第4話 会議室

 エレベーターで3階まで上り、廊下の両側にズラリと並んだ無機質なドアの中から、中会議室と書かれた部屋のドアノブを犬社長が開ける。


室内には会議室らしい長テーブルと椅子が並んでいた。

「好きな場所に座って」


犬社長に話しかけられて、一瞬ビクッとなった。

「あ・・はい」


とりあえず目の前のドア近くの席に座る。

犬社長はグルりとテーブルを回り込み、向かい側正面に座った。


「面接と言っても、簡単な質問をするだけだから緊張しなくてもいい」


 そう言われても社長の見た目が人間じゃないから、既に頭の中は情報量が多すぎて処理できないでいる。


「さてと。まずは応募希望の理由は置いといて、今の生活状況を聞こうか。一人暮らしかい?」

「いえ、実家で両親と三人暮らしです」


「兄弟は?」

「妹が2人います」


「妹さんは学生?」

「2人共社会人です」


「オーケー、この会社は基本的に不採用にはしないんだ。何か質問あるかい?」

「あーー永年雇用ってことは、退職金が出ないってことですか?」


「シぬまで給料出るし、必要ないからね。他には?」

「いえ、もう大丈夫です」


「そうか、なら今から契約書と雇用条件書にサインしてもらうよ」

カチャ


 後ろのドアが開き、メガネをかけたアライグマОLが書類を持って入ってきた。

契約書らしき書類を目の前のテーブルに置く。


ありきたりの内容が書かれている一枚目の紙をめくると、書面に三行だけ書かれた雇用条件書に目が釘付けになった。


「あの、雇用条件って三つだけですか?」

「ん?そうだよ、サインして」

「はい・・・」


『 

     雇用条件書

 ① 転職、副業、アルバイト禁止

 ➁ 自ずから命を絶つこと禁止

 ③ 呼出し時以外の出社はしない 

                 』


 契約書と雇用条件書にサインしてハンコを押したとたん、ガクンと尻餅をついた。

目の前には、先ほどの草むらが広がっている。


はらりと一枚の紙が頭の上に乗って、どこからか・・


「頑張って生きるんだよ」

と社長の声が聞こえた。


頭の上の紙は雇用条件書だった。

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