婿入りの顛末

@potyon

1話 完結

「殿下は小柄で可愛い子がお好みだったでしょう?」

「うん、儚げで小柄な子が可愛いらしくて良いなと思っていたよ。」

「あそこまで愛想も愛嬌も無いのは・・・」


「あら、それなら本当にお気の毒ですこと。」


ユーハイム侯爵邸の控室の扉の前で、すっきりと整った顔立ちにお手本のような笑顔を向けられ

私たち3人は瞬きすら忘れて固まった。


「準備が整いましたので応接室にお越しください。」

そう言葉をかけて背を向けて去っていったのは、この屋敷の一人娘で次期女侯爵のソフィア嬢だ。

立ち姿も所作も歩く後ろ姿さえも相変わらず完璧な美しさだな、などと感心している場合ではない。


今日、私の主たるこの国の第3王子のセドリック殿下とソフィア嬢の婚約と、殿下の婿養子縁組の締結のため侯爵邸へ赴いている。

ユーハイム侯爵と国王・王妃両陛下は執務室で婚約の条件などの最終確認中だ。

最後のサインのため、セドリック殿下と、側近であるソイル侯爵家五男の私、ルーカスと、ブラッド辺境伯家三男であるカーターは控室で待機中であったのだ。

よりにもよって、婿入り先の侯爵邸で次期女侯爵に対して軽口を叩くなど許されることではない。

更にそれをソフィア嬢本人に聞かれてしまった。誰の目にも今の状況は大失態である。


言い訳をさせて欲しい。

いつもなら二人の言葉の後に殿下が惚気け、そのあと三人でソフィア嬢を賛美するという流れになっていたのだ。学園や王城ではその一連の茶番を、やれやれまたかという目で見てくれていた。

私のセリフはこう続くはずだった。

「あそこまで愛想も愛嬌も無いのは自衛のためでしょう。あの美貌に見惚れるばかりの美しい所作は国中の令嬢からも羨望の的です。殿下も見合うように努力しませんと他の令息たちに恨まれてしまいますよ。」

と。

侯爵家を支える人間は全て主に忠実なことで有名だ。

最後まで茶番を演じられなかった私たちは、彼らの敬愛する次期女侯爵をこき下ろした大罪人だ。主をここまで蔑ろにした私たち3人を許してはくれないだろう。


セドリック殿下、私たち3人の針の筵生活が開始されました。

とりあえず口を閉じて腹を括って下さい。



■■

一番先に瞬きを再開したのはルーカスだった。

それを見て我に返った俺はセドリック殿下を見ることが出来なかった。

なんでって、セドリック殿下はソフィア嬢に心底惚れている。

ソフィア嬢の婿になって侯爵家に入れることに浮かれていた。浮かれ倒していたと言って良い。

その浮かれ様を両陛下も、ソフィア嬢の父であるユーハイム侯爵も知っている。


王の器たる第一王子が王太子になることに誰も異論はなく、セドリック殿下は次期宰相として王家を支える為に宰相を務めるユーハイム侯爵の下で宰相補佐として活躍していた。

そんなある日、デビュタントの会場でソフィア嬢に出会ったセドリック殿下は、一目でソフィア嬢に釘付けになった。

スレンダーな長身に黒髪に翠の瞳の美女で、とにかく所作と立ち居振る舞いが美しい。

侯爵家の跡取りでなければ王太子妃に望まれていたと噂で聞いていたが、これほどとは思わなかった。


それ以来、セドリック殿下はソフィア嬢に夢中で、ユーハイム侯爵家へ婿入りの打診に条件も聞かずに即答し、両陛下から決定の内示があった時には2時間ほど号泣していた。さすがにこれにはドン引きだった。

それ以来、俺たち三人の話題はソフィア嬢への賛辞のみといっても過言ではない。


「あんなに小柄で可愛い子ばっかり好きだったのに?」

「儚げで小柄な子が可愛いらしくて良いなと思っていたんだよ。」

「あそこまで愛想も愛嬌も無いのは自衛のためでしょうね。」

「そうだよ!ソフィアが笑いかけると男たちが勘違いするじゃないか。そんなのだめだ!

ソフィアの笑顔は僕だけのものだから。」

「愛想も愛嬌も無くても令嬢令息たちの羨望の的ですよ。」

「話していても見惚れてしまって内容が頭に入ってこないな。」

「見た目だけじゃないんだよソフィアは。話す内容も考え方も本当に素敵なんだ。

結婚式が楽しみで仕方ないんだけど、女神よりも美しい花嫁姿だろうと思うと、誰にも見せたくないけど、自慢もしたい!」


宰相閣下の執務室で、休憩の度に毎日繰り広がる3人の会話に、周囲も将来セドリック殿下の義父になるユーハイム侯爵でさえも生暖かい目を向けている。

殿下が本当に幸せそうで、俺たちも周囲もみんな幸せだったんだよ。


セドリック殿下、天国から地獄へ自らダイビングしてしまった衝撃は理解する。

とりあえず瞬きしてくれ。



■■

娘のソフィアは気位が高い。愛想も愛嬌もない。

これは次期女侯爵としての対外的な姿である。

決して傲慢ではなく身分関係なく周囲への気遣いも出来るので家中の者みんなから慕われている。

本来は明るい気質で、親しいものには花が綻ぶような笑顔でくるくる表情を変えておしゃべりする。

まさに掌中の珠だ。

その娘に婿を取ることになった。

第3王子のセドリック殿下だ。優秀な彼は宰相補佐として、宰相を務める私の下で着実に育っている。

その殿下がソフィアに一目ぼれをした。その場にいた誰の目にも明らかなほど骨抜きになった。

殿下は毎日休憩時間に側近たちとソフィアの話で盛り上がっている。

対外的な対応を崩さない娘はかなり近寄りがたいはずなのだが、それでもなおそこまで惚れているのなら大切にしてもらえるのではと思い、陛下に婿入りを打診したのだが、それを傍で聞いていた殿下は私が言い終わる前に「お受けします!義父上!」と叫んだ。まだ早い!

陛下と私は従兄の間柄で、幼い頃に隣国から嫁いできた王妃と私の妻の四人は幼馴染みだ。

両陛下の意向で、ソフィアは生まれた時から王太子妃の最有力候補として教育してきたが、妻が病で子供が望めなくなったために候補から外され、次期女侯爵として領地で教育しながら育てた。

妻の亡き後も公の場には出さず、王都から遠い領地の田舎娘と吹聴していた事が功を奏し、侯爵家への婿入り希望はそこそこで、篩にかけるのは簡単だった。デビュタントで本人が姿を見せてからは星が降るほどの申し込みがあったが全て片っ端から蹴ってやった。

「王都から遠い田舎の領地で田舎娘と一生過ごすのはお辛いでしょう」と。


そして迎えた今日、セドリック殿下とソフィアの婚約と婿養子縁組の書面を交わして正式に婚約者として発表することとなったのだが・・・

執務室で書類の確認と保護者のサインの後、晴れやかな気分で両陛下と共に談笑していると執事長がやってきて、ソフィアが急な心痛で体調を崩したと伝えられた。

家中の人間にしかわからないが、執事長はとてつもなく怒っている。

どういうことか事情を聞くと、どうやらいつもの3人の軽口をソフィアが聞いてしまったらしい。それも最初だけ、最悪な切り取り方で。

私と両陛下は頭を抱えた。

普段彼らに接しない家中の者は当然軽口に続くソフィア礼賛を知らないため、婿のくせにお嬢様を侮辱した不届き者、たとえ王族であっても赦すまじと怒り心頭らしい。


何をやっているのだ、セドリック殿下。

娘を傷つけたことに怒りはあるが、ソフィアへの気持ちと婿に決まった時のあの喜び様、それからの浮かれ具合を知っているだけに複雑だ。

堅物で素直になれないあの娘の誤解を解いて気持ちを取り戻すのは至難の業だぞ。

最愛の妻譲りの、ソフィア本来の花のように美しい笑顔を向けられる記念すべき日は当分お預けだ。


■■

ユーハイム侯爵と王妃と共に応接室に入ると、セドリックの魂が抜けていた。

一緒に護衛騎士と秘書官として侯爵家へ移籍する側近二人も真っ白な顔で項垂れている。

取り囲む使用人たちからは極寒の空気が漂う。

そりゃそうだろう。いつもの軽口からの惚気をさんざん聞かされている身としては、冒頭の言葉は会話のきっかけに過ぎないが、言われた側としては見た目が好みじゃないなんてひどい侮辱だ。

普通は控室からの案内は使用人の仕事だが、婚約を好ましく思っていたソフィア嬢が一刻も早くセドリックに会いたいために案内を買って出たと聞いて、さらに胸が痛む。

心を寄せている相手から容姿を否定されるのはどんな仕打ちよりも残酷だと、王妃は涙を浮かべて嘆いている。

当のセドリックは抜け殻のまま。

私が呼んでも肩を掴んで揺らしても、王妃の気付け薬を嗅がせても戻ってこない。


そうこうしているうちにソフィア嬢が入って来た。

化粧で隠しているが目元が赤い。

その姿を見たセドリックは、はじかれたようにソフィア嬢の足元に跪き、何も言わずにぽろぽろ涙を流している。

泣くなよ、なんか言えよ。


呆然とセドリックを眺めるソフィア嬢に、側近二人は、ソフィアが聞いた軽口の冒頭部分を謝罪し、その後に続くセドリックの惚気と礼賛の言葉を伝え、私と王妃とユーハイム侯爵は出来るだけ詳細にセドリックがどれだけこの婚約を喜んでいたか、普段のセドリックのはた迷惑なほどの浮かれ具合を説明した。


「婚約の条件を追加してください。」


婚約期間中に浮気が認められた場合は即刻婚約破棄とし、有責側から相応の慰謝料を支払う事。

婚姻後、侯爵家の籍に入れるのはソフィアが生んだ子に限る事。3年の間に子が出来ない場合は傍系から養子を迎える事。セドリック殿下に愛妾または庶子が認められた場合、殿下を含めた生活費などに係る全費用の負担と全責任は王家にある事。何があろうとも侯爵家は一切関知しない。


うーん、なかなかの拒絶だ。

ユーハイム侯爵と王妃は顔を見合わせて深いため息を吐いている。


セドリックはこんな内容を気にもせずにサインするだろう。

彼にとっては問題になる部分が皆無とはいえるのだが・・・

どうか二人で乗り越えて幸せになってほしい。



■■

父上も母上もユーハイム侯爵も苦いものを飲んだような顔をしているが、婚約できるのならなんだって良い!どんな条件も飲む!

追加した分を確認して、ソフィアがさらさらとサインをした。

ソフィアはサインしてくれた!

跪いたままソフィアの手を取ろうとすると、するりと逃げられたけど、そっぽを向かれたけど、

ソフィアはサインしてくれたんだ!

ソフィアに差し出された書類に目を通す事なく、僕もサインをした。


これで婚約できたんだ!ソフィアは僕の婚約者だ!


涙が引っ込んだ僕は放心状態のまま、一言も話さずそのほかの書類にサインをし、両親と側近二人に抱えられて馬車に押し込まれた。


僕はサインをしてからずっと薄ら笑いを浮かべた放心状態だったらしい。

夕食の席で気味悪そうに僕を見ていた兄上たちは、事の次第を聞いて哀れな弟をずいぶん励ましてくれたらしい。

らしいというのは、ソフィアに背を向けられて以降、次の朝目が覚めるまでほとんど覚えていないからだ。


これから大っぴらに会えるし手紙も出せるし贈り物もできる!

それよりなにより先ずは謝らなくては。本当は会って謝りたい。自分のしでかした過ちが大きすぎて心を飛ばしてしまって言葉が発せられず謝罪が遅れてしまった。ソフィアと婚約出来た僕は世界一幸せ者だということをつたえるんだ。

しかし、婚約の次の日にソフィアに会いに行くことは侯爵に拒否された。

まだ気持ちの整理がついていないから、次の定例のお茶会まで合わないというソフィアの希望らしい。それなら、と執務の合間を縫って手紙を送っていたらこっちはルーカスに止められた。


「殿下、一日に何通も手紙が届くと、正直鬱陶しいです。」


仕方がないので毎朝手ずから摘んだ花を小さな花束にしてカードと一緒に届けることにした。

会ってくれないけれど、返事をもらえないけれど、ソフィアの目に入ればそれでいい。

護衛のカーターと共に早朝に侯爵邸へ着くと、侯爵が贈り物を受け取りそのまま一緒に馬車に押し込まれて仕事に向かう。

ひと月経った頃、氷点下だった使用人たちの纏う温度がちょっとだけ上がった。

カーターは、メイドたちに会釈を返してもらえたと泣いていた。


そして初めてのお茶会の前日にはソフィアの専属侍女がプレゼントとカードを受け取ってくれ、ソフィアからのカードを渡してくれた。


「お会いするのを楽しみにしています。」


この日は舞い上がりすぎて、一日中明日のお茶会の事しか頭になかった。

ソフィアも楽しみにしてくれているんだ!



■■

正式な婚約の日に聞いた殿下と側近のお二人の会話は悲しすぎて、殿下が婚約を二つ返事で受けてくださったと聞いて嬉しく思っていた自分がとても恥ずかしく思えたのです。

わたくしを気に入って下さったなんて、ただの自惚れだったのだわ。

そう思うと、空気がとても重くなったようで息苦しくて、涙を堪えることが出来ませんでした。

皆さまから、殿下たちの会話には続きがあるという顛末を聞いても、殿下がどんなに喜んでいたか伝えられても、使用人たちに慰められても、私とは正反対の見た目の方がお好みだという事は変わらないもの。


殿下は毎日お花とカードを届けて下さって、それはとてもうれしいけれど、殿下のお好みが儚げな可愛らしい小柄な方と聞いたことがどうしても忘れられなくて、お会いする勇気が出ませんでした。


今日はセドリック殿下と初めてのお茶会です。

本当は二人の時間なのですが、お二人のご令嬢をお招きしています。

お二人とも高位貴族家で殿下との家格もつり合う、儚げな雰囲気の可愛らしい小柄な方です。

メイドも侍女たちも小柄で可愛らしい子を選んで侍らせました。


花束と美しいお菓子の箱を抱えた殿下は、私たちがご挨拶する間もなくわき目もふらず私の前に跪いて先日の無礼を詫び、どんなに今日が楽しみだったか、どんなに私が好きなのか話し続けています。

一緒にいらしたソイル侯爵家ルーカス様と、ブラッド辺境伯家カーター様は周囲の女性たちの姿を見て笑顔を引きつらせていますが、殿下は全く気付いていない様です。


殿下の手を取ると、やっと席について下さってお茶会が始まりました。

ご一緒した公爵家のマリアンヌ様と侯爵家のマーガレット様とは皆様面識がおありとの事で、

和やかにお茶会は進んでいったのですが、セドリック殿下は私の手を握ったままずっとにこにこと私だけをご覧になっていました。

ご一緒したお二人のご令嬢は私たちを祝福してくださり、殿下は私の手を握ったまま幸せそうに微笑んで下さいました。


お茶会が終わり、マリアンヌ様とマーガレット様をお見送りした後、

セドリック殿下は私の前に跪き、プロポーズをして下さいました。


「ソフィア・ユーハイム嬢 私、セドリックはあなたへの生涯変わらぬ愛を誓います。

どうか私と結婚してください。」


「わたくしを選んで後悔しませんか?

 婚約の時に交わした契約書はかなり王家とセドリック殿下にとって厳しいものですが。」

 

「あなたの夫となれるのであれば、どんな困難も厭いません。

  一度失った信頼を取り戻すことは容易ではないと分かっていますが、生涯かけてあなたが唯一であることを証明します。どうか、この手を取って下さい。」


わたくしはじっと殿下の手を見つめていました。

どのくらい時間がたったことでしょうか。

ふと目を上げると殿下のお顔は今にも泣きそうに強張っていました。


「殿下は、ずっと儚げで小柄な子が可愛いらしくて良いと思っていらしたのでしょう?

私はそうはなれません。今は私に心を向けてくださっていても、いつかそういうお好みの方が目の前に現れて愛を告げられたら、殿下はきっとその方に夢中になってしまわれるのだわ。」


涙を見せないように俯いたまま、わたくしは不安をそのままお伝えしてしまいました。

セドリック殿下は目を見開いたままぽろぽろ涙を零してぶんぶんと首を横に振っています。


「わたくしは・・・他の方へ愛を向ける殿下を見る日が来るかもしれないと思うと、お傍にいることに耐えられそうにありません。」


セドリック殿下は俯いたまま動かなくなってしまいました。






「・・・・・・犬なんだ」


「・・・犬?」


耳まで真っ赤になったセドリック殿下が、ぽつぽつと絞り出すようにお話しを始められました。


「・・・6匹いるんだ・・・ふわふわして小さくて、儚げに潤んだ大きな瞳の子たちが・・・

 僕の瞳の色のリボンを付けて毎日話しかけてとても可愛がっていることは、王宮の中では箝口令を敷いているし、王宮の外ではルーカスとカーター以外は知らない・・・」


「兄上たちからも、気持ち悪がられるから明かさないほうが良いと言われていて、あの子たちの話をするときには女の子として話す事にしていたんだよ。僕はソフィアに出会うまで女の子に興味を持てなかった。」


「近しい人間の間では、犬にしか興味がないと思われていた私がやっと見つけた女神がソフィアなんだ・・・」


「・・・」


「・・・やっぱり気持ち悪いだろうか・・・」


ポケットから取り出したハンカチで涙をぬぐい、うつむいたままふらりと立ち上がった殿下の手を

わたくしは咄嗟に両手で握っていました。


「わたくしとその子たちと、どっちが大事ですの!?」


セドリック殿下はびっくりするほどの速さでわたくしを振り返り、目を見張りました。





「そんな風に聞いてしまうような嫉妬深い女性はお嫌いでしょうか・・・」





■■

お嬢様が次期女侯爵になられることが決まって以来、執事長として最後のご奉公と思い、後を任せる執事たちや使用人たちを育てるべくこの老体に鞭打って誠心誠意お仕えして参りました。


5年前、婿に決まった王子殿下が、我らがお嬢様の麗しいお姿がお気に召さないなどと宣いやがった日、家中一同が氷点下の態度に徹したのは今では懐かしい思い出でございます。


その翌年に婿入りされたセドリック様と夫人となられたソフィアお嬢様の仲は大変睦まじく、

2回目の結婚記念日にお嬢様のエレノア様が、そしてつい先日お世継ぎのルパート様がご誕生になりました。

セドリック様の側近として移籍してきたルーカス様とカーター様は有能でありながら朗らかで明るく、使用人たちともすぐに打ち解けて和気藹々と侯爵家の執務と護衛に当たっています。


そして一緒に引っ越してきたお犬様たちの愛らしい事と言ったら。

旦那様をはじめ家中皆魅了されてしまい、今ではお世話を奪い合う有様です。

侯爵家は幸せに満ちた明るく穏やかな雰囲気に包まれています。


先頃、若奥様の妊娠中に若旦那様が新しいお犬様をお連れになりました。

若旦那様の腕の中ですやすや眠る様子を見て、若奥様が悩まし気にため息を吐いておられます。


「旦那様、いくらわたくしの妊娠中にさみしいからと言って、新しい方をお迎えになるなんて」


若旦那様は顔色を変えてお犬様を私に預けると、若奥様の前に跪いて愛を囁いています。


これから先、私は何度この幸せな光景を目にすることが出来るでしょうか。




FINE


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