第20話 楽しいお買い物2

 武器の種類というのは、細かく分類すれば数えきれないほど多い。一口に剣と言っても、長さ大きさ構造どれをとってもバラバラだ。


 中心街の店ではゲームで見たことのある武器、見たことのない武器もたくさんある。逆に全く見かけないものもある。鎌なんかがそれだ。


 鎌、基本的には大鎌だろうか。わりと定番の武器だが、誰しもがどうやって使うんだと考える武器代表ではないだろうか。


 本来はただの農具で、農民が戦う際には刃の向きを付け替えて使ったもの。つまりもともと武器として使うなら鎌の状態では使わない。その付け替えた状態を武器として分類するなら槍や鉾になるだろう。

 もちろん冒険者が武器屋で買うのは武器である。ならば元が鎌だったとしても、既に武器として使用可能な状態で売られているに決まっているわけで、鎌と認識できない。

 

 鎌ほど非現実的でなければ面白武器はそこそこあり、その専門店なんかもある。不思議な形の刃、何に使うのか分からない突起。


――まあ、結局は使いやすさが大事だ。切り返しが楽な両刃。手入れが楽で刃こぼれを気にしないで使える丈夫さ。つまりなんの変哲もないロングソード。それが一番だろう。


 そんな風に考えていたが、少し気になることがあった。


 今見ている店は少々変わった武器が多く、特に剣は背面にギザギザが付いているものが多い。ノコギリだろうか。


「ゴーレムの迷宮に行くんですか?」

「ん?あぁいや、今のとこ予定はないな」


 行く予定の迷宮は『冒険者の塔』という、階層に分かれたダンジョンだ。「始まりのダンジョン」とも呼ばれる、難易度調節が容易で便利な場所。

 今言われた『ゴーレムの迷宮』はもう一方であるダンジョン。予定も無く大して調べてもいなかったが、名前からしてイメージはしやすい。エベナの固有名詞は冒険者が付けていったものがほとんどなので、よほど意地悪でなければそのまんまのものだろう。


 ヒノがこのタイミングで話題に出したということは、このギザギザは石を切るための鋸刃ということか。

 戦いの最中にノコギリでちんたら切っている余裕はないだろうから、倒した後の解体時に使うのだろう。


 そこまで考えを巡らせてから改めて商品を見渡してみると、石を意識した武器が結構あったことに気付く。先ほど見た物の謎の突起はつるはしの代わりだったのか。


 選択肢を増やす意味で鋸刃付きというのも有りかもしれない。ゴーレムに限らず獲物の解体時の用途は広そうだ。


 しかし、そうするとゴーレムと戦う際にも剣を持っているということになる。


「剣でゴーレムって倒せるんですか?」


 ひげを蓄えたいかにも武器屋の店主という風体のおっさんがいたので聞いてみる。


「出来るやつはゴーレムだって切れるさ」

「それなら鋸刃がいらないと思うんですが」

「浮いているものを勢い任せに切るのと、欲しい部位を切り取るのは違う。無論それでも正確に切り取る技術があれば鋸刃もいらないだろうが、そこまでの奴なら違う狩場で稼ぐだろうな」


 なるほど、そういうものか。しかし石の化け物を両断するなどできたら格好良いとは思えど、本当にできるとは中々思えない。少なくとも木人を両断する方が先だろうから、まだ全然だ。


「確かにここら辺の商品はゴーレム相手を想定しているが、別にゴーレムの素材以外にも鋸刃は使えるぞ。大型獣の解体では骨も切れるし、キャンプ時に木材の調達も楽になる。後からあれば良かったと後悔するかもしれんぞ」


 商品のアピールに余念がない店主。経験豊富そうな店主にそう言われるとそういう気がしてきてしまう。鋸刃と言ってもそれほど細かい作りではなく簡単に壊れることはなさそうだし、あって困ることもない。


 そうして悩んでいると。


「これ欲しい」


 と、ミリリが商品の一つを持ってやって来た。


 手にしているのは戦斧。これまで使っていた手斧とは異なり全長一メートル以上あり、斧の部分が大きく重そう。斧の反対側は長く尖った突起が付いており、つるはしとして使えるようになっているのだろう。


 とてもイカツイ武器で、見るからに強そうだ。試しに持ってみると想像通りの重さ。これを振り回すのはいくらミリリの力が強いと言っても大変に思える。


「こんなの使えるのか」

「使う」


 現状使い切れないのは理解しているが、それでも使いたいと。

 チラッと値札を見てみると、見た目に恥じず値段も立派だった。買えないことはないが、一人に当てる値段としては少々オーバー。


「とりあえず分かったが、他の候補も探しておいてくれ」



 武器探しの店巡りは続く。


 今いるのは魔法関連の道具も多く取り扱っている店舗だ。

 魔法を使う補助となるものと、特殊な魔法が付与されているものどちらもある。

 

 炎を纏う武器なんかは分かりやすく格好良い。男心をくすぐってくる。

 とても興味を引かれる。だが、流石に本気で買おうとは思わない。多少の炎を纏ったところで燃やせるものなんてほとんどない。これは情報屋で言われたことでもある。


 誰でも分かることだが、丸太に火を近付けたところで一瞬にして燃え移ることはない。エベナの物理法則は俺が知っているものと大きく異なっているが、こういう表面上の部分は同じ。


 火をまとった剣で一度切り付けたところで燃える相手なんてそうそういない。よっぽどフワフワの体毛を纏っているものくらいしかいないだろう。

 ゲーム脳で考えると植物モンスターに効きそうだが、生きている植物はむしろ短時間の火や熱には強い。見るからに枯れていて水分が無さそうな相手にしか意味がなさそうだ。


 しっかりとした効果が得られそうな魔法武器は、どれも値が張る。現状手を出す物ではない。


「あのー……」


 声を掛けてきたのはヒノ。手には棒の先端に球状の膨らみと円環状の出っ張り、槍が付いている商品。主に打撃武器として使われるメイスで、槌鉾とも呼ばれる。

 特徴的なのは、先端の膨らみより少し持ち手に近い部分に綺麗な光沢を放つ装飾があしらわれていること。魔法の使用を補助するためのものだろう。


 ヒノは、既に魔法を使える。


 エベナにいる期間が長く、実は転生者としては先輩。出会った段階で既に魔法を使えるようになっていた。その魔法を実戦で試そうとしたところ、あえなく失敗し危機に陥っていたのだ。


 使用したのは火の弾を打ち出す魔法だったが、その火の弾の中には何の芯もない。先ほどの炎を纏う武器と同じで、食らう方としては一瞬炎が過ぎ去るだけである。熱くて怯むことはあれどダメージは全くと言っていいほど入らない。

 激高した緑豚たちにそのまま殺されるところだった。


「今の武器じゃダメなのか?」


 既にヒノは俺とミリリよりも良い武器を使っている。


「絶対ダメってわけじゃないんですけど……あんまり有効に使えてない気がするんですよね」


 現在ヒノが使用している武器もメイス。ただの棒の先がほんのり膨らんでいるだけのものでしかないが、一応魔法の補助になる代物で使い勝手が良いとされている。


「何も持ってないよりは良いんですけど、ただ何か持っているだけと言いますか。あまりにも軽くて、振り回しても威力が出ないんですよ。器用に使える気もしませんし」


 軽いからこそ扱いやすいが、軽いからこそ威力がない。


 丈夫ではあるので敵の攻撃を防ぐ分には問題無いが、それ以外にほとんど使えない。魔法が主体ではあるが、正直接近戦において不安が残る。というのがヒノの意見。


 提示されたメイスはミリリが欲しがる物よりは安く、俺とミリリ用の一人当たりの予算ピッタリである。ただし、予定になかったので丸々予算オーバーになるのだが。


 悩ましいが、仕方のないことでもある。「使ってみたら思ってたのと違った」というのは誰でも経験することだ。

 既に持っている武器と長さが変わらない物を持ってくるあたり、本当に重量や威力に不満があるだけなのだろう。


「一応聞いておくけど、サンゴは何か欲しいものあったりする?」

「特には」


 サンゴが使っている武器はヒノと似たような物で、こちらは長さがあり棒術で使われるような長棒だ。ヒノに不満があるのならサンゴにもあっても不思議ではないが、そんなことはないらしい。


 一応、臨時収入があったおかげもあり予算に余裕はある。どうしたものか。

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