第17話 パーティメンバー

「お待たせしましたっ!」


 なんとも申し訳なさそうに、ペコペコと頭を下げてくる。


「別にヒノが頭下げる必要はないだろ。勝手に予定変更されたんだし」

「エノンの言う通りだ。予定が随分変わったからな」

 

 ”元々”仲間である三人がダンジョンから帰還するのを夜まで待ち、合流した。


「でももっと早く着くはずだったので」


 ヒノ、エノン、サンゴ。

 この三人は、先にヴォーヨン入りしダンジョンで狩りを行っていた。


 本当は五人パーティだったはずだが、二人死んだとの報告を受けている。俺としては五人とも優秀だと思っていたのだが、実際にパーティを組み狩りを行っていた三人からすると順当な結果だったそうだ。


 八人。それが本来の俺のパーティだ。


 ユイは人数に勘定すらされていない。もっとも、ユイの扱いに関してはミリリにしか話していない。勝手に察している可能性は大いにあるが。


「それはもういいだろ。やっとまともな話し合いが出来るんだ。積もる話もあるし、どんどこ進めないとな」

「どんどこって可愛いですねっ」

「……」

「あ、ごめんなさい。変なこと言ってしまって」


 やってしまったとばかりにオロオロとするヒノ。空気を読まない感じがあるが、皆この感じに慣れているので問題はない。


「まあ軽く伝えたけど、リョウは離脱したよ。説得する方法も思いつかなかったし、しょうがないね。能力的には申し分なかったんだけど」

「惜しい人材」


 リョウは俺たちと同じように、毎日のトレーニングを欠かさない。探し人とやらのためみたいだったが、何とか強くなろうと努力し続けていた。


 守りに重きを置く無理をしない堅実な戦い方で、タンク役を完璧にこなしてくれていた。俺の採用基準のせいか志向が偏り、攻撃一辺倒な者が多いので特に貴重だったのだ。


 リョウとこの三人は面識があったが、別パーティということにしてあった。

 ユイに関して片を付けた後、再編成ということにして合流する予定だった。無理があるのは承知しているので、どちらにせよ十分抜ける可能性はあると思っていた。


「お前のやり方は過激だからなぁ。この世界じゃ利点だとは思うが、付いて行きたいかというと別問題。妥当だな」

「でもでも、お陰で私たちは順調じゃないですかっ」

「二人死んどいて順調なのかねぇ。スガ的にはどうなん?」


 粗暴な物言いをするエノンだが、これでこのパーティでは一番まともな人物だ。


「正直、エノン達がどんなに優秀でも一人は欠けると思ってたよ。そういうものって聞いてたし。二人欠けるのは少し残念だった。俺自身の見る目が無かったってことだしね。でも一番意外だったのは、狩りのペースが三人になっても落ちていないことだね」


 収入そのままで出費は頭数が減る。なんとも美味しい話である。


「それだけ優秀ってだけの話だ」

「頼もしいね」


 素直に感心していると、フッと鼻から息を出しエノンが訂正する。


「サンゴが、な」


 エノン自身とヒノとは違うと強調する。


「こいつはやべーよ、転生体が同じとは考えたくねぇな。むしろ優秀な血筋だとか特別な能力がーとか言って欲しいくらいだ」

「ん?ありがとう」


 無表情のまま感謝を述べるサンゴ。ミリリに通じるものがあるがそれ以上に特殊な素性がありそうな、分からない男だ。


 サンゴは出会ったときからそうだった。唯一豚から助けていない人物である上、むこうから話しかけてきた。

 本人曰く、感情に出すのが下手なだけ。自らそれを言われるとむしろ余計に怪しく思えてしまうのだが、余計な詮索はせずにそのまま受け止めている。


「オレが一番話したいのはこの部分だ。細かい話をする前にしておきたい話でもある。ぶっちゃけ、サンゴと組み続けるのは良くないと思ってる」


 この話題を持ち出すのはこの場が初めてだったようで、俺よりもヒノが「えーっ!」と驚く。


「”助け合い”みたいなことが成立してねーんだよな。ウィンウィンの関係じゃねえっつーか。パーティ組んでる利点がサンゴ側にあるとは思えなくて、どうにも落ち着かない」


 今焦点になっている人物だというのに、サンゴは相変わらず表情を変えない。


「とか言ってるオレ自身がこのパーティに向いてないってだけかもしんないな。自覚ねぇのに劣等感マシマシで不機嫌になってるのかもしれん。だから、最低でもオレかサンゴどっちかは抜けた方が良いんじゃねぇかと思ってる。両方抜けんのも有りだ」

「え、え?」


 ヒノが一人オロオロしている。


 折角仲間が勢ぞろいしたというのに、その直後に崩壊しようとしてるのだから俺も少し困惑している。


 しかし最初の話題に選んだエノンの意図も分かる。どうせ離れ離れになるのなら、互いの意見をすり合わせる意味がなくなってしまう。時間の無駄だ。


「勘違いして貰っちゃ困るが、裏切りとかそういうんじゃねぇ。オレ達が稼いだ金は、情報をくれたスガの働きあってこそだ。どういう結果に落ち着いても、パーティの運営費に当てる予定だった金はそのまま納める」


 エノンはミリリの方を見ながら弁明する。一番不機嫌な顔をしており、事を荒立てそうなのだから自然とそうなる。


「エノンとしては、俺たちの今後はどうするのが理想だと思ってるんだ?」

「スガ、ヒノ、ミリリは組み続けるしかねぇしそれで良いだろ。人数が足りないなら一人くらいは入れても良いかもな。だが地雷女二人を連れてる自覚は持てよ。ユイとかいうのはただの馬鹿だったが、この二人は優秀だからこそ性質が悪い」


 淀みなく答えるエノン。この男なりにしっかりした考えがあるというのが分かる。

 当の二人を前にして言うのはわざとだろうか。

 ミリリは無視し、ヒノは「褒められましたっ」とむしろ喜んでいるので問題ないのかもしれないが……。


「オレはもっと平凡なパーティに行くべきだな。パッとしない奴らに囲まれてイキってんのがお似合いだ。サンゴはソロだな。一人で好き勝手してた方が一番パフォーマンス出んだろ」


 自分を卑下しているのか単にそうしたいのか、冷静な分析の結果なのかは分からない。


「サンゴとしてはどう?」

「もし戦闘がなんとかなっても、情報集めるのとか会話が厳しいから、ソロはどうだろ」


 首を傾げるサンゴは、あまり乗り気ではないようだ。


「情報収集は知らんが、会話はお前自身のために頑張れ。普通に喋れてるんだから嫌がる理由が分かんねぇよ」

「一旦エノンの意見は分かったから待てって。ヒノは何か今後について意見あるか?」


 一人の意見だけで判断する訳にもいかない。第三者であるヒノはどう思っているのか。


「私ですか?私はー……別にありませんねぇ」


 突然の展開に驚いてはいたが「みんな一緒が良い」などとは思っていないようだ。


 ふむ。皆の意見をそのまま受け取り採用するならば、とりあえずエノンは自分の主張通り抜けてもらって良いという感じだろうか。

 俺としてはエノンには残って欲しい。方針は自分で決めたいものの、一人では何か思い違いがあるかもしれない。しっかりと考えてくれるメンバーが他に一人は欲しいのだ。


 だが不満が残ると言うならばやはり抜けてもらうのが一番だとも思う。どこで拗れていくとも分からないのだから、最初からスッキリさせておくのが良い。


「サンゴも自分だけじゃなくてパーティ全体への意見はある?」

「ない。分からん」

「そうか……じゃあ、サンゴがどうのってのは俺自身の目で見てからの判断になるから保留する。その上でエノンはどうしたい?」


「さっき言った通り、サンゴを残すって言うならオレは抜けとく。……下手に残って仲間にいらないと思われるのはオレでもきついしな。マッチポンプに近いとは言ってもお前はオレの命の恩人で、それなりに尊敬してるつもりだからな」


 乱暴な仕草ながらに殊勝なことを言い放ち、席を立つ。背を向けたままで「金持ってくる」と手を振ったのでこれでお別れというわけではないのだろう。


「ホントにいなくなっちゃうんですね……」

「変に気を遣うのもなし、言いたいことは言うってルールなんだからそりゃあな。脅しでそんなこと言う奴なら最初から誘ってないしな」

「なんかすまん」

「サンゴが謝ることでもないだろ。なんなら悪いのはメンバーを偏らせた俺だ。役割が被れば上下がついちゃうのは当然だしな」


 エノンとサンゴは俺と同じくシンプルな前衛アタッカーだ。比べない方が難しいだろう。


 底辺冒険者は選択肢が少ないので、仕方のないことではある。用途が広く使える剣が圧倒的に便利だし値段も一番安く替えも効きやすい。

 槍などは距離が取れて強いのだが、木人のような相手には有効打を出せないし、持ち運び時も邪魔になりやすく面倒だ。いつ敵に遭遇するか分からないのに組み立て式を使うわけにもいかないし。


 あるのは精々盾の有無。ハッキリ言って盾は戦闘において素晴らしく便利で強い。しかしここでもやはり、持ち運びの難が大きな影響を及ぼす。



 盾の有無を含めこうした自身の装備を決める方針となるのは、最初のコーメンツでの狩りだ。

 

 狩りが成功すれば獲物は金に変えるため持ち帰ることになる。獲物とはすなわち緑豚であるわけだが、槍を持ったまま、或いは盾を持ったままこれをどう運ぶのか。


 普通は肩に乗せて両腕で支える。しかし盾を装備したままではこれが大変。一度腕から盾を外して背中に背負い、豚を担ぐ。槍も似たようなものだ。

 町にたどり着く前に次の豚に遭遇でもしたら、盾を装備しなおす余裕はあまりない。そこで盾を使わずに豚に勝てたのなら、結局盾なんていらないじゃないかとなる。

 槍の場合は無理やりでも装備しないとならない。そして、攻撃を避けながら槍の装備に成功できたなら。仮に武器が槍ではなく剣だった場合既に一発有効な攻撃を与えられていた可能性が高い。


 剣一本。これが普通の冒険の始まり。


 しばらくそれで狩りをして慣れてしまえば、武器を変えることに抵抗が出るだろう。命を託すのに慣れない武器なんて使いたくはない。


 結果、みんな剣ばかり持つことになる。当然前衛アタッカー。駄々被り必至である。


「一応、武器を変えてはいたんだろ?」


 本当にみんな剣だけ持っていたら、ただでさえ前衛ばかりなのに、さらに役割分担が難しくなる。武器の戦利品を手に入れた際も揉め事の原因になる。

 だから予めこっちのパーティでは無理にでも武器を分けるようには言ってあったはずだ。そのための余裕も確保していたはず。


「エノンさんが剣、サンゴさんが棒、私がメイスですね」


 しっかり分けている。

 エノンが剣か。むしろ、この一点に関してはここが逆効果だったのかな。自分だけ武器を続投して有利だったはずなのに、牽引するどころかサンゴが悠々と上を行ったと。

 しかもサンゴは、まず剣と同じようには扱えなさそうな棒を使っているわけだしな。


「なるほどなぁ。ま、もう本人が抜ける気なんだから言ってても仕方がない。切り替えていこう」


 厳選した八人のはずだったのに、もう四人か。

 減ることも考えた上での人数だったが、半減とは早いものだ。

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