第15話 そう、つまり……これはギャルゲーだ。


 『わたしと一緒に喜んでください。いなくなった羊を見つけましたから』 ―― ルカによる福音書15章6節 ――

 

 

 待ち合わせの噴水広場前。

 約束の時間より30分前に着いた俺は マルタ からもらったデートプランなるメモを確認していた。


 そこには。

 

 1,市場のカフェテリアで昼食。

 2,歌劇鑑賞。

 3、夕日の見える丘で……キャー!。


 メモには、各場所の道筋が大雑把に書かれていた。

 

 ……なんだ、これ!?アバウトすぎるだろ!


 それに、夕日の見える丘で……キャー!ってなんだ!?二人で叫べば、良いのか?

 

 まあ、いいや……。


 俺は待っている間、少し心の整理をすることにした。

 

 フィデスのスキル。あれは間違いなく、この”黒死病”、疫病を食い止める唯一の鍵だと思う。

 それは現代のペスト対策。抗血清、抗生物質の誕生を知っていれば誰でも簡単に行き着く推察である。

 

 しかし、ここで一つ疑問が生じる。それは彼女は治療魔法師の仕事をクビになっていることだ。

 もし、あのスキルが”黒死病”を治せるのなら、上司が仕事を辞めさせるはずがない。


 彼女の能力に問題があるのか。

 はたまた、その職場環境に問題があるのか、だな。

 

 なんにせよ。今日、俺がやるべきことは決まっている。


 それはマルタのステータスに現れた【信仰度】の欄。

 これはたぶん、俺への信頼のパラメーターであると推察する。


 つまり、ここで好感度を上げ、【信仰度】を80%まで持っていけば、新たな希望が生まれるではないか。


 ……そう、つまり……これは……。


 ギャルゲーだ。


 しかし、ここで一つ。


 俺は重大な欠点を抱えている――。

 

 それは俺が……。


 この歳になるまで女性経験のない、魔法使い、大賢者であるという点だ。


 んー、どうしたものだろうか……。

 

 「……お待たせしました!」


 突如、弾むような女性の声が聴こえてきた。

 

 人並み中を金色の髪を靡かせ、こちらへと小走りする女性。

 真っ白なレースのワンピース。そのロングスカートが翻り、爽やかな春を連想させるファッション。

 その表情は以前の陰湿な印象とは打って変わって、枝毛でバサバサになっていた髪は綺麗にとかされ、少し厚めのファンデーションと桜色の唇。

 しかも、額を覆うスカーフの柄も桃色の明るめのデザインと、おしゃれなコーディネートをしているように見える。

 

 まあ、身体の傷を隠すためか肌の露出は少なめ、……だが……そこには確かに爽やかな春風のような華があった。

 

 あれ?……一体……彼女の心情に何があったんだ!?

 

 俺は以前とは違うフィデスの様子に少々、当惑していた。

 

 「占い師さん?どうかされましたか?」

 

 おっと、ここで……きちんと気の利いた言葉をかけねば。

 

 「……なんというか……服装が華やかで、つい見とれてしまいました……」


 んー、これはどうなんだ……匂うか?

 おっさんの背一杯が半端ない、気がするぞ。


 なんか彼女も恥ずかしそうに俯いているし……これは失敗なのか……。


 約束の時間よりだいぶ、早い集合だが……。


 「……そ、それでは行きましょうか、フィデスさん……」


 「……はい……」


 最初の予定はランチである。

 

 人はなぜだか、一緒に食事をするとその親密度が上がるのものだと――。

 昔、森の奥地の原住民を旅した人がテレビで言っていたっけ。

 

 そんなことを考えながら俺達は市場を抜け、マルタのお勧めの店へと向かう。


 「そうだ!自己紹介……まだでしたよね。私の名前は カミヒト・アマクサ です。改めて、よろしくお願いします」


 「カミヒトさんですね。私も改めて、フィデス・ガリア です。よろしくお願いします……」


 「…………」


 「…………」

 

 道中しばらく、沈黙が続く。

 

 ……こういう雰囲気の時は会話だ。何気の無い会話から始めなければ……。

 

 「いやー、その……あれですね……今日は、いい天気ですね」


 「……そう、ですね……」

 

 (イエス誘導法。イエス誘導法……)


 「今日は雲一つない快晴なので、今日一日の天気、持ちそうで……ホントに良かったですね。」


 「……そう、ですね」


 「いやー、これだけ晴れていると心まで晴れ晴れとした気分になりますなぁー、ハハハ……」

 

 って……俺はお天気キャスターか!!

 

 なんでお天気で話を広げようとしているんだ!?俺は馬鹿か!?

 

 あと、なんだよ!!!『すなぁー』って!!!


 どこかの方言なのかぁ!?その『すなぁー』は!!?

 

 くっ……。

 ここにきて、俺のコミュ障の弊害が……。

 

 しかし、彼女もやはりこういうのには慣れていないという感じは分かった。

 ここは俺が会話をリードするためにも……。

 ここは同調効果だ。親近感を湧せる一言を。


 「いや――、急に申し訳ありませんね。なんか緊張してしまって……」


 「……いえ、私も同じく緊張してしまっていて……なんか……すいません……」


 その後も……。

 たどたどしくも、何とか会話を続けていく。


 「ちなみにこの先にお勧めの店があるのですか、昼食とかはどうですか?……」

 

 「……はい……大丈夫です」

 

 徐々に彼女の固い表情が、解ける様に柔らいでいく。


 今のところ、デートは実にスムーズに進行していた。

 

 マルタが教えてくれた店は、おしゃれなカフェテリアで……出てくる料理は、どれもかなり絶品で、自然と会話も弾んでいた。


 (おお、我ながら……いい感じじゃないか……)

 

 話の内容は、本当にたわいないこと――主に占いによく来てくれる爺さんのくだらない悩みの話など……。

 

 どうやら『怪しい人ではなく、むしろ面白い人』という印象を付けられたのか、彼女は比較的多く、笑っていた印象だった。


 そして。

 

 ―― 【神眼】Lv3 発動 ――


 

 ――――――――――――――――

 

 ~ ステータス ~


 【名前】:フィデス・ガリア

 【Lv】:2

 【種族】:人間

 【職業】:治療魔法師

 【年齢】:22歳

 【状態】:健康

 

 【HP】:95/100

 【MP】:90/110

 【物攻】:G

 【物防】:F

 【魔攻】:E

 【魔防】:B

 【敏捷】:F

 【知力】:D

 【幸運】:G


 【スキル】:【算術】Lv1 【大天使の加護】LvMAX 【手芸】Lv1

 

 【SP】:1200

 【信仰度】:77%


 

 ――――――――――――――――



 俺は彼女のステータスを確認しながら事を進めていた。


 【信仰度】は以前、77%と高い水準を保ったまま、少しずつ上昇傾向にある。


 目標の80%まで、あと一押しだ。


 なお、お互いの出自やプライベートの深い所などの踏み入った話しは一切しなかった。

 

 それが正解だったのだろう。


 その証拠に、会話は途切れることなく、良い感じで進行していた。

 

 そして、食事を済ませた後は、マルタのデートプラン通り、歌劇場に行くことなって


 

 今思うと――。

 俺は、ここまで順調すぎて、少々浮かれていたんだと思う。

 

 そう、これが……。

 後まで続く、大事件の幕開けである――。


 

 

 〓:::〓:::〓:::〓:::〓:::〓:::〓:::〓:::〓:::〓:::〓:::〓:::〓:::〓:::


 

 

 あとがき

 

 お読み頂き誠にありがとうございます。


 久しぶりの長編物でお見苦しい点があるかもしれません。

 良ければ、コメント頂けると嬉しいです。

 

 作品のテーマは

 

 「読者に最高の経験をさせる」=「読者を神にする」です。


 この回はオッサン臭さを前面に推し出して描写してみました。


 これが私の精一杯です。

 もっとほのかに漂う加齢臭をかけるよう、精進していく所存でございます。


 『面白そう!』と思った方や誤字脱字報告等。

 コメント・感想と評価を頂けると嬉しいです。


 いつも いいね される方ありがとうございます。大変励みになっております。


 なお、この作品の更新は不定期させて頂いております。

 推敲の進行速度とストック状況によって途中、休載するかもしれません。

 

 楽しみにして頂いている方には大変申し訳ございませんが、御理解のほどよろしくお願いいたします。

 

 

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