第7話 神を信じ崇めなさい

 

 <コステリヤ神聖王国>の最北東 辺境都市<ボンペイ>。

 四方八方を外壁に囲まれたその都市は、外側からは中の様子が見えないほど立派な城塞と化していた。


 そして、俺達を乗せた帆馬車は、その正門へと近づいていく。


 「……ん、アレクさん、あれは何ですか?」


 そう、俺が指を指す先。だいぶ離れた都市の外壁に、ボロボロの小屋がいくつも立ち並ぶ一角が見える。


 「ああ、あれは不法移住者ですね。ここ辺境へと流れ着いた者が都市の内に入れず、あそこに住み着いてしまっているのですよ」

 「ということは、俺も門番に止められる可能性があるのでは?」

 「いえ、大丈夫です。その辺は上手くやっておくので心配しないでください」

 

 そう、アレクは得意げながらも爽やかな笑顔を見せる。

 さすがは出来る男……イケメン冒険者 アレク・ネノス。

 この世界で初めて会ったのがこの人達で、ほんとに良かったと、心の底から思う。

 

 そうこうしているうちに門番の兵士の元に着いた俺達の帆馬車は、一度停止させられていた。

 アレク が事情を話し、全員の名前を記載する。通過料と幾分かの心付けを払い、すんなりと検問をクリア。

 

 そして、ついに――。


 帆馬車は辺境都市<ボンペイ>の内部へと進むのだった。


 

 

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 

 

 一歩足を踏み入れるとそこには……おとぎの国のような世界が広っていた。

 

 オレンジ色に統一された屋根と高く積まれたレンガや石、木造りの建造物。それが密集するように、いくつも立ち並び、この都市の景観を作り出す。

 住居の壁には、古く劣化した傷がこの街の歴史を物語っていた。

 さらに長く網目状に伸びた複雑な街道。その遠くに見える――巨大な塔。

 と、そこはさながら異国の古都の雰囲気。


 (おお、文明はちゃんとしているみたいだな)

 

 気分は中世ヨーロッパにタイムスリップした、そんな感じだった。

 

 「……あそこが市場で……あの路地曲がった先が……先程、言っていたお勧めの宿です」


 そう、アレクが案内してくれる場内。

 

 少々、歩きづらい石畳の街道。

 通り一帯の露店には、衣料品店や雑貨などの日用品、絹織物・綿織物が並び、一方では、いろとりどりの新鮮な野菜や肉が積まれている。

 俺達はそれらを横目に、人々が賑わう市場を縫うように歩く。

 行き交う人々の服装は、まるで伝統的な民族衣装のようで。

 その光景に安堵の息が漏れる。

 それは、これなら人らしい生活はおくれる、という安心感からくるものだった。

 

 「それでは、俺達はここで……」

 

 と、ここで俺はアレク達と別れることなった。

 

 「俺達は普段、”冒険者組合”にいることが多いので……もし、何かあったら、あそこの建物まで訪ねて来てください」

 

 と”冒険者組合”と書かれた看板の建物を指差し。


 「それでは、また……」

 

 俺は改めて感謝と固い握手し、去り行く彼らを見送るのだった。


 少し、名残惜しいが……。

 この都市にいる限りまた、すぐに会えるだろう。


 そう期待しつつ、俺は市場の散策を再開することにしたのだった。

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 「さて……と……」

 

 俺は今後に向けて思案を巡らす。

 

 今やるべきは、この街で生活基盤を築くことである。

 まずは……衣食住の”衣”。

 こんなではだらけ亜麻布の服を一糸纏った状態では、人に会うにも恰好がつかない。

 早く、この世界の人に溶け込まなければ。


 そんなことを考えながらしばらく歩き、ある露店の前で足が止まった。


 「この服は、一式はいくらですか?」

 「銀貨四枚だよ」

 

 さらに、会話の端々、店の人とのやり取りの中で硬貨の価値と相場を探る。

 ふむふむ、なるほど……だいたい分かってきた。

 

 だいたい銅貨一枚=百円、銀貨一枚=千円、金貨一枚=一万円ぐらいだから。

 銀貨四枚で四千円くらいか……。

 

 とにかく、服は必要経費だ。


 街に馴染めるように俺は服を一式、買う。

 更に交渉の結果……銀貨一枚で、今羽織っている『聖骸布』を簡易的なローブ服として、仕立て貰うことに成功……意気揚々と店を出たのだった。

 

 アレク達から餞別で貰った銀貨は三十二枚 銅貨二十四枚。

 現在の所持金は……約二万九千四百円程度……。


 そこから衣食住の”食”と”住”で更に金は減る。


 何とかして、職を見つけなければ……。


 当面の俺の目標は、生活できる分の金を稼ぐこと。

 大事なのは、その第一歩を踏み出すことである。

 

 最終的には、この都市で事業を起こす。

 その為には、資金を貯めるのと同時に、この世界、都市の事をもっと知らないといけない。

 そこで、今日一日は、散策することにしたのだった。

 

 ここで、ある疑問が浮かぶ――。

 

 おかしい……。

 そういえば、アレク達はこの服装について何も言ってこなかった……それは何でだろうか?


 自分で言うのもなんだが、汚い布『聖骸布』に一糸纏っただけの服装。この格好はかなり変態的である。

 日本だったら即、交番へと呼ばれるレベルなはずだ。


 俺は若干、嫌な予感がしていた。


 ――その時だった。


 

 「神を信じ崇めなさい!!!」

 


 突如、野太い大声が響き渡る。

 群衆の中を掻き分ける様に、その声するほうへと足が向く――。

 市場の中心。噴水広場の前で、誰かがその口上を述べていた。


 「神の存在を信じ、神の愛を受け入れるものだけが救われるのです!!!」


 うるせぇ……。

 

 馬鹿でかい声と耳障りな言葉達。

 禿げ散らかした小太りのおっさんが、盛大に唾を飛ばし――叫ぶ。

 

 その外見は豪華にあしらわれた金色の刺繍に、荘厳な白い生地の祭服を纏う――中年の神官。

 両手五指には黄金色に輝く、見るからに高そうな指輪を付ける。


 「そして、最高神 ホッアー 様は、貴方達に聖なる恵み、『聖水』を与えて下さるのです。さあ、皆様で祈り、讃えましょう……」


 そう言うと――。


 (おいおい、あのおっさんマジか!?……)


 噴水広場の前で水を売り始めるのだった。

 

 その光景に、俺は酷い不快感を抱いた。


 (を売り始めたぞ……)


 それは、最も忌み嫌うもの。

 

 宗教だった。

 

 合点がいった。俺のこの恰好は、この世界では巡礼者、あるいは僧か、そう見られていたから白い眼で見られずに済んでいたのか、と――。

 その証拠におっさんと同じ白い服を纏った集団が一列に並んでいる。


 そのおっさんの元へと並び、長蛇の列を作る――群衆。

 皆一様に、当たり前かのように金を払い、桶を差し出す。


 (ちょっと待って……もしかして……が必要になるのか?)


 しかも、


 (……不味いぞ、これは最悪だ……)


 それだけでも、この都市の情勢が垣間見える――瞬間だった。



 



 〓:::〓:::〓:::〓:::〓:::〓:::〓:::〓:::〓:::〓:::〓:::〓:::〓:::〓:::


 あとがき

 

 お読み頂き誠にありがとうございます。


 久しぶりの長編物でお見苦しい点があるかもしれません。

 良ければ、コメント頂けると嬉しいです。


 今回の作品のテーマは。


 「読者に最高の経験をさせる」=「読者を神にする」です。


 この作品の舞台設定は中世のフランス。


 満足なインフラ設備が整っていない時代を参考にしました。


 そう、勘のいい方はもう、お気づきですね。


 宗教を語る上で欠かせない、アレでございます。

 

 『面白そう!』と思った方や誤字脱字報告等。

 コメント・感想と評価を頂けると嬉しいです。


 いつも いいね される方ありがとうございます。大変励みになっております。




 

 


 

 

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