧倒され立ち尽くす俺に――。
「ラセイム、こちらへ……」
マリーは一人の漆黒の祭服の女性を紹介するのだった。
「カミヒト様、改めてご紹介させて頂きます。彼女は貴女様の忠実な信徒であり、私の腹心 ラセイム・テュボーン です」
目を惹く
「この農園”神の園”の管理を務めさせて頂いております。ラセイム・テュボーンです。是非、ラセイムとお呼び下さい」
凛々しい声でひざまずく姿は、まるで女騎士……いや、女性歌劇団の男役のような中性的な印象を受ける女性だった。
俺は、慣れない振る舞いに戸惑いつつ……。
「……宜しく頼む……」
言葉を返すと――彼女は再び、仰々しい拝礼を見せるのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
その後……俺達はラセイムの案内でこの広大な農場を見て回ることとなった。
道中、彼女の話では……。
どうやら、この農場にはいくつかのセクションに分れており、各場所で様々な農業が行われているらしい。
ざっくりと大きく分けると四つ――。
畑
堆肥化施設
果樹園
牧場施設
である。
――まず最初に、ラセイムが案内してくれたのは、この農場の中核――堆肥化施設である。
大農園の一番奥。その隅に、ぽっかりと空いた大穴。それがいくつも、造られており――瞬間、漂ってくる田舎独特のような匂いに思わず鼻をつまんでいた。
ここでは都市の公共事業――各家庭のゴミ処理問題、その政策で集めた人糞、生ゴミを回収したものを堆肥する作業が行われていた。
「教主様、マリー様、こちらを御覧ください……」
そう、ラセイムが合図すると――従業員が魔法で地面に大きな穴を掘り、そこにゴミを入れ始める。
そして、別の従業員が火系統の魔法で加熱消毒を行う。
「そのまま使うと作物が根腐れする為、発酵させてから畑に撒きます」という彼女の説明が続く。
これはまさしく、現代の堆肥作りと同じ方法。
だが、その解説の中で、特に驚いた点があった。
それが匂い対策である。
普通、堆肥の匂いを消す方法は肥料を深く地中に埋め臭いが自然に消えるのを待つのが一般的だが……ここではマリーが開発した特製の”木酢液”が使われていた。
(確かに……さっきまでの悪臭が噓みたいに消えている……)
このマリー・スクエットは、この世界の薬草類の知識に長け、化粧品や香水などの薬品の製造を深く理解している。
その知識はこの農場の至る所でフル活用されていたのだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
俺達は、まだまだ視察するものが多いという事で――次は牧場施設に向うこととなる。
大きな納屋と、その周囲をグルっと一周、広範囲に囲う――柵。
その中には、白い毛に覆われた羊のような魔獣が大量に放牧されていた。
「教主様、こちらが当農園で飼育している家畜
丸いフォルムに、もこもこの白い毛。そして、二本の巻き角――と、どこからどう見ても羊である。
どうやら彼女の話では、この魔獣はこの森に多く生息しているらしく、冒険者のアルクさんが中心となって生け捕りにしたとのこと。
その性格は大人しく主食もそこらへんの雑草と、草食動物と同じで……見た目の愛くるしいさも相まって、この農園では女性従業員達の愛玩動物になっているらしい。
つまり、食用ではないのである。
では、なぜここで飼育しているのか……それはこの魔獣の特徴、白い毛に関係があった。
この毛は一年中伸び続け……刈っても刈っても生えてくる。
そう、その厄介な毛を材料に毛織物を作るのである。
このアイディアの原案者は繊維・衣服課 裁縫師 アンナ・セカネスさんだった。
彼女は現在、<レサエムル村>の従業員が着る祭服や患者服などこの村の全ての衣服の製作してくれている。その原料が、この魔獣の毛、つまりは
現在、疫病の影響で都市<ボンペイ>内の外貨は減る一方となっている。
しかし、これが上手くいけば……都市の新たな特産品として他国に売れる。
そう、これは新たな貿易品。そして、新規事業――綿工業だった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
その後、俺達は畑へと戻る。
そして……本題――この農園、最大の謎。
なぜ、この農園の作物はこんなにも短期間で栽培出来るのか? である。
その秘密はマリーが製造した魔力と体力を回復させる霊薬『魔薬』にあった。
これは、”黒死病”の治療時、症状を遅らせられるという理由から処方した薬である。
その効果は治療、薬としての使い方だけではなく、植物の成長速度にも大きく影響を及ぼすのだという。
そう、畑にを撒くと、作物が何倍ものスピードで育つという優れものだった。
(どんなチートの薬だよ、万能薬過ぎるだろ……)
俺はそんなツッコミを心の中で呟きながら、ラセイムの説明を聞いていた。
しかし。
当初、そんな万能薬にも一つ、ボトルネックがあったのだと彼女は云う。
それは、単純に『魔薬』の数が足りないという問題である。
”ヘアン”という植物から製造される『魔薬』。
ただでさえ、”黒死病”の治療に使い、数が不足しているのに……その上、農業に使用する量を増やすとなると――相当な時間とコストがかかる。
製造自体は人手を増やせば何とかなるものの、問題はその”ヘアン”という植物の栽培成長スピードだった。
つまり、植物の栽培成長スピードを早める為には『魔薬』が必要で、その原材料にも栽培成長スピードを求められるという事である。
なんともややこしい問題で、一見すると、どうにもならないように思えるが……。
しかし、そこを解決する妙案、その一筋の光明が差す。
それは以前、俺がポツリと呟いた言葉――。
「……その場合、考えられるのは畑の肥料とか……ですかね」
そう、肥料という
以前領主の部屋でマリーが話した――すべての生物が持つ、魔力の源 『魔元素』。
人間は魔獣の肉や植物から『魔元素』を摂取している。当然、その排出物や生ゴミにも『魔元素』は含まれており、それを肥料として再利用するのだ。
その考えは彼女によって実証されることとなる……。
結果――”ヘアン”の栽培成長スピードは飛躍的に改善し、さらに農作物の方の栽培にも取り入れることで相乗効果を得る。
そして、その効果は最早、足算というより掛算的な効果で……。
故にこの広大な畑でここまで大量かつ、短期間で作物を育てることが出来たのだった。
これはまさしく、農業の革新――その起爆剤だったのである。
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