第28話 冒険者の塔7
スケルトン狩りもあと一日で終わりにしようという日。
今日も周りが気になるな、などと思っていたが何か違和感。皆の様子というよりも魔法が気になる。特にヒノの魔法が。
相変わらず効果は良くても距離があると狙いが全然定まらない。途中で跳ねる、ワンバウンド投擲スタイル。一応少しずつ精度は上がっているが、まだ先は長い。
何故これが今更気になるのか。
自分より下な部分を見つけてプライドを保とうとでも言うのか俺はと、卑屈な自己分析を進めたが……何か違う。
「ヒノ、ちょっと良い?」
スケルトン一行を壊滅させ次の獲物を探そうというタイミングで声をかけ、粘着玉の魔法を用意してもらう。
「なになに?」
生成された魔法の傍へ手を当て……
ヒュッ
「わぁ!」
射出された。
綺麗に真っすぐ飛ぶ。途中で減速していったが、百メートルほどは飛んだだろうか。
「すごい!どういうこと!?何したの、あ、スガさんの魔法ですか!」
ヒノが興奮した様子で確認してくる。自分でやっておきながら俺も少し驚いたが、俺の魔法で間違いない。
「そういうことみたい。これが俺の魔法か……」
ドラマチックな場面で覚醒したりすることもなく、何となくやれそうだなと思って、実際にできた。
これまでの努力が報われて一安心だ。やけに周りが気になったのも、この魔法の特性故だろうか。
「しかしこれは、どうなんだ」
他人の魔法を発射する魔法。弱いというか、ちょっと意味が分からない。
簡易魔法にせよ普通の魔法にせよ、生成とコントロールが別の技術として扱われているのは理解していたが、コントロールだけの魔法が使えるようになるとは。
現段階でコントロールが下手くそであるヒノの魔法の補助はできるかもしれないが、それはあくまで今の話。訓練を続ければ普通に扱えるようになるだろうし、そこまでの寿命しかない能力だ。
敵の魔法もどうにか出来れば強力だが、そんなこと不可能なのが感触で分かる。友好的かつ待機状態の魔法しか操作出来ない。
さらに、そもそも待機状態というものが無さそうなサンゴの魔法には関われない。これはサンゴ側のデメリットに起因することだと思われるが、こちらの幅が狭まることに違いはない。
もとからサポートの必要は無さそうではあるが、応用するための魔法で関わることが拒否されているのだから、なんともガッカリな話である。
と思ってた。
「頼む」
「ほいさっ」
「次」
「うんとこしょっ」
会敵したスケルトン達に魔法を飛ばす。これまでは互いに発見してからもある程度近付かなければ戦闘が始まらなかったが、先制攻撃が出来る。
敵側の遠距離攻撃持ちも、五十メートルくらいまで近付かなければどうせ当たらないので撃って来やしない。たまに物は試しとちょこっと撃って来ても、こちらと違って届かなかったり明後日の方向へ飛んで行ったり。
放たれた粘着弾は勢いよく飛んで行き弓持ちスケルトンにヒット。胴体に当たっただけでそのままなら意味が無いのだが、剥がそうとした手に引っ付くことで無力化に成功する。
「やたら都合が良いな」
厄介な敵がほとんど機能しなくなる。
射程内とはいえ百発百中とはいかないので何発か撃つことになるのだが、その後の展開も含めて一方的な戦闘ができるため、魔力の消費も結果的に減っていて良いこと尽くしだ。
一度接近し始めてからはあえて魔法を使う意味が薄く、ヒノもほぼ近接アタッカーとして働いている。
微妙だと思った魔法だが、現状では馬鹿みたいに強かった。射程は正義。
◇
「えらく都合が良いな」
つい先日も同じようなことを言った気がする。
体に付着する炎でもだえ苦しむグールとハイエナ。四体いる内の残り二体はまだ無傷なのだが、分かりやすく狼狽えている。知能があるからこその欠点である。
予定通り、『冒険者の塔』一層のより外周での狩りである。
混乱のせいか向こうも近付いてこないのを良いことにそのまま待っていると、ハイエナの方がそのまま倒れた。体毛が燃えることで火だるまになっていたし、納得の結果だ。
一方のグールは付着した炎が徐々に弱まり収まっていくため、落ち着きを取り戻しつつある。ヒノの魔法は燃料となっている粘着魔法の体積が減っていくと当然小さくなり、やがて消える。
とはいえ既にグールは脇腹と炎を引き剥がそうとした手が炎でただれている。相当なダメージだろう。
そこに再び飛んでくる火の弾。
「なんだか可哀想ですねっ」
イキイキと笑顔を浮かべているのを見るに、全くそんなこと思っていなさそうだ。
先程と同じグールと残りのハイエナに着弾したところで今度は接近する。
唯一無傷なグールにサンゴが素早く攻撃を仕掛け、隙が見えたところでミリリの強烈な一撃が襲い掛かる。
再び体に付いた火に慌てているグールは既に隙だらけなため、俺が一刀のもと切り伏せる。ハイエナは放っておけば燃え死ぬと思われるので、下手に近づかず見守る。
何の苦労も無い。
まともにやり合えば今の装備でも充分脅威になる相手なのだが、スケルトン達より楽なのではないかというくらいだ。
本来ハイエナは四足獣らしく素早く動きこちらを翻弄してくる。名前から想像されるものをそのままより狂暴に、立体的に動くようになったモンスターだ。見た目としては耳が長く、手足の平が少し広いのが特徴だろうか。
正式名称はサルティヒエーノだかなんだかで、角兎のご親戚らしい。兎なのかハイエナなのか。もとからエベナの兎が兎とは言い切れないし、仕方のないことではある。
グールの方は人型の化け物。背の低くないゴブリンという感じだろうか。薄汚れた黄緑色の皮膚をしており、草が生えている付近ならそこそこ迷彩効果がありそうだ。
武器を持たないが機動力と耐久力に優れており、爪による攻撃が効かないなら人型であることを活かし積極的に防具を剥ぎ取ろうとしてくるそうだ。
ハイエナを相手にするならカウンター攻撃が望ましく盾か鎧の防御が欲しいが、そうして装備を重くするとグールのカモにされる。
単体で出現してくれれば良いが、多くはハイエナとグール混合の群れを形成しており、そんな都合の良い相手は珍しい。どちらも腐肉を好みそうなので、そこら辺で仲が良いのだろうか。
また、相手が速い以上一度戦闘を始めると逃げることも出来ない。
そんな厄介なことだらけで、スケルトン達の次の相手にしてはハードルが高いと言われている。その相手にこの圧勝っぷり。
死ぬ死ぬ言われていた前評判とのギャップに少し困惑してしまう。
「何もしてない」
スケルトンとは一味違う動きをするグール相手に初見で対処したサンゴと、それに合わせ止めを刺したミリリは十分な働きなのだが満足出来なかったらしい。頼もしい限りである。
グールはこの世界でお金として扱われる魔石を体内に持っているので、死体に剣を刺してほじくりながら探す。親指の先ほどの大きさしかない魔石は持ち運びが楽だが、体内から探すのは大変だ。
死体を弄んでいるようで倫理観を問われそうな光景だが、必要なことだ。ようやく見つけた頃には、グールの胴体部が内から爆発したのかというくらいにぐちゃぐちゃに広がっている。
「手でやった方が早い」
斧でグールを解体し始めたはずのミリリは緑色の体液で汚れた篭手で魔石を俺に見せる。一方、グールの死体はパッと見大きく胴体が裂かれただけで俺のよりよほどスマートだ。
……まあ、毒があるわけでもないし確かにその通りだ。一回の解体でちんたら時間を掛けるのも違うだろう。
篭手の中に体液が入ることで悪影響が出ることもあるだろうし、篭手ごと入るデカくて丈夫な防水手袋でも探して置こう。うん、決して触りたくないからだけではない。
処理方法についてはともかく、こうして通貨として使われる魔石が直接手に入るのは感慨深い。ファンタジーらしい要素だ。
魔石が死体から採取出来るのは、全身を巡っていた魔力と生命力が滞り凝固した結果とのこと。その現象がどれだけ正しい機序なのか俺は分からないが、ともかくそういうことらしい。
生成されるか否かはモンスターの能力や体質次第であり、見た目不思議なモンスターほど可能性が高いとのこと。このグールは特別不思議な感じもしないので何故という気持ちでいっぱいだ。しかし本当の理由を知るにも結局お金なので我慢だ。
因みに能力次第だが人間でも生成される。
魔石が通貨として使われるのは、宿した純粋なエネルギーがそのままでも用途と価値があり定量的に捕らえることができるからである。
簡単な装置や能力でエネルギー量が分かり、魔石同士での移動も出来る。まるで天然のプリペイドカード。
通貨として使わなくとも魔道具の電池として使用できたり、効率は悪いがエネルギーを自身の魔力回復に使えたりもする。モンスターであっても本能的に欲しがる万能アイテムである。
持ってきていたゴム板のようなアイテムを使って、財布代わりに使っているコンパクトで大容量の加工済み魔石にエネルギーを移す。完全にエネルギーを失った魔石はほどけるように砂になり消えていく。
大気に溶けていったこの砂はエネルギーが無駄になった部分なので、損したことの証明である。悲しい。
いずれは精度の高いモノを用意するつもりだが、当然値は上がるしエネルギーの小さい魔石である現状なら損失は微々たるものなので我慢。
ハイエナの方は本来毛皮が売れるのだが、焼き殺したのだからもちろん売り物にならない。
本来強いはずの敵を効率良く倒しはしたが……倒したから何なんだ?
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