第25話 冒険者の塔4
最初に接敵し、剣を振り被り骨っこに攻撃をしようかという瞬間、咄嗟に行動を変え横に跳ぶ。弓矢が放たれるのを察知したためだ。
ヒノの魔法の射程は長くない。最初に到着する攻撃は敵の弓持ちのものだということは分かっており、一番距離が近く当てやすい俺に放たれるのは自明だ。
最初から意識していたので、避けるのは難しいことではない。
実際には避けるというより、撃たれる直前に意図的に動きを不規則にし、うまく狙いを付けられないようにするといった具合だが。今の装備なら最悪当たっても大きな問題にはならない。
攻撃を再開し、雑魚を片づけていく。
すぐに二射目の矢が放たれるかと思ったが、来ない。次のつがえるまでの時間ではなく、ヒノが封じたのだ。
弓使いのスケルトンの手には、野球ボールほどの焦げ茶色をした粘着性の物体がくっついている。
ただベトベトしているだけで他の効果は何もないが、剥がそうとすると今度はそっちの手に引っ付いたりと、中々取れない。弓矢を扱う側からしたら最悪の状態だろう。
あまり魔法らしくない見た目、効果だが、堅実で役に立つ。
無力化されている弓使いを先に排除しようとサンゴが迫るが、他のスケルトン達が間に入る。
反対側からミリリも迫るが、こちらはヘルメットを被った個体と近接戦に入った。
それぞれが個別に敵と相対している状態になるが、均衡しているわけではない。
骨っこは一振り毎に数を減らして行くし、ヒノもここに加勢しながら真っすぐ弓使いを目指す。サンゴも二対一を苦にしておらず、すぐに撃破するだろう。
結局、皆の戦闘はほぼ同時に終わった。最後になると思ったミリリの戦闘も、順調に決着を終えたようだ。
ミリリは肩で息をしながら目をギラつかせ笑みを浮かべている、興奮状態なのだろうが少し怖い。
ヘルメットを装備した個体は戦士職であり、技術と力共に高く近接戦の能力が高い。
職持ちスケルトンの中でも純粋な強さとしては最高峰のはずで、すぐに倒すとは思わなかった。
他を処理した後に誰かしらが加勢して倒すつもりだったのだ。にも関わらず加勢なく倒し切ったミリリは流石。
よく見ていなかったが、昨日とは一味違うのだろう。
「すごいですね!あっという間でしたっ!私も運が良かったですし、この調子ならまだ余裕がありますね!」
ヒノの方も良かった。魔法一発で無力化するとは思ってなかった。こちらは本来命中率に難がある。
ゲームならばむしろ魔法は必中であることすら珍しくないが、現実は違う。原因ははっきりしていて、魔法に標準で搭載されがちなイメージのホーミング性能がないからだ。
一度決めた標的を認識し続けて適宜方向を変え、推進力を維持し続ける。そんなの難しいに決まっている。
それどころか、ただ推進力を得るだけですら上手くいかない。俺たちくらいのレベルで魔法を使えても、石ころを投げた方がよほど飛距離が出るし命中率も高いだろう。
特にヒノの魔法は、新聞紙を丸めたものを投げた時のように、すぐ勢いを無くす。投げた後一度だけ再加速させる術を使え、これを用いてなんとか標的まで届いている状態だ。
しかもその再加速は完全に制御できておらず、あらぬ方向に飛んでいくこともある。最大射程の目標へ的確にぶつけることは殆どできない。
言ってしまうと結構ポンコツである。
今回も接近しながら何発か撃っていればそのうち当たるだろうという方針で、敵の矢は最低でも三発くらい避けることになると思っていた。
「サンゴから見てどう?」
「良いんじゃないか」
当たり前に複数を相手取るサンゴとしても、好感触だったらしい。
パーティを再編成して人数が一人増えたわけだし、ミリリがヘルメットのやつをすんなり倒したことは今までのエノン以上の働きだと思われる。
もっとも、装備を大幅に更新したのだから当然かもしれない。
それにこれまで避けていたはずの遠距離攻撃持ちと堂々と戦えるのは、防御力が格段に上がったからであり、これが一番大きなことだろう。
それでも昨日の調整のための狩りとは全然様子が違うし、嬉しい誤算だ。
戦利品を荷車に放り込み、次のモンスターを探す。
今度は盾持ちが一体だけのスケルトン達で、余裕があるのでミリリを観察してみることにした。
ミリリは敵の攻撃を大きく避けたり防ごうとせず、鎧で受け流すように最小限の動きしかしていない。その代わりに自身の動きも妨げられることなく、攻撃を仕掛けることもできる。
互いの攻撃がヒットするならば、戦斧の一撃の方が当然重く強い。しかも相手の攻撃が鎧を貫通してダメージを与えることはない。攻撃の手数は同じだが結果は天と地の差がある。
十分な防御力のある鎧を上手く活用していて、一つの完成系にも思える動きだ。
ミリリは昨日、結局宿に帰って来なかった。基礎練の後、永遠とこの動きを練習していたのだろう。
そのまま狩りをしていると、職持ち四体のスケルトン達を発見した。普通のスケルトンも三体、骨っこも今までで一番多くいる。
見た目からして数が多く壮観、今まで通り十分な安全マージンを確保するなら今日のところは避けても良いくらいだ。
相手の編成を確認してから戦闘を避けることができるのも、視界が開けている冒険者の塔の良いところ。
敵側からしても、遠くから走って追ってくるには無駄にエネルギーを使うことになり、いいカモになってしまうからかこれをしない。
逆もまた然りなのだが、ここのスケルトンは逃げることをしないので都合が良く、美味しく狩らせてもらえる。
逃げるか……いや、大丈夫だろう。
みんな良い調子だし、なにより鎧の安心感は大きい。
こちらが不利な状態に陥ったとしても、相手の攻撃で結局ダメージを受けないのならば何も問題ない。もっとも、そんな雑な戦いをしていたらすぐに鎧がダメになってしまうだろうが。
死ぬという明確な負けがない以上、やはり勝ちはほぼ確定している。
敵の内訳はヘルメット、服、服、杖。
戦士、道具持ち二体、魔法使いだ。構成の中に遠距離攻撃持ちと前衛がいると明確に難易度が増すうえ数が多い。やはり中々の相手。
服を着た道具持ちは小振りな片手剣を使うが中距離でナイフを投げてくることが多く、運が悪ければ毒薬や煙幕などを使ってくる。
投げナイフに関しては、今の俺たちの鎧には何の意味もなく楽なものなのでこれを期待したい。
互いに近付き、戦闘開始。
作戦は今までと変わりない。しかし難易度が違う。
ミリリは戦士と一対一の形が作れず、ヒノが魔法をぶつけたい魔法使いや道具持ちは骨っこを盾にし、俺とサンゴは魔法や何かが飛んでくるため行動が制限され攻めあぐねている。
そのまま持久戦に持ち込んでも次第に骨っこの数が減っていき、動きやすくなりいずれは勝てる。が、そうしているとヒノの魔力が消費されるし俺たちの体力も目減りする。
結局少数との戦闘を繰り返した方があらゆる面で効率が良いとなってしまえば、この戦いに意味は無く実質的な負けに近い。
最初に動いたのは、やはりと言うべきかサンゴだった。
サンゴは巧みにスケルトン達の攻撃を捌きながら、魔法使いの方へ飛び出す。しかしそこにはまた骨っ子たちの壁があり、その陰から放たれる魔法が厄介……なはずだった。
魔法使いがバランスを崩す。用意していた魔法は空へ打ち出され無駄になる。
――不自然に地面が盛り上がっている。これによってバランスを崩したのだろう。サンゴによる魔法だ。
自ら作り出した隙を逃すはずもなく、サンゴは骨っ子を躱し、排除し、魔法使いに辿り着く。
得物を標的の骨盤に通してそのまま振り回す。重量からかそれ程勢いは無く、骨っ子達を一歩引かせる程度の効果しかないがそれで十分。妨害されない空間ができたら魔法使いを地面に叩きつけ、すかさず追撃、破壊する。
敵の遠距離火力が無くなれば後は簡単な作業だ。
それにサンゴが魔法使いの相手をしている間にヒノが道具持ちを一体無力化しており、こちらも同様。そのまま畳み掛けた。
結果を見ればこれも随分スムーズな勝利だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます