異世界のゴミアイテム『聖遺物』で『宗教ビジネス』……のはずが『ルネサンス・宗教改革』~ 追伸、信徒が『カルト教団化』し、国を滅ぼそうとしてます。誰か助けて下さい ~

誰よりも海水を飲む人

プロローグ 

第1話 異世界にて神になる


 『人間にはただ一度死ぬことと、その後に裁きを受けることが定まっている。 キリストも、多くの人の罪を負うためにただ一度身を献げられた後、二度目には罪を負うためではなく、御自分を待望している人達に救いをもたらすために現れてくださるのです』―― へブライ人への手紙 九章 二十七-二十八節 ――

 


 (……何だ……これは!!!!!? )

 

 

 厳粛ながらも神聖さを兼ね備える巨大な石コリント式の建造物。

 その荘厳な造りの神殿のその上部で……。

 

 ――俺は……途方に暮れていた。

 

 視界には木造りの中世の建造物がいくつも立ち並び、北欧の古都を連想させる世界が広がる。


 ……問題は……。


 眼下を埋めつくす人、人、人……である。


 「「「「 教主様!!!! 」」」」


 突如、大気を震わせる大歓声。

 数えきれない大群衆が、犇めき合い。まるで地獄の蓋が開いたような……、そんな迫力が鼓膜を揺らす。


 蒼穹の上空に色彩豊かなの紙吹雪が舞い上がり……乱反射してキラキラと降りそそぐ。

 その祝賀ムードは、街道の奥の方から街角の隅々まで切れ間なく、続く……。

 人々の踏み鳴らす地響きと、天空へと届ける祝福の鐘。

 それらも相まって、場内は、もはや――お祭り騒ぎとなっていたのである。

 

 「「「「 神人カミヒト様! 万歳! 万歳! 万歳! 」」」」


 (……ちょっと……待て! ……お前ら……)


 その光景に俺は思わず息を、呑み込む。

 

 目が合うだけで泣き崩れる老婆。

 肩車をされたの子供が楽しそうに手を振っている。

 老若男女問わず様々な人種が歓喜の声を上げ、皆一様に俺の姿を見て……拝み、祈り、讃える。


 (……ああ……)


 その目に映るのは、憧憬、羨望、崇敬……。


 (……もう……ダメだ……これ……)

 

 ――既視感。

 

 この情景に覚えがある。


 「「「「 神人カミヒト様! 」」」」

 

 そう、これはの――。


 「「「「 教主様!!!! 」」」」

 

 だ。


 「「「「 万歳! 万歳! 万歳! 」」」」

 

 そこで、俺は……ようやく理解する。


 もはや、これは……引き返せないところまでにきてしまっている――と。

 

 

 そして……。

 

 その称賛の嵐に……戸惑う俺の隣に。

 

 一人の金髪美女がそっと並び立つのだった――。

 

 

 「「「「 聖神女様! 万歳! 」」」」

 

 

 光り輝く金色の髪を靡せ、純白無垢な祭服に身を包む修道女。

 その隠しきれない曲線美のシルエット。触れることを許さない神聖な衣装、その生地から、ちらりと覗かせる――輝くような白桃色の肌。

 そこには確かな清純な趣き、乙女の美しさがあった。


 慈愛の手振りで民衆の声援に答える "聖神女"  フィデス・ガリア である。

 

 彼女はその柔らな唇を緩め。

 

 「神人カミヒト様、ご覧下さい!この信徒達迷える子羊の顔を……。皆、神人カミヒト様に感謝しているのですよ」


 そう、優しい口調で語りかけてくるのであった。


 (――な、……!フィデス!俺を騙しやがったなぁあ”あ”あああああ!!!)


 そう、不信の眼を向ける俺に対し。


 彼女は……。


 ――白い花が開くような微笑みを魅せる。


 そのあまりにも屈託のない表情に――。

 

 (……くっ……)

 

 不覚にも心臓が跳ね上がり……。


 (……あざとい……ずるいぞ……)


 俺は不服、不満の言葉を飲み込んでしまうのだった。

 

 そして……。

 


 「おお、こりゃあ! すげぇな……!」

 

 

 ふいに聞こえてくる――無頓着な漢の声。

 

 光を反射する白色の上着サーコート。その下に、煌びやかな甲冑を纏う長身の騎士が姿を現す。

 外見は凛々しい顔立ちに、燃えているような真紅の短髪。

 右手に持つを掲げ、信徒達にその威光を示す――瞬間。


 

 「「「「 聖騎士様! 万歳! 」」」」

 


 英雄の登場のような演出に、会場が湧く。


 その光景に、彼は軽快な口笛を吹かし……。

 

  「この士気の高さなら、今すぐんじゃないか! なあ、兄弟!」

 

 そう、端正な顔に不敵な笑みを浮かべ、馴れ馴れしく俺の肩に手を組む――。


 (こらぁぁあ”あ”あ!! そこの戦闘狂! 冗談でも物騒な事を言うんじゃねぇぇぇええ”え”え!!!!)


 センブル聖堂騎士団 総長 ユーグル・ドモアン である。


 彼の登場に女性信徒達の黄色い声援が湧く。

 

 そして、この絵面は、まるでクラス一のスポーツ系イケメンに絡まれる、陰キャのような……。


 (ダメだ……頭痛くなってきたぞ……)


 そんな俺の学生時代の黒歴史がフラッシュバックした……。


 その時――。

 

 

 「 うふふっ、そうですわね……♪ 」


 

 ――艶やかな女の声色が響く。

 

 

 「「「「 枢機卿様! 万歳! 」」」」


 

 濡羽色の髪にハーブアロマの香り。漆黒の外套に隠し切れていない豊満な輪郭。そのスリットの隙間から覗き見える陶器然とした色白肌。

 世の男性が眼を惹かれてしまう顔立ちと口元のほくろ。妖艶さを纏わせる姿は、まさしく魔性の権化である。


「ここから始まるのですね。最後の審判、原初終末ラグナロクが!……さぞ、邪神アンラ・マンユ様も、さぞお喜びになられていることでしょう♪」


 そう、自分の頬に手を添え、恍惚の表情を浮かべる


 (おい!!! 何を言ってんだ!そこの! わけのわからないことを言ってんじゃねえよぉおおお”お”おお!!!)


 このの最高顧問の一人 枢機卿カーディナル マリー・スクエット である。

 

 並び立つ英雄達の登壇。

 

 (……駄目だ……こいつら……)

 

 心の中で発狂する俺とは対照的に――。


 (……完全に暴走してやがる……)

 

 止まない賛辞、喝采が鳴り響く。


 場内のボルテージは最高潮。


 煽り出し、盲信する信徒共迷える子羊


 その光景に、ゆっくりと後ずさりをする俺の背中を――。


 そっと柔らかな手が抑え……。


 フィデスが俺の耳元で囁くのだった。


 「さあ、この敬虔なる信徒達迷える子羊に、慈悲のお言葉をかけてあげて下さい……」


 これではまるで……。


 まるで……。


 まるで……。

 


 ( 俺が……救世主メシアみたいじゃないかぁぁぁぁあ”あ”ああ!!!!)

 


 神の子として生まれ、神の子として生き、人以下の人生を終えた……オッサン……こと。

 

 天草アマクサ神人カミヒト 34歳。


 異世界にて神になる。


 

 




 

〓:::〓:::〓:::〓:::〓:::〓:::〓:::〓:::〓:::〓:::〓:::〓:::〓:::〓:::

 


 あとがき

 

 お読み頂き誠にありがとうございます。


 久しぶりの長編でお見苦しい点があるかもしれません。

 良ければ、コメント頂けると嬉しいです。


 今回の作品のテーマは。


 「読者に最高の経験をさせる」=「読者を神にする」です。


 細かい宗教ネタを挟みつつ、ゆっくりと神へと近づいていきます。


 ここで一つ、謝らなければいけない事があります。


 それは……。


 序盤に色々と詰め込み過ぎて。


 ただの痛いオッサンからスタートになってしまいました、ごめんなさい。

 

 そんな、ダメなおじさんが救世主イエス・キリストになる過程をお楽しみして頂ければ幸いです。

 

『面白そう!』と思った方や誤字脱字報告等。

 またコメント・感想などお気軽に評価を頂けると嬉しいです。

 

 

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