第24話 冒険者の塔3
「ほっ、はっ」
慣れた動きで剣戟を繰り返し弾き、隙が大きければ反撃に転じる。
安定感に優れた動きを見せるヒノ。
武器の重量問題も、心配していたわりになんともなさそうだ。
既に各所が破壊されボロボロになったスケルトンは、最後に複数の腰椎を砕かれ動かなくなった。
「今日はこんなところか」
タイヤが付いている背の低い荷車を見ると、ボロ剣で一杯になっている。二十に届かないくらいの本数だろうか。
一度村へ戻ってボロ剣を換金した後、もう少しスケルトン狩りに従事することに決め荷車を借りたのだ。
「付き合わせてすまんな」
「ん、まあ今日はしょうがない」
サンゴに軽く謝る。
サンゴも鎧を新調したとはいえ、何も問題なさそうに動いていた。俺たちと違って意味もなく雑魚戦を繰り返しただけで、得るものもなくつまらなかっただろう。
俺も鎧についてはさほど問題を感じなかった。
速度をそれほど求められていない戦闘だから意識しなかっただけかもしれないが、筋力が足りているということなのかもしれない。丸太を運び続けた甲斐があるというものだ。
鎧と言えば、防御力についての検証は少しだけできた。というのも、ミリリが数回被弾したからだ。
あの後同種のスケルトンにしては最高峰だと思われる個体も出現し、その対応をミリリがした。
見事に最初の攻撃は逸らされて、その隙に攻撃を受けたのだ。一瞬ヒヤッとしたが鎧がしっかり働いてくれたみたいで、すぐにミリリは体勢を整えた。
その相手とは、ミリリの一撃の重さと隙の大きさのせいでお互いにいちいちバランスを激しく崩すという、泥臭い一進一退の攻防が続いた。
最後には防具で受け流すように最小の動きでスケルトンの攻撃をいなし、お返しに戦斧をクリーンヒットさせ勝利を納めたが、忸怩たる思いがあったはず。
ともあれ防具の有用性は証明された。ここのスケルトンはパーティで狩るには格下の相手ではあったが、この感じならもう少し強いモンスター相手でも攻撃の一発や二発は問題にならないだろう。
換金を終えるとその場で解散。今日は半日も狩りをしていないし手慣らしでしかなかったのに、森で奮闘してた頃の半分以上の稼ぎがある。分かってはいたがちょっと複雑。
パーティでの狩りを終えボロ剣を換金したゲート裏の村でそのまま解散したものの、ダンジョンの出口に向かう者はいなかった。それぞれまだやりたいことがあるのだろう。
もちろん俺も。
今日は剣の重さを利用するように動くことを意識したが、これだけではダメだ。
有効な動きではあっても、見方によれば筋力の無さを誤魔化しているに過ぎない。もっと素早く動いたり魔法でけん制してくるような相手には遅れをとる危険がある。
なんなら角兎すら相手に出来ないだろう。このままではいけない。
筋力が欲しい。
とはいえやることはこれまでと大きく変わらない。これまでだって毎日鍛錬の繰り返しだった。
まずは素振りだろうか。広さを確保するために村を出ると、同じような鍛錬をする冒険者がちらほらいる。その中にミリリの姿も見かけたが声を掛ける必要もない。
昼間に行った調整とは違い、わざと負担がかかるように思い切り振る。空を切るだけだとつんのめるくらい剣に体を持っていかれる。
筋力の問題だけではなく、重心を体幹に寄せるために体重が必要な気もする。……いや、まだこの程度なら技術で何とかなるはず。物理法則が違うエベナにおいてはなおさら。
そもそも体格が変わり難いということは筋肉が付きにくいのだから、体重を変えるのは難しい。それに見た目が俺より小さいのにミリリの斧よりも大きな武器を持ってる奴だって街中にいた。訓練だけでなんとかなるものなのだ。
思考を巡らせながらも剣を様々な角度から振る。時には助走を付け、時には連続して。両手で、片手で。
動きを体に覚えさせるいわゆる「型」を練習するのではなく、色んな方法を試し色んな筋肉を使う。それも出来るだけ激しく。
幸い無理に動かして筋を痛めるということもない。今となっては最初からそうだったのか鍛えている内にそうなったのか分からないが、多少のことでは無理な動きの範疇にはならないのだろう。
わざと疲労が溜まりやすいよう動いていることもあり、わりとすぐに疲れが出始めるがすぐに休憩せず一心不乱に剣を振り続ける。
もう振り上げることすら不可能なほどにクタクタになり、息も絶え絶えになってようやく休憩することにする。本当ならまだ続けたいところだが、食事や休息を摂ることも大切だ。
これ以上動くと固形物が喉を通らなくなってしまい、落ちつけている間に眠ってしまうかもしれない。そうなると結局栄養補給が出来ないことになる。
努力が大事と言っても、ただ動いていれば良いというわけではない。正解は分からないが自分なりに効率良く時間を使わなければ。
◇
翌日、朝食の席で視線を感じた。
何かと思ったが何てことはない。ただダサイ鎧が注目されているだけだった。
昨日は動きが悪いという、冒険者にとって致命的な事態をなんとかしようと躍起だったし、鍛錬の後は疲れ切っていて周囲を気にする余裕なんてなかった。
そういえばそうだったな、なんて思いながら食事を進める。
別に注目を浴びたところで損も得もない。一日経って恥ずかしさはかなり薄れているし、この調子ならすぐに何も気にしなくなりそうだった。
本日も、もちろん皆でダンジョンに潜る。
ただし、ゲート裏の村では荷車を借りず二層の階段がある北西へ向かう。
目的地は十キロ先。鎧と剣を装備したままでは中々の距離であるが、それでも駆け足を維持して進む。
道中には、荷車を引いて向かう者や帰路に着いている者、さらには圧倒的な速度で追い抜いて行く者達がいた。
舗装された道があるからモンスターが出ない。なんてことはないはずだが、一度も出くわすことが無かった。駆け抜けて行った彼等が処理してくれているのかもしれない。
三十分強でようやく目的地に着く。入口と同じような村がこちらにもあり、休憩その他ができる。
流石にフル装備で走り続けるのは大変だったが、それでもここまで休まずに来れるのだから我ながら大したものだ。タイムだって転生前では考えられない早さだ。
ここまで来た理由は二層に上がるためではなく、単純に外周部に近付くためだ。
中心部から離れれは方向はどちらでも良いのだが、好きに選べるのなら移動が最も楽で休憩もできるここを目指した方が良いに決まっている。
『冒険者の塔』一層では外周部に向かうと、敵の脅威度が増す。一定以上進めばこの法則性は乱れるらしいが、今の俺たちには関係のない話。
少々休んで呼吸を整えてから、台車を借りてさらに北西へ狩りに向かう。が、早々に他のパーティを見つける。
同じように狩りをしているのだろう。俺たちは大人しく場所を移す。
すると早速モンスターの集団に遭遇する。
スケルトンが四体。なんだかんだ昨日も外周へ向かって進んでいたので、そこまでの差はない。骨っこも相変わらず十体ほどいる。
当然問題なくこれを退治し、次へ。
何度か繰り返しながら、更に進むと、敵の構成が変わる。
相変わらずスケルトン種なので見た目はそれほど変わらないのだが、装備が違う。
「俺が骨っこを片づける、弓はヒノが抑えて、ミリリがヘルメット。サンゴは簡単な奴から順次片づけて」
そう指示を出すと、前に出る。向こうの前線は骨っこなので、最初に戦うのはどうせ俺。
計五体いるスケルトンの内二体が職持ちと呼ばれる個体。
その中でも特に厄介な遠距離攻撃持ちまでいる。強敵と言って差し支えない構成だ。エノン達が狩りをしていた時の相手もこれくらいの敵だったはず。
負けるなどということはまずないはずだが、気合を入れ直して挑む。
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