第25話 激苦共同生活


 数日後……。

 俺は、旧領主の部屋の机の上で、大量の書類に埋もれていた。


 今、俺を悩ましているもの。

 

 それは大量の事務処理である。

 

 (だぁああああ!!めんどくせー!!!)

 

 この世界では書類はもちろん、義務の報告も全て紙で済まさなければならない。

 確認しなければならないこと山積みな上、メールやコピー機もないので、全て手書きだった。

 

 この事務の面倒さは……あれだ。

 天草教団で働かされていた時の状況と似ている。


 あの時は、各部の上司が年配者ばかりで、パソコン使える人いなかったから、全てがアナログだった。書き直し、修正するにも手間がかかるし、情報共有もきちんと取れているか不明だった。

 そりゃ……無駄な仕事、残業時間が増えるのも当たり前だ。

 

 その状況をなんとか業務改善しようと、兄 天上に進言した時なんて……。


 『そんな事いちいち俺に報告するな』と一蹴され、まともに話しすらしてくれなかったっけ……。


 まあ、そんな昔話はどうでもいいが……問題は今の状況だ。


 せめて活版印刷の普及。

 これはおいおい、改善しないといけない最優先事項だった。


 そして……もう一つ。俺を悩ませるもの……。


 「カミヒトさん!お茶が入りましたよ!」

 

 それはこのフィデス・ガリアである。

 彼女はここ最近、俺の傍で事務仕事の手伝いをしてくれていた。その仕事ぶりは、少し天然で可愛いところはあるものの、秘書として献身的なサポートしてくれていた。


 「冷めないうちにどうぞ!」

 

 問題は……彼女が淹れてくれるお茶が、激クソマズな件である。


 まるで、その辺の雑草を適当に摘み、便所の水を使って淹れたんじゃないか……という毒殺レベル。

 これはこの世界の茶葉がどうとか、水質がどうとかいう次元ではない。

 純粋な彼女自身の才能である。


 (このままでは……俺の身が持たない……)


 「さあ、どうぞ!」


 (ここは正直に不味いというべきなのか……)


 しかし、俺の口からは言えない……言えるわけがない。

 

 「どうかされましたか?」


 献身的に尽くす、その慈愛に満ちた表情。

 

 なぜなら彼女は一切悪気がないからである。


 これは……あれだ。

 

 新妻が一生懸命作ってくれた料理が美味しくなかった場合、男はどういう対応すべきか?


 先人の英知に学ぶ偉人達が、何日間も論争を繰り広げ、時に殴り合い……励まし合い……大激論の末、導き出した一つの真理。

 

 その答えは……。


 『汝、受難を受け入れろ』だ!


 俺は深呼吸を二、三回繰り返し、覚悟を決める。

 手に取るテーカップ。

 震え出す手から伝わる波紋。

 そこに映し出される怯えきった自分の情けない顔。

 

 「……い、頂きます……」

 

 おい、眩しすぎるぞ……。


 「……とっても……ゴボッ……美味しい……です……」


 その満面の笑みが……。


 「それは良かったです!さあ、もう一杯いかがですか?」


 (くっ……神はまだ、俺を試すのか?)

 

 決めた……。

 

 フィデスには悪いが……。

 エバさんやマルタにお願いして、厨房を出禁にして貰おう……。

 ――じゃないと、死人が出る。


 


 〓:::〓:::〓:::〓:::〓:::〓:::〓:::〓:::〓:::〓:::


 

 あとがき

 

 お読み頂き誠にありがとうございます。

 久しぶりの長編物でお見苦しい点があるかもしれません。

 良ければ、コメント頂けると嬉しいです。


 第二章 ”レサエムル村の復興と宗教設立編” の開幕でございます。

 この物語の起承転結 ”承” の始まりです。


 まずは疫病対策ということで、物語が進んでいきます。


 史実では、この宗教と疫病は切っても切れないもので良くも悪くも各宗教自体を変容していく、決定的な出来事の一つです。

 他にも活版印刷など宗教がらみの多数出てきます。お楽しみに。

 

 良ければ、コメント・感想と評価を頂けると嬉しいです。

 いつも いいね される方ありがとうございます。大変励みになっております。


 なお、この作品の更新は不定期させて頂いております。

 推敲の進行速度とストック状況によって途中、休載するかもしれません。

 楽しみにして頂いている方には大変申し訳ございませんが、御理解のほどよろしくお願いいたします。


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