2章 廃村の復興と宗教設立編

第24話 廃村<レサエムル村>でのリスタート


 『 まだこの世界に何もない時から、キリストは神と共におられました。キリストは、いつの時代にも生きておられます。キリストは神だからです。 このキリストが、すべてのものをお造りになりました。そうでないものは一つもありません』 ―― ヨハネの福音書 1章 1ー3節 ――


 

 領主の命を受けた後、俺達は、内密に都市の郊外へと護送されていた。

 

 すでに辺境都市<ボンペイ>に蔓延した疫病”黒死病”。

 その患者を隔離、治療するための施設。それを作るため俺達は、廃村<レサエムル村>へと俺達は急いでいた。

 

 四輪、屋根ドア付き常用馬車コーチ二頭立てで帆馬車を引く、白い毛並みのダチョウのような魔獣――駆鳥コンドバート

 その車輪の振動に揺れ、傾きかけた午後の光がわずかに差し込む車窓。そこから見える牧歌的で、のどかな草原風景。

 鳥のさえずりさえ、聞こえてきそうな気がする……。


 そんな爽やかな昼下がり、その帆馬車内は……。

 

 「ユーグル様、なんで貴方がここにいるのですか?」


 「まあ……そう言うなって、嬢ちゃん……」

 

 殺伐した雰囲気が漂っていた。

 

 俺を挟んで、その両脇……。

 フィデスがユーグルを辛辣に揶揄する。

 

 「大変暑苦しいので外で護衛してくれませんか?」

 

 「いやいや、これも立派な護衛だから、あんまり邪険にしてくれんなよ……」


 罰が悪そうな反応を示す赤髪。

 それは以前の決闘時、彼が俺をボコボコにした事が尾を引いているのだろう……。

 凛々しい端正な顔立ちに、華美ながらも少し仰々しい西洋甲冑ゴシック式を纏う、若き騎士。

 ユーグル・ドモアンである。

 

 彼は領主への直談判以来、城の衛兵隊長の任を降ろされ解雇されてた。

 それは領主の許可なく、勝手な行動を取った罰だった。しかし、本来彼がとった行為は、最悪、死罪にもなりうる重大な反逆行為。この処分は<ボンペイ>の領主 サンジュ=ルクモレン伯 の最大の恩赦ともいえよう。


 それは、その彼についてきた部下6名も同様で……。

 表向けの処遇は解雇だが、その実、村の護衛として彼らが派遣されていたのだった。


 そして……その重要護衛対象。

 輝くような金色の髪。顔の右半分を覆い隠す、薄桃色柄のスカーフ。服装は露出を極限まで隠すような襟詰め、長袖ロングスカートの白のワンピース。その生地から浮かび上がる曲線美のシルエット。

 清純な乙女 フィデス・ガリア であった。


 「……せっかく……二人きり……で話せると……思ってたのに……」


 「あ? ……なんか言ったか!?」


 「なんでもありません!!!」


 「チッ……そうかよ!!」


 フィデスはその頬を膨らまし、そっぽを向き――。

 ユーグルは不機嫌な態度を隠さず、頬杖をつくのだった。


 (こいつら……ほんとに水と油だな……)

 

 その間に挟まれた俺は、只々、愛想笑いするしかなかった。

 

 正直、彼女が怒こる気持ちには同意見だ。

 いくら、リスクを負う覚悟、周囲を納得させるためだといえ、あんな手段、暴力的な行為でなくても良かったと、俺は思う。

 事実、他にやりようはいくらでもあった。だが、彼はそれが出来ない、その方法を知らないのだ。

 そういえば、出自が名門の武家と言っていたっけ。

 つまり、こいつは良くも悪くも”武力”でしか、物事を解決できない……とことん不器用な奴なのだ。


 (まあ、俺もそれを知っていたから、その考えに乗ったのだが……)

 

 やがて、流れる車窓の風景が変わり……。

 射し込んでいた光は、新緑の色どりの影に遮られ、その影を落とす――。


 それを頃合いと見た俺は……。

 

 「……だいたい、貴方は――」

 

 「まあまあ、フィデスさん。それよりもそろそろ着くので、その辺で……」

 

 彼女の小言を遮るように口を挟む。

 

 その言葉に口籠る彼女は、少し甘くないですか?……そんな上目遣いの視線を俺に見せていた。


 (おいおい、こんな険悪な感じでこの先、やっていけるのか?)


 この先、一抹の不安を残しつつも……。

 俺達は目的地へと到着するのだった。

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇





 <レサエムル村>。森の中にひっそりと佇む、その村は、かつて約400名程が暮らしていた村だったが、今はその名残り……潰れかかった木造の廃墟が点在していた。

 まるで森に飲み込まれてしまった、という雰囲気だった。


 「お待ちしておりました、皆様」

 

 出迎えてくれたのは、白髪の老紳士。領主専属の執事 ティル ・ニクソンだった。

 

 俺達を帆馬車を降り、彼の案内で村の奥へと進む。

 見えてくる巨大な洋風の建物。旧領主邸 センブル邸である。その外観は避暑地の豪華な別荘のような佇まい。

 モノトーンな色調の壁にツタが絡まっていて少々、古めかしいさがある三階建ての屋敷だった。

 

 その中へと足を踏み入れると――。

 内観は迷子になりそうな複雑な構造。広々とした玄関口、ロビー、長く伸びた廊下に、部屋数も多い。別館には大勢の人を収容できるホールもあった。

 

 (もし、俺が子供だったら、きっと走り回りながら、かくれんぼ遊びをしていただろうな)

 

 そう、こんなオッサンの俺でも、好奇心を刺激されるような建物構造だったのである。


 執事 ティル が屋敷の中を一部屋ずつ案内する。各部屋の内見。そこは外からの印象とは打って代わって、内装は思ったより綺麗で、総合的に見て、大勢の従業員が暮らすには充分すぎる居住空間であった。


 そして、最後に案内してくれたのは、一番最上階の大部屋。旧領主の自室である。

 その窓を開け、新鮮な空気を入れる執事 ティル。外の風景は、一面を覆うの緑色と、奥にはキラキラ碧く光る水面――大きな湖が見えていた。

 

 「これなら大勢の患者を治療できそうですね」


 「ええ、つい最近まで、魔獣狩猟ハンティングの休憩などに使用されていたので少し手入れすれば、利用可能かと……」


 すでに村のいたるところで金槌の音が鳴り響く。

 領主が直々に手配してくれた人々は、俺達より先には現地に入って、食料や必要物資など搬入がおこなってくれていた。


 今日から俺とフィデスはこの屋敷に移住することとなる。

 それは屋敷内の警備含め、ユーグル達や村を手伝ってくれる人々も一緒だった。


 辺境都市<ボンペイ>から帆馬車で半日離れた、ここ廃村<レサエムル村>。

 その旧領主邸 センブル邸を中心として村全体を緊急の治療施設とし、今日から皆で共同生活を送る。

 

 それが俺達の再出発だった――。




 

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 


 時同じくして――。


 <ボンペイ>都市の町はずれに佇む、巨大な石造りの建造物。 豪華な神殿。

 部屋の中で温かい蒸気が下から上へと上がっていく。

 その一角、部屋の中は温かい蒸気に包まれていた。一人で入るには広すぎる程の純金色の大浴槽。これまた、純金の獅子の口からドバドバと溢れ出る温水。

 湯気の向こうに踏ん反り返り、湯船に浸かる小太りの中年の男。


 ヴァセリオン教団 <ボンペイ>支部 神官長 ゲイション・ローリンコである。


 彼の両脇には二人の裸の美女を侍らし、浴槽内には赤い花が一面、湯船に漂う。

 酒池肉林の光景だが、その表情は……眉間の皺を寄せ、酷く不機嫌な様子だった。

 

 「ゲイション様……その、大丈夫ですか?」


 そう、信者の女が自分の胸を押し付けながら、猫なで声を出す。

 

 「これが平気なものか!!!」


 それを無下に扱う様に手で払い、怒気を孕んだ声を張り上げる。

 痛々しく腫れた自分の頬を摩り……苦虫を嚙み潰す表情をみせていた。

 

 「ゲイション様……お楽しみ中、失礼いたします……お呼びでしょうか?」


 白い礼服の男がその部屋へと入って来て一礼する。


 「おい、貴様!! いつになったら、あの不届き共を連れてくるんだ!」


 瞬間――部屋中に、傲慢な怒号が響き渡る。

 その声に委縮した男は、震えた声で返事をしていた。

 

 「恐れながら……その……所在不明でして……」


 「ふざけるな!! いつまでこのワシを待たせる気だ!!」


 「……ですが……」

 

 「うるさい口答えをするな!! どんな手を使ってもよい!何が何でも捕まえてこい! いいな!!」


 「……かしこまりました……」


 男が逃げる様にそ、の部屋から去った後も……。


 「クソ……、あの不届き共め!」


 勃然と湧き上がる怒りを吐き出し――その太った身体を震わせる。


 「このワシを殴っておいて、この街で生きられると思うなよ……」


 そして、下品な金歯を見せつける様に……。


 「必ず、この世に生まれてきたこと後悔させてやるからな……」


 と――その口角を吊り上げるのだった。




 

 

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 あとがき

 

 お読み頂き誠にありがとうございます。

 久しぶりの長編物でお見苦しい点があるかもしれません。

 良ければ、コメント頂けると嬉しいです。


 第二章 ”レサエムル村の復興と宗教設立編” の開幕でございます。


 この物語の起承転結 ”承” の始まりです。


 ここからは新キャラが続々と登場し……皆、様子がおかしくなっていきます。

 新たな新興宗教の設立です。


 『あなたは神人を信じますか?』

 

 この宗教はどんな咎人でも受け入れる理想郷でございます。

 皆様の入信を心よりお待ちしております。

 

 良ければ、コメント・感想と評価を頂けると嬉しいです。

 いつも いいね される方ありがとうございます。大変励みになっております。


 なお、この作品の更新は不定期させて頂いております。

 推敲の進行速度とストック状況によって途中、休載するかもしれません。

 楽しみにして頂いている方には大変申し訳ございませんが、御理解のほどよろしくお願いいたします。


 

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