第5話 挙式と祝宴
玄関では使用人たちが正装をして待っているときにアンは玄関に一番近い部屋で待っていた。
花嫁たちは反対側の客間でこれからやってくる許婚を待つことにしているが、最初に来るのは姉のシオンの許婚が来ることになっているのだった。
アンもなんとなく緊張してしまって、アリソンもそれを感じているようで、待つ間で表が騒がしくなってきたということを感じたときだ。
そのときに表から女中頭の女性がこちらにやってくるのが見えて、最初にシオンの方を向いて礼をする。
「
シオンは何も話さずうなずいて女中頭の女性の方へと向かうためにえみりに合図をする。
「はい。かしこまりました」
廊下を出るときに女中頭に手を取られ、婚礼衣装を身にまとっているシオンを見て、ここを離れることになるのだという実感がわいた。
するとシオンの夫となる男性がこちらへ歩いてくるのが見え、屋敷の玄関から門までに使用人と家族が列を作っているのが見えた。
「おめでとうございます。お嬢様」
「おめでとうございます」
年齢はアンと同い年で黒の羽織袴を身に包んでこちらへ歩いてくる行列が近づいてくる。
嫁ぐのはウメノミヤ家、皇族に連なる家系に彼女は嫁ぐことになり、彼女は次期当主の妻になることが約束されている。
玄関から門に出る前に家族が待っているのが見えたのだった。
「幸せにね。紫苑、体には気を付けて」
「父上、母上。おじい様、おばあ様。いままで育ててくださり、ありがとうございました」
「紫苑
「
「はい」
彼女は頬を染めて少し緊張している面持ちで和傘の下に入って、列が歩みを進めていく。
一人だけ残された妹は少し寂しそうな背中を見てしまったけれど、少しアンも胸を締め付けるような気持ちになっているかもしれない。
「
それからスミレの夫となる許婚がやってきて、そこからお社へと進むことになったのだ。
婚礼行列は滅多に行われることがないが、年に何度か規模は様々だが貴族同士の婚姻となると、大規模な婚礼行列が行われることが多いのだった。
(行ってしまったのね。二人とも)
軍人だった父の戦後処理がひと段落するまではこのサクラノミヤ家に預けられ、従妹たちがだいぶ小さい頃から知っている。
しかし、もう嫁いでしまえば会う頻度や機会が減ってしまうことになる。
それを寂しく思いながら婚礼行列を見守っている。
その行列にアンとアリソンは加わり、アリソンは祖父の友人の孫として参列している設定だ。
道を歩いていると人々は初々しい
お社に入ると、それぞれ二組の婚姻の儀式を行う。
昔ならば婚礼を全て家で行うこともあるのだが、ミカドの息子であるトウグウがお社で婚礼を挙げたという報せでかなり流行しているようだった。
鳥居と呼ばれる門のような場所をくぐると結界が張られているかのように、神聖な清らかな空気が体を包み込むような感覚があった。
そこから神職の者たちが不思議な鈴を鳴らしながら二組の夫婦となる男女を案内していく。
それと同時に参列者たちはそれぞれ花嫁、花婿の立つ後ろに用意されている椅子に座る。
「アン。あの鈴って」
「邪気、悪いものを祓う意味があるの」
「あ、そう言うことだね。
「そうね」
準備が行われているのか参列者たちが談笑をしたりしているのが見える。
そのほとんどが男性だが、そのなかでも女性で背の高い自分とアリソンはかなり目立つ。
しらばくして先程鈴を持った白いキモノに赤いスカートのような履物を着ている女性と、おそらく神官である男性がこちらへやってきているのが見えた。
するとお互いの参列者や拍手が起きてから、同時進行で二組の儀式が始まっていたのだった。
「アンは初めてだよね。この婚礼の儀式」
「ううん。親戚の挙式を見た」
「そうなのね。午後はパーティーみたいなもの?」
「そう。夕暮れからね」
三つの赤い盃で三回ずつ清酒を飲むことを見守ってから、再び神々へ婚姻の宣誓を夫婦共に行うのだ。
それから婚姻の有効性を証明する書類に名前を書いていくことを行って、晴れて二組の夫婦が新たに誕生することになったのだった。
その儀式はあっという間に行われてから、それぞれの家で宴が行われた。
時刻は夕暮れから始まり、夜更けまで行われることになっているのだ。
アンとアリソンはウメノミヤ家とサイオンジ家の宴へと向かうことにしたのだった。
屋敷には大勢の人々がやってきているのが見えて、改めて身内のなかで婚姻の宣誓を行うと宴の開始の合図が行われた。
「お嬢方はお酒は大丈夫ですか?」
「成人しているので大丈夫ですが……年齢って」
「十八を超えていれば構いませんよ。アズマのお酒がお口に合えば」
「そうなんですか?」
「ええ。もう十六を過ぎれば大人ですので」
女中の女性がお酒の器を持ってやってきて、お互いに楽しそうな笑みを浮かべていた。
幼いながらも花嫁たちはすっかり嫁ぎ先の人となっているようにも見えた。
二人はあまりアズマ語が得意ではないという断りを入れたが、それぞれアズマ酒を飲むことができる年齢になっているのでそれを口にしたりする。
彼女たちが口にしている酒はキョウハラの酒蔵のなかでも一番高級な物だと聞いたりしている。
それは少しピリッとした感じがあったが、口当たりはとてもいい不思議な味わいだ。
「いやあ。
「ええ、上の娘の忘れ形見です。数日前から来ておりまして」
「そうでしたか、華さんによく似ていらっしゃるわ。もうそろそろいい人がいるかもしれないわ」
それからそれぞれの宴に顔を出してから暇を告げるとすぐに人力車を呼んでいたようで、アンとアリソンはそれに乗って屋敷に戻ることにしたのだ。
「それでは先に戻ります」
「二人ともありがとうございました」
「はい」
お酒が入っていることもあるが、少しだけ体が温かいような感触を感じている。
夜風に吹かれながら酔いを醒ますのは良いのかもしれないと考えながらアリソンと話し始めた。
「アン、今回のパーティーすごかったわ」
「そうかな。あれが普通と考えているから……そうかもしれない」
「でもさ。アンが従妹の子たちを大事にしてると思った」
ほぼ親戚となった人々は総勢百名以上、アンはとても驚いて話しながら丁寧に話している。
おそらく母親似と言われていることが多かった彼女がこうして身内からも言われることは照れてしまうことがある。
「でも、お母さんに似てるって言われるのは驚いたな」
「そう? アンってお父様よりもお母様の遺伝が強いからかもしれないね」
「そうかもね。でも、少しだけ眠いかも」
でも、こうして母のキモノに袖を通してみると若いときの自分によく似ていると思ったのだ。
それから
家が少し広く、寂しく見えるようになってしまった気がしていた。
「嫁いでしまったのね。二人とも」
「アリソン。ありがとう、来てくれて」
「良いのよ。異国の結婚式ってあんな感じなのね」
「うん。アズマ国の上流階級は」
そう言いながらアンはキモノを脱いであっという間に片づけ、女中のえみりに選択などをお願いしたのだった。
そして、いつも通りの場所に布団を敷いて眠ることにしたのだった。
長かった一日も終わり、サクラノミヤ家にも新しい一日が来るのを感じた。
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