第2章 従妹たちの婚礼

第4話 結婚式の準備

 翌日は雪が降り、あまり外に出かけることもできないのでアズマの遊びをして過ごした。


 十八歳になるがこの遊びは飽きずに続けてしまうものもあり、あっという間に時間が過ぎてしまったのだ。


 部屋のなかは温暖で快適に過ごせるように魔法具が組み込まれている。

 寝る少し前までは火鉢に火を焚いていたがすでに火が消えていたが、まだ温まっている余韻がまだ続いている。

 エリン=ジュネット王国風の味わいになった夕食を食べて就寝していた。


 数時間後に小上がりになっているベッドでアリソンが、畳に布団を敷いて寝ていたアンはそれぞれ目が覚めてしまったようだ。


 部屋の外が何となく騒がしい、というのが一番で目が覚めてしまうことがあった。


 時刻は午前六時にもならない時刻で離れの建物――日が昇る頃には嫁ぐ予定の従妹いとこたちが暮らす建物の方から声が聞こえてくるのだ。

 薄暗い場所に明かりが灯されていることで、すでに準備が始まっていることを悟った。


「ん……朝?」

「まだだよ。寝る?」


 隣に寝ていたアリソンが話しかけていると、アンは起き上がって布団を肩にかけて立ち上がった。ぱさっと布団を敷き直してから外に出ることにしたのだ。


 お互いにネグリジェの上から祖母が持ってきてくれた羽織を肩にかけてそちらに向かう。


「雪が残ってるね」

「うん、まだ雪は少し降ってるけど、足元は気を付けてね」

「うわ、寒い。わかってるけど、足先が冷えるね」

「うん」


 話しながらアンは火をつけるために魔法の詠唱をしてから、携帯用の灯りに火をつけた。

 和紙の柔らかい光が現れて、すぐに部屋を出ることにしたのだった。


 足は裸足なので余計寒く感じてしまうが、しだいに建物が近づいて来ると暖かい空気を感じた。


 そして、その次に感じたのはおしろいや紅――化粧に使う道具の匂いだった。

 部屋の灯りが漏れているのが見えて、その隙間から誰かが準備を始めたばかりだった。


アンお姉様、おはようございます」

「アリソン様もおはようございます」


 建具の奥から瓜二つな顔をしている姉妹――シオンとスミレはお互いに緊張したような顔をしていた。


「あ、おはようございます。もう準備を始めてたの?」

「準備はとても長いのですよ。嫁ぐ者としての装いはこのようなものですよ」


 そこには二人分の婚礼衣装が掛けられているのが見えた。

 どちらもこの日のために準備してきたものなのか、灯りによってきれいに刺繍が照らされているのが見えた。


「右の白いのがすみれで、左の黒いのが紫苑しおんね」

「そうだよ」


 それを見て二人の婚礼衣装は正反対の色で装飾が施されているようなものだったのだ。


 スミレは伝統的な白無垢と呼ばれるスタイル、白地には繊細な吉祥文様が施されている。


 逆にシオンの方は最近流行している黒引き袖と呼ばれるスタイルで、黒の布地に金や銀での刺繍がスミレと同様に吉祥文様が施されていた。


 二人の性格が表れているような気がして、アンは笑顔で彼女たちを見つめている。


「紫苑は派手じゃない? これでウメノミヤ家が了承したなんて」

「それでもかまわないって言われて……お母様が着ていた物をスミレが持つから」

「そうね。二人同時にはできないよね」


 叔母のハルコの白無垢を着て嫁ぐらしいので目に焼き付けておこうとした。

 後ろにいたアリソンも婚礼衣装の美しさに息をのんで、そこから部屋の隅でその様子を見ることにしたのだ。


「紫苑。菫」

「あ、お姉様」

「どうされたのですか?」

「ううん、何でもない。わたしは二人の幸せを祈っているわ」

「ありがとう」


 次々とシオンたちは軽く朝食を食べてから婚礼衣装の着付けに入ったのは日の出のときだった。


「お式は九時からですよね?」

「はい。それまでにお二人も、ご準備を」

「わかりました」


 女中たちが着付けと化粧などを行うので先に部屋に戻ることにしたのだった。


 アンとアリソンは眠気が襲ってきたので一度寝てから準備を始めようとしていたのだった。

 先に足袋を履いてから先に髪を先に結ってから化粧をすることにした。


 それは赤い振袖で金色の刺繍で翼の装飾がとてもきれいなものだ。


「アンは何か着るの? キモノにするの?」

「うん。おばあちゃんから聞いて、この振袖にしようと」

「きれいね。見せてくれた物でしょう?」


 成人したばかりのアンは未婚でもあるため、このキモノに袖を通すことにしたのだという。


「わたしはまだ学生だから、学生の正装にしたんだよね。あまり高価なものよりはこちらの方が」

「そうだね。うちはおばあちゃんにこちらであるから構わないって言われたけど……あとで着替えるよ」

「そうね」


 肌着の代わりに肌襦袢と半襟を自分で着付け始めたアンをよそに、アリソンはあらかじめ用意していた学院の制服に身に包むことにしたのだった。


 お互いに鏡台を使いながら丁寧に化粧を行っていくことにした。

 化粧は流行りのものを取り入れているが、口紅には赤いルージュを選んでいるようだ。


 アリソンは髪を結い始め、編み込みではあるが華やかな印象を与えるように。

 リボンは学院の制服と合わせて赤いものを選び、それは昨日買った吉祥文様が施されている髪飾りでもあるのだった。


「失礼します。アンお嬢様、アリソン様」


 そう言ってえみりがこちらに笑顔でお辞儀をしてすぐに部屋に入ってくるのが見えた。


 そこから帯を礼装にふさわしい華やかな結び方をして、新しい状態をしているようだった。


「申し訳ないけど、髪を結ってほしいの。まとめる形で良いから」

「はい」


 癖のない背中の半ばまである長い黒髪をえみりの手によって洋風だが、少しアズマの文化を残したような髪型へと変化させていく


 そして、いつも手にしている髪紐は左右の三つ編みをまとめるために使われた。

 手触りの良い絹でできた振袖に袖を通した彼女はとても美しくなり、普段学生寮で過ごしているときに見せる雰囲気とは異なる。


(すごいなぁ……アズマの女性って感じだな)


「アン、きれいね」

「お嬢様も、アリソン様もおきれいですよ。まるでとてもきれいですね」

「はい。ありがとうございます」


 それを聞いてから巾着袋に入れた懐中時計は午前八時半を指しており、間もなくシオンとスミレの輿入れの行列を待つことにしたのである。

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