第3章 帰国からの日々

第6話 叔母の恋人

 それからアズマで三日過ごし、アンとアリソンは帰国する日がやってきた。


 キョウハラの港に着くと、見送りに祖父母も来ていたのを心配しているのが見えた。

 アンは祖父母から手渡されてた土産を持って笑顔で会話をしていた。


「おじいちゃん、おばあちゃんたちまで見送りに来なくてもいいのに。風邪を引いたら一大事な年齢なんだから」

「また今度はいつ帰ってきてくれるのかしら?」

「あと数年は期待しないでね」

「そうね。忙しくなるものね。気を付けて」

「うん」


 高速船で半日、あっという間に母国に戻ってきた。


「アン、おじい様たちとても素敵ね」

「そうかな?」

「うん。とても素敵だったよ」

「アリソンは」

「おじい様はもう亡くなられていたし、おばあ様しか会ったことない。まだ小さいときしか」


 会話をしているときに王宮から迎えがきているのを見て、アリソンと再び会うことを約束して帰ることにした。


 エリンのテイラー港からはそれぞれ家から迎えが来ており、アンの場合は父ウィリアムが駆けつけてくれていた。

 今日は軍服ではなく、私服でこちらに来ているのがわかった。


「お父さん! ただいま」

「おかえりなさい。アン、楽しかったかい?」

「うん、とても楽しかったよ。これ、おじいちゃんたちから手紙」

「ありがとう」


 そこから馬車でアリソンは宮殿の方へと向かうようだった。

 アリソンの乗った馬車が遠くに見えるまで見送ってから、ウィリアムと共に帰宅することにした。

 港からアンの場合は徒歩で家があるエリンの東区まで向かおうとしていたときだった。


 淡い藤色のキモノを着ていた叔母のユキがこちらに走ってきたのを見て、少しだけ驚いてしまったけれど手を振る。

 彼女は翻訳業が多忙なのか結婚式には欠席しているのを聞いていたので、お土産として祖父母からユキにと渡したものを手渡した。


「あ、ユキ叔母さん」

「アンちゃん。おかえりなさい。お父様たち元気にしてた?」

「うん。それとシオンたちの結婚も、無事に執り行われたよ」

「そう、それは幸せになってほしいわね」


 話をしているときだった。

 一人の男性がこちらへ走ってくるのが見え、それは年齢的には生きていれば母と同じくらいだ。

 焦ったように叔母を見つけると呆れたようにこちらを見つめている。


「ユキさん、こんなところにいたんですか? 探しましたよ!」

「ごめんなさい。義兄あにと姪っ子を見つけたものだから」


 それを言うとアンとウィリアムを見つめて驚いて、慌てて自己紹介を始めたのだった。


 男性は黒髪で淡い茶色の瞳にアズマに似た顔立ちをしている。

 言葉も響きの異なるエリン語を話しているのを見ると、おそらく極東地域の出身ではないかということがわかる。


「アンちゃん、ウィル義兄にい様。こちらが交際しているユーシェン。ユーシェン、姉の夫であるウィル義兄様、娘のアンちゃんよ」

「先ほどはすみませんでしたシャオ宇軒ユーシェンと言います。こちらでの発音は難しいのでユージーン・シャオと名乗っています。出版社で極東地域の物語を担当している編集員です」

「初めまして。ウィリアム・アンダーソンと言います」

「娘のアン・アンダーソンです」


 そう言ってからアンが思わず動揺して言葉が出てこない状態が続いてしまう。


 ユキに交際している人がいることも初耳で、それも彼女と同年代の男性であることにも驚いてしまっていた。


 ちなみにユキも姉である母のハナも許婚がいたが、相手方も想い人と人生を共にしたいということで白紙に戻っている。

 そのため自由に恋愛をできる環境にいるユキは恋人と幸せそうに微笑んでいるのが見える。


「そう言えば。カリュウはアズマからは近いのですか?」

「ああ、そこは少し北東にあります。船でだいたい数時間なので近い方ですね」


 カリュウ国というのはアズマ国の北東に存在する国であり、そこで有名なのは陶磁器を中心に工芸品などが有名である。

 アズマよりも歴史が長く、現在もカリュウとの交流が続いているのだ。


「ご両親もカリュウ系なのですか?」

「ええ、父と母方の祖母がカリュウ人です。大陸こちらに来てから、偶然出会って結婚したので。でも、ユキさんを見たときはアズマ人だということはすぐにわかりました」

「そうなんですね」


 一方、ウィリアムはそんな彼と何かしらの話題で意気投合してしまったらしく、何かの段取りを決めているのが見えてしまっていた。


「そうそう。ユージーンさん、またどこかで会いましょう。お互いに話せることがあれば」

「良いですね。楽しみにしています。ウィリアムさん」


 アンの採寸が年末に終わっているため、仮縫いなどが送られているかもしれないと感じている。


 だいたい父や伯父がひいきにしている店で行っているが、そこで女性用の服を着たりしていることが大きいようだった。


 子どもの頃から余所行きの服を作る際は何度か通っているのが多い。


「そう言えば仕立店テーラーから連絡が来てね。アンのドレスが縫い終わったそうだ」

「本当に?」

「うん。試着は学生寮の荷物を引き取ってからだな」

「わかった」


 アンは教員免許も取得することができ、予定通り新学期の三月からは教員として母校の教壇に立つことが決まっている。


 その他にも教員免許を取得して故郷に戻る学生も多く、ほとんどが学院を卒業して去ることになっている。


 近代・現代史の担当となることは決まっているが、まだ欠員が出ていないので出た場合は授業を受け持つことになるという。


 母校が勤務先になるのは限られた人が多いが、居住している場所が近い場合は採用されることが多い。

 そこから家に戻るとアンは一度部屋に入って荷物を整理することにした。

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