第20話 叩けよさらば道は開かれん


 『狭い門から入りなさい。滅びに通じる門は広く、その道も広々として、そこから入る者が多い。しかし、命に通じる門はなんと狭く、その道も細いことか。それを見いだす者は少ない』 ―― マタイ7章13-14節 ――


 

 「ここか……」


 俺とフィデスは無事、都市の心臓部へと辿り着く。

 

 静まり返った闇夜に紛れ、茂みからその様子を窺う――領主の城 <イシスール城>。

 ここ辺境都市<ボンペイ>の中心、小高い丘モットの上に建てられたその城は、外観からは連続的につながった防御壁に囲まれた巨大な建築物。満点の夜空に浮かぶ、古くも強固な石造りの白亜の外壁と尖塔。

 その様は、さながらRPGゲームに出てくる城塞、中世の城のようだった。


 (これは……外からの侵入は不可能だな)


 「カミヒトさん、これから……どうするのですか?」


 と、小声でフィデスが問いかけてくる。

 彼女は不安げな表情を浮かべていた。


 「堂々と正面から行きましょう……」


 そう、言うと――先行する俺は、その正面、人の高さの3倍の大きさの木製の門扉の前へと近づく。


 これは決して、無策ではない。


 俺には、ある確証があった。

 それは、この都市に来た時、アレクが言っていた言葉。

 

 『ご存知ありませんか?<ボンペイ>の領主 ルクモレン伯 の御触れの件ですよ。なんでも、国の各地から”治療魔法師”を募集していて……』

 

 これは、たぶん……疫病対策の為だろう。


 つまり、<ボンペイ>の領主 ルクモレン伯 はこの状況を知っているのだ。


 未知のウイルスがこの都市を静かに蝕んでいることを……。

 

 希望はまだ繋がっている……問題は、どうやって、その糸を手繰り寄せるか、だ。

 

 俺は、その近くにいた門番の兵士達へ話しかける。


 さも、自分達が”治療魔法師”で、募集を聞いてきた風に装う。そして、その警戒心を解くことに成功……。

 

 更にこう、話を切り出すのであった。


 「緊急の要件で、城の衛兵 ユーグル・ドモアン 殿に”占い師”が逢いに来たと伝えてもらえぬか?」と――。


 兵士の一人は、確認するため一度城の中へと入る。


 そして、待つこと……数分。


 無事許可が取れたようで。


 俺達は城内の詰所へと案内されるのだった。



 

 

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 

 まるで「お城の中にお城がある」そう、錯覚するほどの幾重にも張り巡らされた多角形な城壁、集中式城郭。

 城の中は、いくつもの廊下を渡る複雑な構造、沢山の人で使用人に溢れ――。


 「早くしろ!急げ!」


 至る所でせわしくなく、人が動いていた。


 ……何だ?この喧騒は……。

 

 その違和感に思わず、眉を顰める。


 何か、この城内のどこかで良くない事が起きている、そんな風に見えるのだ。


 どうも腑に落ちない異変。

 

 それを横目に俺達は、ある部屋の前へと案内されるのだった。

 

 「隊長!お連れしました……」

 

 俺達が足を踏み入れる部屋。その中は、冷たい無機質な石の四角形。壁に掛かった多くの武器や防具。

 20人~30人が着替えられるほどの広さで、微かに部室のような汗臭さが残る。

 閉鎖的な空間の待機所だった。


 そして、一番奥で椅子に鎮座する漢。

 

 待っていたのは。

 燃えるような赤髪が印象的な長身の衛兵 ユーグル・ドモアン だった。


 「おお、あんちゃんじゃないか、今日はどうした?」


 「……お願いあって、こちらまで伺いました……」


 俺がそう、言うとユーグルは部下達に退室を命じる。


 そして、フィデスの存在に気づくと――。

 

 「そちらは?」とした顔を覗かせたので、すかさず俺は……。

 

 彼女の紹介と、この都市で起きている疫病について、話し始めたのだった。


 

 

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 

 「……なるほどな、それは……一大事だな……」


 彼の様子は至って冷静だった。

 これは、その話を信じていないというのではなく、既に知っているという様子である。


 「それで、その嬢ちゃんがそれを治すことが出来るということか……」

 

 そう、厄介そうに短い赤髪の後ろを掻く。


 「そうです!」


 「これは……一度、領主にお伺いをたてなければならないな……」


 やはり、当然そうだよな。

 ここの領主から見れば……見ず知らずの奴が入って来て、都合良い話をする、なんて明らかに怪しすぎる。


 「悪いなぁ、領主の許可がおりないことにはなんとも……」


 「それではダメなんです!どうにかお目通り叶わないだろうか!?」


 今頃、教団の連中が、俺達を探し回っている頃だろう。

 そうなったらもう一度、ここに来られるという保証はないのである。


……この件は、必ず領主様の耳には届くようにするから、今日のところは出直してもらえねえか?」


 時期?何の、だ……。


 点と点が繋がり、線となる感覚。


 先程の城の中の様子。その慌ただしさ……。

 

 その時――俺は……。

 いつぞやの爺さんの言葉を思い出す。

 

 『………………』


 やはり、この為の”御触れ”か――。

 

 ならば、なおさら……今しかない!

 

 揺れる思考に思わず震え出す俺の身体。


 事態は急を要する。

 

 耐えろ……これは……恐怖じゃない……。

 

 ただの武者震いだ。


 その狭間で俺は、急坂道を転がるような覚悟をしていた。


 そして、その口火を切るのだった。


 「もしもの話ですよ……もしも、俺達が強行突破すると言ったら……どうしますか?」


 その言葉を聞き、ユーグルの顔が豹変する。

 

 「無理だな……これは。悪いが今日は大人しく帰ってくれ……」


 その言葉に、一瞬の違和感。

 

 交わされる視線。

 張り詰めた空気が加速していく。


 「それでも行くと言ったら……」


 「……なら、力ずくで追い出すまでだ!」


 そう立ち上がり、声を荒げた瞬間――勢いよく開かれる扉。


 「な……!!?」


 先程まで退席していた部下の兵士達が勢いよく入ってきて――あっという間に俺達を包囲したのだった。


 「お前達は手を出すな……それから、その嬢ちゃんをちゃんと抑えておけよ……」


 兵士達はユーグルの命令通り、フィデスを手厚く拘束する。


 「カミヒトさん!?」


 くっ……この状況は……。


 分かっていたとはいえ、これは……戸惑いを隠しきれない。

 

 ……だが、しかし……。

 

 安心はした……。


 占いで数回視ただけ、だったが……。やはり、こいつユーグルは俺の思った通りの人間だ。


 その部下達が静かに見守る中。


 一対一、対峙する俺とユーグル。

 

 吹き荒ぶ火の粉が徐々にその熱を帯びていく。

 

 「……さてと、正直、兄ちゃんには恩がある。出来れば手荒なことしたくねぇが……」


 千本の針が全身を刺すように総毛立つ――戦慄。

 

 「やるって言うなら話は別だ。……わかるよな、だ……」


 彼の眼つきが以前と同じ……いや……それ以上に、獰猛に光っていたのだった。

 

 


 


 〓:::〓:::〓:::〓:::〓:::〓:::〓:::〓:::〓:::〓:::


 

 あとがき

 

 お読み頂き誠にありがとうございます。


 久しぶりの長編物でお見苦しい点があるかもしれません。

 良ければ、コメント頂けると嬉しいです。

 

 この回では、 第5話 この世界にも神はいないのか?と

 第12話 君こそがこの世界に舞い降りた…の伏線を回収させて頂きました。


 そう、それは、既に始まっておりました。

 

 今作品も大小さまざまな伏線が多いので、今後どうなっていくのか、楽しみにして頂けると嬉しいです。

 

 話の最後、あっ……しばかれる……という感じで終わりましたが……。

 

 私にとって。

 ここから一話一話が真剣勝負。


 その意思を示す、第一章 ”辺境都市での立志編” そのクライマックスでございます。


 これで駄目だったら打ち切り……。

 そんな気持ちで書かせて頂きたいと思います。

 

 良ければ、コメント・感想と評価を頂けると嬉しいです。

 いつも いいね される方ありがとうございます。大変励みになっております。


 なお、この作品の更新は不定期させて頂いております。

 推敲の進行速度とストック状況によって途中、休載するかもしれません。

 

 楽しみにして頂いている方には大変申し訳ございませんが、御理解のほどよろしくお願いいたします。

 

 



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