第14話 告白
「話したい事って」
「突然こんなことを言うと戸惑うかもしれないと思いう。俺はアンさんに心を奪われていたんだ。愛してる」
その言葉を話したときに心臓の鼓動が速くなっていく。
こうして女性に想いを伝えるのはいつもそうだ。
「え、うそ……」
か細い声で思わず両手で口元を押さえながら次の言葉を聞いている。
少し手が震えているのを見てかなり動揺しているはずだ。
「年も十六歳離れてて、父の部下として見ていたかもしれない。でも、これだけは伝えたかったんだ。俺が話したかったのはそれだけ」
その言葉にアンは黙ってうつむいて噴水の方を向いた。
ヴィクターは思わず会場の方を見て誰もいないここを見つめた。
お互いに目を合わせることなく、ただ時間だけが過ぎていくのを待つ。
その時間は一瞬のはずなのにとても長く感じた。
(ストレートに言いすぎたか……仕方ないか)
そう思って戻ろうと声を掛けようとしたときだ。
「スミスさん。わたしは第三学院に行くってことを聞いて、あきらめないといけないと思ってました」
アンの声が震え、琥珀色の瞳が潤んで次の言葉を選んでいるように感じていた。
ヴィクターは彼女の答えを聞こうとした。
「スミスさんが年上だということも、お父さんの信頼している部下ということもわかっています。でも、わたしは好きな人と一緒にいたいんです」
彼女が月明かりに照らされた彼女はいまにも泣きそうな表情をしていた。
それを見て心臓の鼓動が大きく跳ね上がる。
「ヴィクター・スミスさん。あなたのことが好きです。とても愛してやまない男性なんです」
アンは笑顔で自分を見つめて、嬉しそうに彼の手を握った。
その手のぬくもりが緊張していた心が解れ、逆にうれしさや喜びが沸いてくのを感じた。
「本当に俺で良いんですか? 五年くらいは戻ってこれないんですよ」
「スミスさんが良いんです。それに五年はあっという間です、学院に最上級生としていたわたしから比べたら」
それを聞いて思わず笑ってしまう。
「そうですね」
ヴィクターは手を握られたまま、騎士のように片膝をついてこう伝えた。
「俺の恋人になってくれますか?」
「はい」
アンは笑顔でその言葉にうなずいた。
二人は微笑みながらで会場内へ戻ることにした。
◇◇◇
それから会場内に戻るときにアンは思わず冷気に体を震わせる。
(しまった……薄着だったのに気が付いた)
着ているのは長袖とはいえレースで覆われているだけで、ほぼ薄着に近いような服装だ。
するとそっとヴィクターが礼装の上着を肩にかけてくれた。
「ありがとうございます。スミスさん」
「構わないですよ。あ、あと名前で呼んでほしいなと。俺もアンと呼んで良いかなと」
「ヴィクター、さんで良いですか? わたしは構いません」
「はい」
お互いにあの噴水のところで告白をしてから距離が近づいているのがわかる。
エスコートしているときもここへ来たときよりも自然になってきたかもしれない。
ヴィクターから想いを伝えられたときに信じられなくて、泣きそうになりながら返事をしていた。
それを聞いて恋人になったということを知って、嬉しくて笑顔で向けることができる。
「アン、出発する日だけ話してもいいかな?」
「はい。いつ」
「二月二十八日の午後二時の列車、二週間とちょっとだね」
「わかりました」
ヴィクターの口調も自然と敬語ではなくなったが、アンはまだ敬語にすることはできなさそうだと感じていた。
会場内に戻り、上着を返してからは再び卒業生の輪のなかに入っていく。
そのときに探していたのかアリソンが飛んできた。
「アン! どこに行ってたの、探したわよ」
「ごめんね。ちょっとヴィクターさんと話してから」
その言葉と二人の雰囲気を聞いて、アリソンは親友の手を取って嬉しそうに笑っていた。
どうやら自分とヴィクターとの関係に気が付いてたらしい。
「とうとう話したのね」
「うん。もう恋人というのかな」
「おめでとう。ときどきわたしのことも聞いてね」
「もちろんよ」
アリソンの縁談はまだ秘密だが、聞いてくれる存在でありたいと思っている。
そのことを誓ってヴィクターの方を向いて、アリソンは笑顔を向ける。
再び人の輪のなかにアリソンが入っていくのを見届けて、アンはヴィクターと共に飲み物を飲んでのどを潤しているときだった。
魔法工学を専攻していた卒業生が魔法具で固めの紙質に魔法で印刷しないかと言われた。
「すみません、この魔法具で写真撮りませんか」
「はい。お願いします」
色も肖像画のようにできるものだと話してくれたのだ。
アンはヴィクターと一緒に写真にしてもらうことにしたのだった。
そのときに寄り添うように並ぶと、緊張してしまうがとてもドキドキしているようだった。
さらにヴィクターはアンの肩に手を置いて笑顔で卒業生が持つ魔法具の方を見つめていた。
すると彼の持つ魔法具が作動した音が聞こえて、写真が出てきてもう一枚も同じように出てきた。
印刷された写真には先程の魔法具に向けられた笑顔で二人が写し出されている。
「すごい。まるで絵みたいだ」
「一人一枚ずつ、あなた方にあげます」
「ありがとうございます。大切にします」
そうすると彼は笑顔で会釈をしてから卒業パーティーが終わりを告げる宣言を聞いた。
時刻は午後八時過ぎ、学生寮に残っている在校生も就寝時間への配慮もあるのかもしれない。
そのなかでそれぞれの方法で帰宅することになっているのだが、アンたちは少しの間広間で残って待つことにしたのだ。
広間でポンチョマントを羽織り、ヴィクターも外套と軍帽を被ってそばにいる。
「アリソンまたね」
「またどこかで会えたら」
アリソンと別れてから馬車に乗ってから家に戻ることにしたのだった。
馬車に乗るときにアンの手を取って最初に乗せると、次にヴィクターも同じように乗ると笑顔で話していた。
「それでは進んでください」
「はい」
馬車が動き出してからはポツリと話し始めた。
「卒業パーティー楽しかったです」
「それは良かった」
「お父さんにすぐにばれるかも」
「そうだね。正直に言えば大丈夫だと思う」
自分も口調がつられて家族と話すような形に変化しているのに気が付いた。
その言葉を聞いてヴィクターはどこか遠くへ見つめている。
(大佐はアンのことを溺愛しているからな、覚悟しておかないと)
最愛の妻によく似た一人娘をかっさらっていくのが部下だと知れば容赦ないかもしれない。
学院で告白されたということを離してから落ち込んでいたことを思い出すと、かなり許可を出すまでにかなりごねるかもしれないと感じる。
学院から家まではものの十分程度で到着して、家には明かりが灯っているのを見るとユキがまだ帰っていないのかと考える。
「アン、手を」
「ありがとう。今日は本当にありがとう」
ドアを開けるとユキが出迎えてくれてアンのことを優しく抱きしめていた。
「おかえりなさい。楽しかった?」
「うん。ヴィクターさんがエスコートしてくれたからだよ」
そう言って彼の方を向く。
「ありがとうございました。スミスさん、とても助かりました」
「いいえ。今日はとても楽しかったです。それではおやすみなさい」
「おやすみなさい」
するとヴィクターが馬車に乗って帰るのを見送って、見えないところまで行ったときに家の中へと入って着替えることにした。
ドレスは今後も着て行くことがあるかもしれないので、靴と髪飾りは箱のなかにしまって一緒にクローゼットにしまって置くことにした。
メイクなどをバスルームで落として、お湯で体を温めていつでも寝られるような服装にしたのだ。
「ユキ叔母さん、今日は泊まるの?」
「ええ。その予定」
「ユーシェンさんは心配してないの?」
「今日は弟さんの学院卒業のお祝いをするから帰ってこないって」
「そうなんだ。お祝いは内輪で盛大でもいいよね」
「うん。今日は早く寝ようよ」
「そうね。おやすみなさい」
それからアンたちは寝ることにしたみたいで、ユキは客間の方へと歩いていくのを見守ってから部屋に入った。
ベッドに入る前にもらった写真を取り出して、アンは今日の出来事を思い出していた。
卒業式からパーティーが終わるまでとても長い一日だったと振り返る。
(とても長かったけど、とても良かったな)
そのことを考えながらサイドテーブルに置いて、ベッドに寝転がっているうちに意識がフェードアウトしていった。
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