第12話 卒業パーティーの同伴者

 制服の上に来ているせいか大人びた印象になる学生が多いようだった。

 卒業生の入場が始まると、盛大な拍手で出迎えられた。


 これを入学式とほぼ同じ構図だが、自分が送り出される側ということを知っているから切なく感じる。


「おめでとうございます」


 その言葉を聞きながら懐かしくなるまま歩いて座席に着くことになるのだった。


 最初に学院長からの祝辞などを行ってからは卒業証書を学年総代が行うことになっているのだった。


 今年の八年生の学年総代は医術師コースを受けていた女子学生が行うことになっている。

 アンは背筋を伸ばして未来に貢献する人物になれるようにという願いを託された。


 そして、約一時間弱の式典が終了して最後の在校生との交流が始まったのだった。

 そのなかで教職課程の後輩たちが花束を渡されてから笑顔ではあんしているのが見えた。


「アン先輩おめでとうございます。また来月からお願いします」

「うん。来月からもよろしくね」

「ええ!」


 その言葉でとても嬉しそうにしている後輩たちが嬉しそうに微笑んでいる。

 そして、新しいことをしているのが見えてからとても楽しいことが話していた。


 すると午後十二時を過ぎているなかで一度帰宅してパーティーの準備を行うことにした。





 昼食を取り、ユキが髪をまとめるのが得意なのでお願いしてヘアセットをお願いしてもらっていた。


 ウィリアムの部下とはこの家で待ち合わせしている関係で、ここでお願いすることで迷わなくて済むという。

 そのときにアンが持っている化粧品できれいに薄化粧を施してもらえたのだ。


「うん。きれいにできたわ。お姉様にも見せてあげて」

「ユキ叔母さん。ありがとう」

「はい。大丈夫だよ、これで良いね」

「ありがとう」


 ローズレッドのドレスはパーティー時によく好まれているデザインで、長袖のそれは首元から手首までレースで覆われているのが上品に見える。


 短く切った髪にはバラを象った髪飾りをつけているのが見えて、とてもうれしそうな笑みを浮かべていた。


「そのときにそれじゃあまた頑張ろう」

「うん」


 そのときだった。

 玄関のドアベルが鳴って、ユキが先にドアを開けて出迎えをしていた。


「あら、お話はかねがね。それでは姪を呼びますから」


 その声が聞こえてきて彼女がつけているアクセサリーの鈴の音を合図に立ち上がって、新しいヒールを履いて厚手の白いポンチョマントを羽織って玄関の方へと向かった。


「お待たせしました……」


 迎えに来た男性に声をかけて目線を合わせた瞬間、アンは驚いて思わず言葉を失ってしまった。

 目の前には漆黒の陸軍の礼装を身に包んだ部下――ヴィクター・スミス中佐がいたからだ。


 そんな彼女を見て微笑むとすぐに彼女の前で礼をして手を差し出していた。


「スミスさん」

「アンさん。お父様の代わりにエスコートさせていただきます。親しい方がよいと判断されたらしいです」

「そうなんですか。びっくりした」

「それでは行きましょう」


 そう言ってアンは手を置いてエスコートに応じることにしたのだ。

 心臓はまだ鼓動が速くて少し動揺しているのを隠して、ユキの方に向けて話しかけた。


「ユキ叔母さん、行ってきます」

「いってらっしゃい」


 その言葉を聞いてユキの表情は和らいで、思わず自分が安堵していることに驚いている。


(この人なのね。アンの想い人は)


 そして、アンは迎えに来ていた馬車に乗って学院へと向かうことになった。

 馬車が動き出してからアンはヴィクターのことを見つめていた。


 戦後に礼装が新しくなり、紫紺から漆黒に金糸の装飾が施されていた礼装に外套を羽織っているのが見えて驚きを隠せない。


「え、スミスさん」

「どうしましたか」

「いや……礼装ってこういう場面で着るんですね」

「ああ、そうですね。かなり見られることがあるので」

「馬車って……」

「これはもともと用意していたみたいで、連絡して陸軍省から行こうとしていたみたいで」


 馬車に乗っている間にも会話はしたものの、何となく彼の見慣れない姿をずっと見てしまう。


(スミスさんと一緒にいるのは慣れてるけれど)


 パーティーの受付ではウィリアムから聞いていたのかすんなりと変わっていることが話していたのだったという。


「それではお荷物のお預かりを行ってもよろしいでしょうか」

「はい、それでは外套などをお預かりいたします」


 そう言ってヴィクターは外套と軍帽、アンはポンチョマントを預けた。


 サーベルは自分が管理するという規則と言うことで預けなかった。

 そのなかでエスコートされたまま、学院の広間に向かう。


「あの……」


 手を話した方が良いのではないのかと話しかけようとしたが、ヴィクターはてを引いていない手で人差し指を立てる。


「大丈夫ですよ、あなたは普通にしていた方が自然ですよ。俺は父の部下と話していればいいのですよ」

「そうですね。ありがとうございます」


 楽しそうに彼は広間の壁際へと移動するときに同級生のいるところを探した。

 アンがひそかに指さしをして移動する。


 そこには人だかりができており、その人の輪のなかにオフホワイトのドレスを着ている。

 金髪を結い上げて、淡いピンクのバラを挿している。


 こちらを向くと笑顔で手を振り、駆け寄ってきたのだ。

 アンはヴィクターの手を離し、彼女のもとに駆け寄る。

 嬉しそうにアリソンは微笑んで話しかける。


「アリソン!」

「アンきれいね。とても似合ってるわ」

「ありがとう。嬉しい、アリソンも似合ってるよ」

「ふふふ、隣にいるのはでも…噂の人?」

「いや! その、アリソン言わないでって」


 それを言うと顔を思わず赤くして、彼女に弁解しようとするものの上手くいかない。


「だから……言うつもりでいるよ。パーティーが終わってから」

「うん、応援してるから」


 その言葉を聞いてアンは笑顔で彼女の手を取り合って話していた。

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