第26話 冒険者の塔5

 この勝利は間違いなくサンゴの活躍によるものだ。巧みな体捌きと隙のない魔法の発動。


 派手なものではないが、エノンの言っていた通り明らかに強い。その一端が見えた。転生時期は俺とそれほど変わらないはずだが、こうも違うものかと思う。


「あれがサンゴの魔法?」


 サンゴはあまり自分から喋らないしまだ狩りが肩慣らしの範囲内であることもあり、能力的なものは最低限しか知らない。

 今のメンバーで隠し事は無しにしているが、必要が無ければ無理にあれこれ聴くこともしてない。

 直接見るのもこれが初めてだった。


「まあ、そうだな」


 サンゴにしては歯切れの悪い言葉。隠しておきたいという感じでもない。

 もしそうならそもそも使わなくとも問題がない場面なので、何らかの事情があるのだろう。

 良ければ相談に乗ると言ってみたが、曖昧な言葉で返された。


 スッキリしない部分があるものの、その後の狩りも順調そのもので、同じエリアで狩りを繰り返す。


 一度に倒せる数がかなり多く、昨日と比べ随分と狩りの効率は上がったのだが、時間当たりの収入はあまり増えていない。


 これは森での狩りと同じく運搬や換金の都合。


 台車に乗る戦利品の数は限られているので、行き来の時間が増えている。


 そして買い取り先の問題。


 ゲート横の村ではなく、二層入り口の村でも換金ができるのでこれを利用している。

 しかしこちらは運搬を肩代わりしてもらうようなものなので、その手数料として安く買い取られ、思ったほどの儲けには繋がらない。


 売却量が倍になっても、儲けは精々三割から五割増えただけ。


 もちろんゲート横の村まで自分で運ぶなんてことをすると余計に時間を無駄にすることになり、狩り自体の効率が下がるので仕方がない。


 少し違うかもしれないが、一次産業の難しいところとかそんな感じだろうか。



 一日の狩りを終え、帰路につきながら明日以降の予定を相談をする。


「一週間は今のとこで狩りをするつもりだけど、その後はどうしたい?外周に行くか上に登るか。あるいはもう少し留まるか」


 敵の強さとしてはここから更に外周へ向かうのと二層は同じようなもの。ただし二層は森になっており、ある程度の気配察知が出来なければ奇襲によりすぐに死ぬ。


 転生者第二の壁と言われている場所。ここで死なないためにも南西の森で修行していた形である。


「行けるなら二層行きたいですー。私はもうこの景色飽きちゃいました」

「景色に関しては一層内でも変わるみたいだけどね。起伏が増えてオアシスとかも出てくるみたい」


 聞くところによると、そのエリアのどこかで農業が行われているらしい。下手なところよりもダンジョン内の方が、出てくるモンスターが安定していて安全だという話。


 こうしたダンジョン内施設での労働できる下級冒険者相当の実力を持つ頃には、冒険者を志す転生者も晴れてこの世界での市民権を得ることも可能だという。



 今の俺たちはまだ初級冒険者。自称冒険者ともいう。まともな宿に泊ることはできているが、未だこの世界の初心者さんであり、豚のエサである者たちと大差がない。


 冒険者を続ける以上それで何か大きく変わるわけではないと思うが、早く自他ともに認める一端の冒険者になりたいものである。


「あー、そうなんだ。二層で良い肉を手に入れても、どうせ売るよね?だったら別にどっちでも良いかな」


 二層の森は様々な食料が手に入る。豚肉以外のものを食べたい身としては垂涎ものだが、ある程度余裕ができるまで手を出すのはやはり憚られる。


「スガの考えではどっちの方が楽なんだ?」

「多分同じくらい。一層外周ならヒノの魔法が有効なのは知ってると思うけど、二層なら同じくらいサンゴの魔法が刺さると思う」

「なら一層だな」


 即答。なぜだか分からないが、サンゴは魔法を使いたくないらしい。


「まあ、サンゴがそう言うならそうしよっか。ミリリも良い?」


 うん。と一言返事を貰い、予定が決まる。なんだかんだで食料が手に入る二層の方になると思っていたが、まあ俺としてもどちらでも構わない。


 それよりも、サンゴのことが気になってしょうがなかった。


 

 ダンジョンの出入口まで着き解散すると、こっそりサンゴを追って話しかける。


「聞いても良い?」

 内容は言わずとも分かるだろう。


「……まあ」


 やはり歯切れが悪い。


 何か込み入った事情があるのかと思い、飯でも食べながらゆっくりと。と思ったが、サンゴが適当な路地に入り塀があるとこで腰を下ろしたものだから、それに追従し俺も腰を下ろし塀に寄りかかった。


 何故こんな場所なのか不思議だが、都合が悪いわけでもないのでわざわざこのことについても聞いてもしょうがない。


「なんでこの魔法が使えてるのかよく分からないんだ」

「えっと?……」


 天才の自慢話のように聞こえてしまう。


「なんて言えば良いんだろうな。普通は火を出そうと思って火を出す魔法の練習をして、火の魔法を使うと火が出るって順序だと思う」

「それで?」

「オレは地面を動かそうと思ったことなんてないしその練習もしてない。でもなんとなく地面を動かせる」


 やはり自慢だろうか。滅茶苦茶羨ましいことしか言ってない。


「あと、魔力?の消費が激しい。使うごとに力が抜けるし、何回か使うとふらつくようになる。飯を食わないと戻らない」

「直接遠距離に魔法を発生させてるように見えるから、かなり高度だし魔力の消費が多くてもおかしくないとは思うけど……飯?」


 魔力は体力と同じように回復していくみたいなので、確かに食事はしっかりと摂った方が良いに決まっている。しかし肝なのは時間経過の方なので、食えば回復するという言い方はおかしい。


 狩りの最中も有効だと思われる場面で魔法を使わないことが何度かあった。本人視点だと違うだけだと思っていたが、力が抜けるのを嫌ったり魔力節約だったりが原因か。


「飯だ。食わなきゃまともに回復しない。念のため携行食を持ってるが、高いからな。できるだけ節約したい」

「それじゃ、こんなとこで話してないでまず飯だろう」


 遠慮しているのかなんなのか。或いはふらついた結果ここで座り込んだのか?いずれにせよ、さっさと何か腹に入れるべきだ。


 それにしても、確かによく分からない。何か足りない能力を満腹度で肩代わりでもしているのだろうか。でもそれならそれで、本人が分かりそうなものだ。

 分からないことだらけだが、代償があるということだけは確かだ。サンゴの言う通り、これを主軸にする狩りをされても困るだろう。二層を嫌がったのはもっともだ。


 食事をしながら引き続き魔法について話したが何も進展せず、現状俺も何にも分からないことと、こっちでも引き続き調べてみることを伝え話を終えた。


 話したがらなかったのは、自身でもよく分からず上手く説明ができないから、というだけだったみたいだ。変な思惑があるよりはよほど良かった。


「さてどうするか」


 いや、"どう"ではなく"いくら"だろうか。情報屋がある以上、多くのことは金で調べられる。


 コーメンツであれば顔見知りの情報屋へ気軽に相談しに行けたが、ここヴォーヨンでそんな伝手はない。曖昧な質問では金だけとられて終わってしまうので可能な限り簡潔で分かりやすい質問をしたいが、それも難しい。

 というか俺が簡単に思いつくならサンゴは一人でとっくに解決しているだろう。


 代償を払い能力を上げる方法。魔力に加えて体力を消費する魔法。可能性はいくつか思い浮かぶが、ハッキリとはしない。しかも、いかにも高価そうな情報でおいそれと聞けやしない。


 そもそもそういったものがあるとして、どうやって、いつ、サンゴは習得したのか。当の本人も思い当たりがないからこそ困っているのだ。


 何度も思考を巡らせていると、思い切ってコーメンツに戻って聞いた方が早いかとも思い始めた。交通費を考えてもそっちの方が安く済みそうだし、何も進捗がないということも避けられそうだ。


 だがもちろん、相対的に安いというだけでポンと出せる値段ではない。二層に行かなければサンゴの魔法に頼り切りということは無いし、もう少し稼ぎながら様子を見てからにするとしよう。

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