第38話 ボスの正体!
そして、昼休み。
昼飯もそこそこに、図書館へ向かった。
入り口に、三穂先生がいた。
「人払い、しておきました。実は、図書館の司書さんは、委託の方ですから、構成員じゃないんですよ。東郷先生の事も知りませんし、合言葉で人払いをする以外の仕事はしてません。とにかく、私はここで待ってますから、終わったら声を掛けて下さい」
「分かりました、ありがとうございます」
無人の館内に入り、日本文学のコーナーへ向かった。
「た」行の棚、『ディーズエンサイクロペディア』を抜き取り、奥に手を突っ込む。
レバーがあった。引いてみる。棚が動き、金庫が現れた。
お守りの袋から出した鍵を差し込んでみる。
正しくはまる感触。
回す。
開いた!!
中は、予想外に整然としていた。
書類がファイリングまでしてある。
さて、どれを調べるべきか……と思っていたところ、まず、「抹殺計画書」というラベルの貼られたファイルの一群に気付いた。
真虎が殺された、「二〇一X年五月」のやつもある。
気になる。それを引っ張り出して、開いてみた。
……そして、戦慄した。
それは、組織に歯向かう者のリストと、その殺害を指示する書類たちだった。
当然、というのはまったくおかしな表現だが、「乃木坂真虎」の名前もあった。
真虎の「担当」の欄には、「総裁」とあった。
それが誰か? と思い、金庫内の他のファイルを見てみた。
「組織図」と書かれたものがあった。
取り出して、開いてみる。
挟まれていたのは、ペラ一枚だったが、一見連絡網のツリー風に、指揮系統が書かれている。
その頂点、「総裁」の所にある名前は……
――木村九作。校長だった。
予想外だぜ。まさか、あいつがボスだったとはな。
どうやら、弱みを握られておとなしくしてるのは、「フリ」だったようだ。食わされた。
板東の言葉を思い出す。
実際、指示書に「総裁が抹殺を担当する」と書いてある。ウラが取れたな。
ボスをぶちのめして、組織を叩き潰す。
真虎を殺した奴に、制裁を加える。
校長を仕留めれば、ダブルで悲願が叶う。
問答無用で、これからでも校長室に乗り込みたいが……今はまずいな。
こっちから仕掛ければ、「不必要に校長へ暴力を振るった教師」として、俺の首が飛ぶだろう。
例のパパ活の証拠を通報すれば、即刻で社会的には抹殺できるだろうが、それじゃあ俺の気が済まない。
なんとか、奴から尻尾を出してくれるまで待つしかないか。
ジレンマを覚えるが、明確なターゲットは定まった!
元通りにファイルを戻し、金庫を閉めて、施錠する。
そして、棚と本も元通りにして、図書館を出て、入口で待っていた三穂先生に、終わったことを告げた。
彼女には、真相を話さない方がいいだろう。
秘密を知ったカドで、さらなる標的になりかねない。
とりあえずその日は、普通に仕事は終えた。
「センセ♪」
「おう、忍。待ったか?」
「全然?」
終業後の、通用門。
当たり前のように、忍が待っていた。
なんだか、こいつの笑顔を見るだけで、ややこしいことを一切抜きに、無条件でこっちも笑顔になれるのはもとより、時間差で、結ばれた事への多幸感がやってくる。
おっと、それはそうと、鍵と言うか、お守りを返さないとな。
「先に、これ、返しとくよ。おかげで助かった」
「あ、おおきに。何につこたん?」
「それがな……」
忍に、隠し金庫の件を伝えた。
ただ、校長がボスである件は、伏せた。
三穂先生同様、変に秘密を知ったことで、こいつが狙われることにもなりかねないからだ。
「な、なんでそんなもん、ウチが持ってんの!?」
「俺が聞きたいよ。忍、何かうっすらでも、心当たりはあるか?」
一応聞いてはみたんだが、やはりと言うべきか、彼女は思いっきり首をひねった。
「う、うーん!? ごめん、センセ。ちーとも分からんわ……。大事な事やのに……」
しょんぼりする忍だったが、本人が分からないものを、これ以上聞いても仕方ない。
忍は、捨て子だったという。
あの鍵は、産みの親が残してくれたって話だ。
顔も知らないどころか、そもそも、生死を含めて、その産みの親の消息が全く分からない以上、彼女が真実を知っているはずがない。
両親のどちらか、あるいは双方が、JTUの関係者である、あるいはあったことには間違いはないだろうが、手がかりが一切ないんだ。
それに、この子が組織の罪を背負わされたわけでもない。
何を、責められることがあるだろう? お門違いもいいところだ。
「ウチのほんまの親って、悪の組織の関係者やったんか……? ウチ、何も知らへんで……?」
肩を落とす忍。
衝撃だったのは分かるが、妙な罪悪感を抱かせるわけにはいかない。
また、彼女がJTUに対して何も知らないのも、責めるポイントでは全くない。
「確かに、忍の産みの親が関係者だったことは確かだろうが、正義の裏切りをしたのかもしれないぞ? 億が一にも、そうでなかったとしてもだ。俺の、お前への愛は、揺るぎない。心配すんな」
頭を撫でながら力強く断言してやると、なぜか、忍が頬を膨らませた。
困ったように言う。
「……男前やなあ、センセ。惚れ直すやんか?」
「ありがとよ」
「それは、こっちのセリフやて! もうっ!」
わずかな笑顔の反応からして、どうやら、忍の中でも、すぐに整理はできないだろうにせよ、「とりあえず棚上げ」はできたらしい。一安心だ。
今後も、こいつの前では、この話題は避けた方がいいだろうな。
そうなれば、行動を変えるべきだ。
「ところで、まっすぐ帰るのも何だ。軽くお茶でもしないか?」
「あ、せやね。それもええかも?」
空気が変わった。今は、こうであるべきだ。
二人で、あの喫茶店に寄り道することにした。
そして、喫茶店。俺も鍵の件は棚上げして、お互い笑顔でコーヒーを飲みつつ、たわいもない話を転がす中、誕生日の話題になった。
「センセ、誕生日はいつ?」
「俺か? 一月二十九日だ。忍は……さすがに分からないよな?」
もしかしたら、拾われた日が誕生日って事になってるのかな? と思ったんだが、違った。
「ウチは、六月八日生まれやねん。拾われたんは八月の話らしいんやけど」
「どうして、正確な日付が分かるんだ?」
「おとんから聞いたんやけどね? なんや、ウチが入れられとった木箱の中に、誕生日を書いた紙が入っとったんやて」
「へえ、なるほどね。誕生日には、花束でも贈ろうか?」
「そんなん、て言うたら悪いけど、別にいらんよ?」
「え? なんでだ?」
普通に親切心で言ったんだが、忍は、少し申し訳なさそうな顔になった。
「ぶっちゃけ、もろても後が困るもん。家まで持って帰って、どない大事に花瓶に生けたとしても、いつかは枯れるやろ? それが虚しいわ」
うーん、そういう考え方か。一理あると言えばあるな。
「じゃあ、何が欲しい? 流行りのスイーツなんかは、興味ないって言ってたよな?」
「たこ焼き」
「へ?」
一瞬耳を疑ってしまった。今、「たこ焼き」って言ったよな? マジか?
「たこ焼き一舟おごってもろたら、それで充分や」
マジだった。無欲っぷりに驚いた。
浮ついたところがないからこそ彼女に惚れたのを差し引いても、分かりやすすぎる。
「分かった。んじゃ、そうするよ」
「おおきに♪」
ああ、笑顔が、その笑顔が、胸に甘く刺さる。
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