第23話 冒険者の塔2
一足先に飛び出しながら、一撃で骨っこは片づけて前に出る。残りの骨っこは誰かがやってくれるだろう。
剣を振ってすぐに駆け出したため、腕と剣が後方に置き去りになってしまったが、そのまま一周回すように剣を上段の構えまで持っていき、スケルトンとの接敵に合わせて真上から振り降ろす。
正面から受けたくはないと判断したのか、受け流すために剣を斜めにしながら体の位置を変えるスケルトン。
だが、こちらがそれに合わせる必要はない。
無理やり剣を振る向きを途中で変え、相手の持つ剣の鍔に叩きつける。
強引な制動だったとはいえ剣の重さも乗り威力は十分。スケルトンの剣は弾かれて大きく下に向いてしまう。逆にこちらの剣はぶつかり合った衝撃で慣性が殺され動かしやすい状態。
振りかぶるのではなく手首と体の向きを変えることで、時間を掛けないまま出来るだけ力を載せられるようにして、すかさず横なぎに剣を振る。
狙い違わずスケルトンの頭部に直撃し、大きく仰け反らせる。できればそのまま頭部を破壊したかったところだが、勢いが足りずそこまでは至らなかったようだ。骨っことは耐久力も違う。
剣を振りぬいた後はそのまま剣の慣性に乗って斜め後ろに下がる。俺の攻撃の衝撃でほぼ中断されたが、スケルトン側も剣を振り上げる動作で攻撃しようとしていたので、それを避ける形だ。
両者とも体勢を崩した状態だが、ダメージのあるスケルトンの方が立ち直りは遅い。
上段に剣を振り上げて、真向斬りを仕掛ける。
スケルトンはなんとか攻撃を防ごうとして剣を横に構え盾にしようとするが、体勢が整いきっていないそれでは防げない。
軌道をずらされ威力も少し殺されたものの、鎖骨と肩甲骨の一部を破壊した。
衝撃で倒れた上に片腕が使えなくなったスケルトン。ここからは一方的だ。
相手が骨なこともあり死体蹴りのような状況だが、万一が無いように腕のない方の足側から近付き骨盤辺りに攻撃を加える。
倒れて低い位置だったため剣では力をかけ辛く数発かかったが、何事もなく破壊までもっていきそのまま動かなくなった。魔力で繋がっていた骨が落ちてカランと小さな音が鳴る。
無事戦闘が終わり息をつく。終始こちらのペースではあったが、剣を交える戦いは初めてだったので緊張した。
剣や鎧が重いこともあり、一度崩れたら立て直せるかも分からないので非常に怖い。
ふと、その鎧のおかげでスケルトンの攻撃の一発や二発は問題ないことを思い出す。
戦う前までは、むしろ一発わざと鎧で受け止めてカウンターを仕掛けた方が効率的かもしれない。なんてことも考えていたが、実戦になると攻撃なんて一発も受けたくないという考えが勝る。
悪いことではないかもしれないが、せっかく新調した鎧のデメリットしか享受しないのは損した気分だ。
「早く慣れないとだな」
戦利品であるスケルトンが使っていた剣を貰ってから、骨っこを早々に倒し俺の戦いを見守っていた三人と合流しながら声を掛ける。
もう少し手際よくやりたかったが、今の自分ではこんなものか。剣の重さを利用した動き方をしてはいるものの、振り回されている事実は変わらない。どうしても隙が生まれるので敵が複数いると危ないだろう。
リョウでもいればお世辞でも言われそうなものだが、ここにいるメンバーはそんなことは言わない。
今回は俺と同じく武器を重くした二人については自分の心配でそれどころではないだけかもしれないが。ヒノとミリリは自分の得物を見ながら少しだけ動かしていて、頭の中で動きの確認を行っているみたいだ。
特に、ミリリは苦い顔を隠すこともしていない。それほどまでに重量がネックになっているのだろう。
「次一体で出たら私が行く。でも何かあったとき用にサポート頼みたい」
「んじゃその時はサンゴが援護頼む。他はこっちでやっとくから」
素直に援護も頼まれる。
ここで俺が行っても足手まといの可能性があるので、一番身軽に動けるサンゴに頼む。
スケルトンを探し彷徨う。比較的ゲートに近い位置ではモンスターの数も少なく、寂しさを漂わせる荒野といった印象を受ける。日が傾き始めてることもそれを助長する。
一応ここら辺でも死人が出たりしているはずだが、死体は重要な栄養なのかモンスターが素早く回収に来るらしくそういったものも見つからない。
スケルトン種も魔法でエネルギーを吸い取り自身の魔力に変換するし、残った骨は新たなスケルトンとなる。外周のモンスターが盗りに来ることもあるそうだ。
「ふん!!」
力の篭った掛け声と共に振り下ろされたミリリの斧。
対するスケルトンは剣を横にして受け止める姿勢をとり……
バキャッ
構えた剣ごと破壊され、一撃で召された。
最高とも言えるくらいの効率的な戦いだったが、なんとも釈然としない雰囲気である。
いかにダンジョン特有の生態系無視のモンスターと言えど、個体差はある。今回のは判断能力に欠ける個体だったのだろう。俺より明らかに重い一撃を真正面からボロ剣で受け止めようとしたら、そりゃあそうなる。
得るものがなかったミリリが次も倒すことになったが、結果はまたもや一撃。腹が立ったのか崩れた骨に対してもう一度斧を叩きつけていた。
「俺のが強かったの?それともこれが弱いの?」
既にこの狩場で数をこなしているヒノとサンゴに聞く。
「どうでしょう?でも半分くらいは今のくらい弱いと思いますよ。」
「馬鹿なだけで他の部分が強かった可能性もあるから一概には言えないがな。スガのは強い方だったんじゃないか?」
二人も自分で戦ってみないといまいち強さの判断はできないみたいで、なんとなくの評価に留まる。
今度こそはとミリリが気合を入れながら探索していると、残念ながら出てきたスケルトンは一体ではなく二体。いや、三体。骨っこは十体くらい。
ゲートから距離が離れるほど危険度は増すので、数が増えるのは織り込み済みではある。
「どうする?」
指示出し役の俺が何も言わないのでサンゴが不思議そうに確認してくる。
「んー、あえて、皆適当にやろうって感じで良い?」
完璧にやり過ぎると、一方的になり得るものも少ない感じがする。
せっかく鎧もあるのだし、あえて一対一で試さなくとも良いかなと思えてきた。ケガの可能性がゼロじゃないとはいえ、なんとでもなる内に色々と試しておきたい。
最初にミリリが前に出て、戦斧を横なぎに振る。骨っこ二体が真っ二つにされ、続く攻撃でさらに一体。ついでに骨をわざと踏み、砕いている。それぞれの威力のためか、軽快な破壊音が響く。
俺たちも続いて攻撃しようと思ったが、ミリリが邪魔で動きにくい。仕方なく俺は左へ距離を離し、サンゴは逆に右へ。ヒノは大人しくその場に残った。
大きく迂回したためか、骨っこを介することなく後ろに控えていたスケルトンと対峙する。
移動の勢いを乗せたまま右手で突きを繰り出しスケルトンの顔面を狙う。我ながら鋭い一撃を繰り出せて、防がれることなく上顎に突き刺さり、勢いで頭部が頸椎から離れる。
頭部を失ったことでスケルトンの動きは鈍るのだが、スケルトンの性質上、動けないというわけでもない。
距離が詰まっている俺に対して袈裟斬りをしてくる。が、素早く剣を戻しながら姿勢を低くし横にした剣で受け止める。自由だった左手を添えたこともあり、難なく防ぐ。
状況がリセットされてしまえば、相手は頭部を失い能力の落ちたスケルトン。さっきのお返しとばかりに思い切り袈裟斬りをし返すと、防がれることもなく肩から腰まで斜めに切り裂けた。
念のため骨盤に剣を立て破壊しながら周囲に視線を走らせると、サンゴがスケルトンの剣を弾き、長棒の先端を骨盤に差し込み自身の膝を支点にテコを使って持ち上げ地面に叩きつけた。
対スケルトンならではの器用な攻撃方法に感心する。
まだスケルトンは全身が繋がった状態だが反撃される前にやり切る自信があるようで、すぐに傍まで近付き今の俺と同じような形で骨盤を破壊した。
それと同時に、断続的に続いていた軽快な破壊音も止んだ。
改めて状況を確認すると、ミリリが骨っこ全てを預かりサンゴがスケルトン二体をやったということのようだ。ヒノは最初の位置から動かず何もしていなさそう。
ミリリは相変わらず少し不満そうな顔をしている。一回一回の振りの時間がかかるため雑魚相手でも時間がかかってしまったのが悔しいのだろう。
強引に全てをまとめて薙ぎ払えるような筋力もない。うまいこと骨っこ全員が当たりやすい様に弧を描いて並んでくれればワンチャンあるかもしれないが、そんな都合良くはない。
例えうまく囲まれる状態になったとしても、多くの敵に当たるということは手元に近い位置でも当たる可能性があり、勢いは簡単に殺されてしまう。
パワーファイターとはいえ全てを力で解決するなんてことは、まだまだできそうになかった。
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