異世界のゴミアイテム『聖遺物』で『宗教ビジネス』……のはずが『ルネサンス・宗教改革』~ 追伸、信徒が『カルト教団化』し、国を滅ぼそうとしてます。誰か助けて下さい ~
第48話 そして会議は踊り、天才によって変な方向へと突き進む
第48話 そして会議は踊り、天才によって変な方向へと突き進む
会議も大方終盤になり、今後の方針も大方、定まってきた頃――部屋の外、廊下の方から誰かが急いで駆け寄る音が聴こえてくるのだった。
「ん……なんだ……?」
領主がその疑問を口にした瞬間――突如、その部屋の扉が勢いよく開かれ――。
「領主! 見てよ! やーっと完成したんだよ!!」
大きな風呂敷を抱えた青年が声高々に叫び、領主の部屋に入ってくるのだった。
(――えっ……誰?)
あまりにも場違いな雰囲気、場所に急に飛び込んできた、その若者は金色の巻き髪に青い瞳、歳は高校生くらいだろか……どこかの田舎から都会に出てきたような異国の青年だった。
その場違いな彼に周囲が困惑し、静まる中……領主の肩が小刻みに揺れ始める。
「……このばかもんがぁぁあああ! お前は今、何時だと思っておるのだ!!」
突如、稲妻のような領主の𠮟責が部屋全体に響き渡る。
その大声に思わず俺までビクッと肩を震わせてしまうのだった。
「だいたい、お前は! 娘の肖像画を依頼したのは、いつだと思っておるだ!! 一年以上も前だぞ! なんで、お前は……そう、いつも決められた納期を守らないのだ!!」
「いや……そのですね……どうしても……納得……いかなくて……」
「――なら、それもちゃんと報告しろ! 全く、だからお前は”生産組合”からの依頼も打ち切られるだぞ! 少しは仕事という自覚を持て!」
いつも物静かな領主がここまで激怒するのは、珍しい。
俺はその態度から二人の近しい関係性が垣間見えていた。
「はいはい、すいませーん……」
「何だ! その腑抜けた返事は!? 本当に反省しているのか!? だいたい……お前はいつも……」
と、領主の怒涛の説教が続く。しかし、青年の態度は一向に改心する気配がない……。
その様子に領主は、次第に腕を組み始め、荒い鼻息と共に黙り込んでしまうのだった。
「ええっと、すいません! 領主様……こちらの方は……?」
「ああ……すまんかったな……改めて紹介しよう。こいつの名は オルレド・ナチヴェン、うちの専属の画家だ」
……オルレド……ナチヴェン?
……どっかで聞いたような?
「ちわっす! どうも~よろしくっす!」
しかも……この態度……なんか若者特有の生意気な軽い調子だな?
ちょっと腹立つ奴だぞ……。
「前に画家を紹介して欲しいと言っていたな。こいつが、その例の画家だ……本来だったら、会議の前に紹介するつもりだったのだが……」
「……?」
そう、領主が鋭い目つきでオルレドを睨みつける。
しかし、青年はそんな様子にも悪びれもなく、口笛を吹きがら、遅刻を誤魔化そうとしていた。
「見ての通りの問題児でな……正直、推薦すべきか悩ましいとこだ」
「はあ……」
どうやら……領主の話ではこの青年は――。
納期は守らない。
頼まれてないことを勝手にやる。
自分の興味が沸くことしか描かない。
という偏屈な画家らしい……。
「……大丈夫なんですか?」
「すまん……そこに関してはなんとも言えん……だが……」
「……だが……?」
そう、言って領主は苦笑を止め、真面目な口調となる。
「こいつは間違いなく天才だ……」
俺はその言葉に驚いた。
これだけ、ダメ要素満載な青年なのに……それでもなお、彼を天才と断言し太鼓判を推す。
その理由はなんだろうか?
「なるほど……少し、絵を拝見させて頂いてもよろしいですか?」
俺は、領主から許可を貰い、その青年から完成したという作品を受け取った。
そして、被せていた包装の布を取ると、そこには……。
ドレス姿の少女が真っ赤な花束を抱え、こちらへと満面の笑みを浮かべている絵。
モチーフは領主の娘 ユリアナ・サンジュ=ルクモレンで、写実的ながらも彼女の可憐さがよく惹きたてられており、より一層魅力的に描かれていた。
「……これは……凄い……」
思わず、感嘆の声を漏れ出る。
それは誰が見ても、目を奪われてしまう程の作品。
特に驚いたのは、徹底された創意、工夫の数々。
モチーフの彼女をリアルに描く為、薄い色彩を何度も上塗りする技法 スフマートが多く使われ、更に絵全体の立体感を演出するため、背景は空気遠近法でぼかし、遠近法で人物をグッと前に引き出している。
その完成度たるや……。
絵の素人の俺でも、どうやったらこんな絵が描けるのか? という疑問が湧いてくる程の
(確かに……これを見たら、領主が天才だというのが頷けるなぁ……ん……? ちょっと待てよ……これ、どこかで……見たことがあるぞ)
俺は曖昧な記憶を必死に呼び起す、すると――脳裏にある一枚の絵が浮かび上がってくるのだった。
それは、都市の郊外、ヴァセリオン教団の運営する立派な美術館。フィデスと一緒に視た見事な一枚の宗教画。
(ああ! 思い出した! あの美術館で見た絵と、そっくりだ!)
そうか……こいつは……。
「ふふん、凄いでしょ♪」
あの宗教画の作者か――。
確かにこいつの作品は、他の作品とは一線を画すほど、ずば抜けていた……。
まさかこの青年だったのか……。
俺はその彼を今一度、その作品を視た。
これなら、俺がこれからやろうとしている事にピッタリの適任の人材である。
確かに問題はあるかもしれないが……この作品の完成度。両方を天秤にかけても、充分お釣りがくる程の才能だ。
まあ、納期は守って貰えれば完璧なんだが……。
「ところでさ……そこの綺麗な女の人は誰?」
唐突に、青年 オルレドがマリーを見つめ指差す。
「また、お前は……初対面の相手になんだ! その口の利き方は!」と、注意をするが、彼は彼女に興味津々の様子だった。
「初めまして、天才画家さん。私はマリーと申します。以後おみしりを」
彼女は失礼な青年に向かい、丁寧な大人の対応と微笑みで返す。
綺麗な長い黒髪。全身漆黒の慎ましい祭服。しかし、隠しれない豊満な胸元とプロポーションが見てとれる。
街ですれ違ったら、振り向かずいられない程の美女である。
オルレドはその容姿端麗な彼女を上下全身をまじまじと見つめ……。
徐々に近くなる距離。そして、こくりと頷き……次の瞬間、オルレドは真顔でとんでもない事を口走るのだった。
「君のヌードデッサンを描かせてくれ!」
その瞬間、部屋の時間が止まる。
「な、な、な……」
そして……。
「 「 なんだとぉぉ”お”お”おおおぉぉおおおおおお!!!? 」 」
一拍おいて、一同の驚愕する声が木霊する。
(――――!!!!? 今、こいつ……なんて言った!!!!?)
そのとんでもないセクハラ発言に――。
その場にいる漢達の全員が、、立ち上がり騒然となる――。
「オルレドッ!! お前はぁぁああ”あ”ああぁあああ! 誰か、今すぐ! こいつをつまみ出せ!!!」
顔を真っ赤にして激怒する領主。
流石にこれにはあのティルさんも珍しく戸惑う様子を見せていた。
(……そうだよ! 領主の言う通りだ!)
それに……そもそも、彼女がそんな事を承諾するわけない――。
「ええ、いいですよ」
「 「 えぇえ”え”えええええええぇえええぇええええ!!! 」 」
その瞬間、領主は椅子から転げ落ち――俺はあまりの衝撃に言葉を失い、棒立ちになる。
(……俺の聞き間違いだよな……? そうですよね、領主様?)
そう、移す視線の先。領主サンジュ=ルクモレン伯は執事ティル さんに身体を起こして貰い座り直す。
そして、改めて冷静になり一言「悪夢だ……」と呟き、何かを諦めたように頭を抱えこんでしまったのだった。
(嘘だろ……)
それとは対照的に「よっしゃぁぁあ”あ”あああああ!」という青年 オルレドの叫びだけが部屋中に響き渡っていた。
「オルレド様。 その代わりと言っては何ですが、私からのお願いも聞いて頂けますか?」
「うん、いいよー♪ 聞く、聞く♪」
(おい! こいつ……阿保だろ……)
まだ、その内容も聞いてないのに、
「――では、こちらの誓約書にサインお願い致します」
「分かった♪」
言われるままにウキウキで彼女が用意した書類にサインする
内容も確認せず、血判まで押す。
その怒涛の展開に俺の思考回路はショートしていた。
そして……。
「ありがとうございます。これで無事、契約成立でございます」
会議は最早、マリーは絵に描いたような営業スマイルを見せ――領主は青ざめた表情で項垂れて――その横ではオルレドが部屋中を小踊りし始める――
「ぇ……あ、……ま、……マリー……さん……いいのですか!!?」
戸惑い精一杯、絞り出すよな俺の声に――。
(おいおい……マジかよ……)
――彼女がいつもの微笑みを返す。
彼女も女性。彼みたいな一流の画家の被写体になりたいという願望があるのかもしれない……。
(しれないが……)
糸が切れたように力なく椅子に座り込む俺は……。
(そ、そ、そ、そんなの……)
心の中で……。
(ずるいぞぉぉぉおお”お”お”おおおおおぉ”ぉ”お”お”おおおぉぉぉおおお!!!!)
と嫉妬の雄叫びを挙げるのだった。
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