0章 ”悪徳宗教”ブラック労働からのエスケープ

第2話 神の子として生まれ、神の子として育ち、人以下となり下がる


 『信仰のない科学は不完全だ。科学のない信仰は盲目だ』 ―― アルベルト・アインシュタイン ――



 「ちょっと、神人さん! ほら、あそこ! また、あの人が来てますよ!」


 都内の一等地。商業ビルが立ち並ぶ都会の景観に、場違いなパルテノン神殿のような建築物。

 そのロビーで、総務のおばちゃんが、俺に話しかけてきた。


 「げっ、田辺さんか……まいったな、あの人のクレームはいつも重めなんだよな……」


 応接間のガラス越しに見える、工場の作業服姿の中年の男性。

 腕を組み、絶えず足を小刻みに動かしている。

 

 明らかに苛立っている、そんな様子だった。


 (全くもって……憂鬱だ……)


 俺はこの後、受けるであろう叱責に耐えなければならないのである。

 なぜなら、こういった教団へのクレームに対応するのが、窓際部署、信者相談課……。

 つまりは俺の仕事だからだ。

 

 

 

 「……お待たせしました……田辺さん……」


 そう言いつつ、俺は応接室に入り、対面へと座る。すると――。

 

 「妻から奪い取った一億五千万、今すぐ全額返せ!この詐欺師が!」


 田辺さんは開口一番、大声で怒鳴り始めた。

 

 (うわぁ、始まったよ……)

 

 テーブルを何度も叩き、薄い頭に青筋を立てていた。

 容赦ない罵詈雑言がフロア全体に響き渡る。


「……少し落ち付きましょう!だまし取ったのではなく、奥様が自主的にお布施という形で寄付されたのですよ……」

「うるさい! あいつが勝手にやったことだ! 御託はいいから、早く返せ!!」


(そう、言われても……俺のせいじゃないんだよな……)

 

 視線を下げた先、テーブルに並べられた教団のグッズ類。どこの石か、わからない数珠と変な形の壺。明らかに価値のないガラクタばかりである。

 

 (……きっと、この人には、俺があいつらと同類に視えてんだろうな)


 宗教なんてろくなもんじゃないのに、どうしてハマってしまうのか……。


 何で、いつも……俺ばかりがこんな目にあうだろうか?


 

 

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 

 


 天草あまくさ 神人かみひと

 

 その名を聞いて大抵の人は「神の人? なんだ、そのふざけた名前は!」 と思うだろう。


 ――全く持って同感である。


 この名付けの父親は、この天草教団の教祖 天草 天仙。

 母はその愛人で天草家の次男として生まれたのが、この俺だった。


 天草教団とは、会員組織は世界160か国以上、信者数約1100万人を持つ国内最大の新宗教の宗教団体である。

 その理念は世界神『エル・アホンターレ』を御神体とし、古今東西の宗教や思想を統合。新しい心の教えを広めることでこの世界にユートピアを創り~~うんたらかんたらと……。


 ……まあ、ようするに、他宗教の様々な神の上に、自分で創った神を最上の神として祀ってしまった宗教だった。

 それは、自分の宗教こそが最上級であるという事と同義である。


 ――何とも罰当たりな宗教である。


 それでも教祖 天仙 は、圧倒的なカリスマ性を持つ男だった。


 それこそ……。

 独裁者のような饒舌な説法。

 法のギリギリ、グレーゾーンをつく霊感商法。

 イエス・キリストから卑弥呼まで演じ分ける迫真のイタコ芸。


 ――と、平たく言えば、頭のおかしな変人である。

 

 だが、しかし……。


 なぜだか天草教団は、創設以来、瞬く間に信者数を増やし。

 そして、その影響力は政財界まで及ぶのだった。

 

 本来、宗教と政治は深い繋がりがある。

 

 政治家の方は、選挙に勝つための組織票と裏金を――。

 宗教団体の方は『決して怪しい組織ではないですよー』という体裁、イメージアップと――。


 それはもーう、ずぶずぶの関係と言っていいほど、完全に利害関係を結んでいた。

 

 それこそ、教団のパンフレットに肩を組み笑顔で映る 父 天仙 と有名国会議員。まさしく、悪党共の悪巧み、そんな面をしている。

 選挙期間中、教祖 天仙 の『天草教団はこの人に応援する!』という鶴の一声で、彼らは面白いように当選し、この前の 天仙 の生誕祭の時なんか、時の内閣総理大臣までが『感動した!』とコメントを送った程である。


 ――この国は馬鹿ばかりなのか?


 まあ、それでも……。

 『金持ちの家に生まれたのだから、マシじゃないか?』と――そう、思う人もいるかもしれない。


 俺はそんな人に声を大にして言いたい。

 

 現実はそんな甘くないのである。


 俺にとって……そんな父、天仙という男は最悪の疫病神だった。

 毎日の豪遊三昧はもちろん……若くて綺麗な女性信者が入信しては『お主には強力な悪霊が付いておる』と言って、除霊と評し、手を出す。

 挙句の果てに、多くの愛人を最上階に住まわせ、朝から晩までイチャコラ、ハーレム生活を謳歌しているのだ。

 まさしく、やりたい放題である――。


 ――羨……いや、けしからん!!!!


 おかげ、天草教団には黒い噂が絶えず。度々、週刊誌で取り沙汰される始末。

 ワイドショーでは『こういう霊感商法にお気を付けください』と大々的に報じられている。

 

 そう、世間一般の認識では、天草教団の評価は”悪徳宗教”である。

 

 俺の人生は、この馬鹿な名前と毒親の境遇せいで散々なものだった。

 

 俺は元々、勉強もスポーツも特筆した才能など持っていない。

 それどころか何をするにも、人並み以下の才能しか持ち合わせていないのだ。名前負けもいいところである。

 周囲からは白い目でみられ、名前を弄られ、馬鹿にされ続ける日々。

 そのせいで、すっかりコミュ障となった俺は学校にも行けなくなり引き籠り生活。そのまま、なぜか大学受験に失敗し……親族からは、『天草家の恥さらしが!』と、見放され……なんとか中小企業に就職するも周りの人と上手くいかず、すぐに退職と――。

 

 こうして……完全に社会から不適合者の烙印を押され、そのままズルズルとニート生活を送る日々が続き……。

 

 気付くと、30代になっていた俺は……。

 食うことに困った結果……。


 ついに最終手段を使ってしまったのである。



 


 

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 あとがき

 

 お読み頂き誠にありがとうございます。

 久しぶりの長編物でお見苦しい点があるかもしれません。

 良ければ、コメント頂けると嬉しいです。


 今回の作品のテーマは。


 「読者に最高の経験をさせる」=「読者を神にする」です。


 霊感商法?イタコ芸?組織票?

 何やら聞き覚えのありそうな言葉達ですが……。

 安心してください!


 全て、フィクションです!


 たぶん……。


 1話を見て いいね された方ありがとうございます。

 大変励みになっております。


 また、『面白そう!』と思った方や誤字脱字報告等。

 是非、コメント・感想と評価を頂けると嬉しいです。


 

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