第3話 宗教なんて、ろくなもんじゃない
『教団で働かせてください……』
そう、俺は高級なブランドスーツに身を包んだ男に屈辱の土下座した。
こいつの名前は 天草 天上 。
俺の腹違いの兄にして、天草教団の現幹部である。
この男は落ち目の俺とは違い、高学歴で見た目は容姿端麗。更には父 天仙 からの信頼が厚く、政界の若手議員とも深いパイプを築いている。
教団の自主映画は主役を務め、その甘い容姿から教団の女性信者達からはキャー!キャー!とアイドル扱いされている存在。
最近では芸能界を突如辞めた出家してきた元女優とも婚約、その上、現教団の幹部と――まさしく次期教祖としての覇道を突き進んでいた。
『ふん、いいだろう。お前のようなクズにピッタリの部署がある……』
こうして俺は、天草教団へと出戻ることとなったのだった。
それから地獄のような生活だった。
教団の窓際部署へと追いやられ、安月給のこき使われる日々。
毎日、信者達のクレームと兄貴の無茶ぶりを浴びせられ、精神はボロボロ。
もはや、考えることさえ、億劫な状態になり……。
――今に至る。
「……お話しした通り、本人の同意がない以上、こちらとしましてもご対応しかねます。もう一度、奥様とお話しになられた方がいいのでは…… 」
「何度もしたさ!でも『悪霊から家族を守るため』の一点張りで話しを聞かないんだ!なんとかしろよ!」
「……そう言われましても……」
正直……この田辺さんには同情するところがあると思う。
見たところ、普通の町工場勤務のおじさんで、裕福な家庭でもなさそう雰囲気。
もし、毎日必死で働いて貯めた貯金を妻が勝手に使っていたら、たまったもんじゃないだろう。
それこそ、悪徳宗教へのお布施という意味不明なものに払っているというなら、尚更である。
「お前らの宗教のせいで家庭はもう、めちゃくちゃだ!」
確かに、その金で 父 天仙 達が毎日、豪遊三昧をしていると思うと――虫唾が走る。
「娘は家出したきり、帰ってこないんだ!」
分かる……こんな宗教、関わりたくない。
――俺もそうだった。
「どうしてくれんだ!」
もしも、この人と逆の立場だったら……。
「もう……俺の人生は……」
同じように憤慨しているだろう。
「……めちゃくちゃだ!」
そう、言い放つと、田辺さんは薄くなった頭を抱えて塞ぎ込んでしまった。
(……参ったなぁ……どうしたらいいんだ……)
俺は只々の時を過ぎるのを、祈るように待っていた。
その時だった――。
「……死んでやる……」
……ふいに呟く、言の葉。
ん……?
作業姿の懐から、鋭く光る……物――。
えっ、……何を……。
震える手で、その刃物を――。
ちょっと、待て――。
その喉元へと――。
それは、駄目だろ!!!!
その瞬間、身体が勝手に動いていた。
「田辺さん! 落ち着いて! 一度、冷静になりましょう! ね! ね!」
激しくもみ合いになり……。
「う、うるせぇ……お前に何が分かるんだ!」
次の瞬間。
――――――――ッ痛!!!
突如、腹部を襲う激痛。
あれ……俺……!?
その場に倒れこんでいた。
……身体が動かない……。
慄く、田辺さんの顔が視える。
「俺は悪くない……悪くないぞ……だって……こいつが勝手に……」
目の前をゆっくりと流れる血の海。
何だ……これ……。
誰かの叫び声が聞こえる。
「救急車! 救急車を呼べ! 早く!」
噓だろ……ここで死ぬのか……。
ゆっくりと霞む視界……。
そんな中で、俺は……。
ポツリと呟く。
「……ほら、見ろ……宗教なんて……」
そのまま電源ボタンを切るように……。
「……ろくな……もんじゃない……」
辺りは真っ暗闇に包まれていった。
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あとがき
お読み頂き誠にありがとうございます。
久しぶりの長編物でお見苦しい点があるかもしれません。
良ければ、コメント頂けると嬉しいです。
今回の作品のテーマは。
「読者に最高の経験をさせる」=「読者を神にする」です。
今回、執筆にあたって
一つ、実験をさせて頂いております。
それは『転生前のエピソードは本当に最低限の良いのか?』です。
本来、異世界転移ものは、ブラウザバック(読者の離脱)を防ぐため
トラックにはねられ死亡……みたいにサラッと書くのが定石ですが
今後の伏線の為、あえて、しっかりと書かせていただきました。
今後、この物語は単純な勘違い最強系主人公ではなく
根拠のある勘違い最強系主人公にしていきたいと考えております。
作者の御都合主義や間延びにならないよう頑張って書いていきたいと思います。
良かったら、コメント・感想と評価を頂けると嬉しいです。
いいね された方ありがとうございます。大変励みになっております。
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