第14話 刺客との戦い!

 校庭に着いてみると、ご丁寧に、迷彩服にゴーグル、マスク、ヘルメットのサバゲー装束に身を包んだ男が待っていた。


 そいつが、籠もった声で言う。


「よくぞかわしたな、俺の最初の一撃を」

「なかなかやってくれるじゃねえか、長峰先生?」

「ふっ、だからサバゲーは楽しいのだ。次は直接撃つ。覚悟しろ」


 ボウガンに新しい矢をつがえる、長峰らしき男。


 余裕があるのかどうかは知らんが、もっさりし過ぎててあくびが出そうな挙動だ。


 準備が整うまで、律儀に待つ奴がどこにいる?


 少し自分の射程からは遠かったので、おもむろに距離を詰めた。


「しいっ!」

「おぶうっ!?」


 奴がボウガンを構えた頃には、俺の左ジャブが、その顔面にクリーンヒットしていた。


 がしゃん、と獲物を落とし、男が崩れ落ちる。


 当然、この程度で許すわけはない。ずかずかと間合いを詰め、強引に引きずり起こす。割れたゴーグル越しに睨み付け、あえて軽く言う。


「OK?」

「な、何がだ?」

「当然、ぶちのめされる覚悟が、だよ!」

「ぎっ、にゃあああああああっっ!!」


 情け無用で、掛け値無しのフルボッコにしてやる。


 ノックアウト済みでぐったりしている男の胸ぐらを掴み上げ、トドメで睨む。


「二〇一X年五月十六日! 乃木坂真虎を殺したのは貴様か!?」

「ひ、ひいいっ! ち、違う! 俺じゃない!」

「嘘をつくな!」

「げぶうっ!」


 追加で右フックを見舞う。血と涙と諸々の体液が飛沫を上げて散った。


「ほ、本当だ! 俺はやってない! 組織の誰がやったのかも知らん!」

「ほほう? それなら仕方ないが、貴様が知っていることを全部話してもらおうか?」


 殺意を込めた目で睨むと、怯えきった声が返ってきた。


「じ、邪魔者を排除するのは、実利以上に、組織の快楽でもある。そ、それ以上のことは知らん……」


 いい趣味してやがる。悪の組織らしいぜ。


 だが、曖昧にせよ、ヒントだな。


 人を傷つけて喜ぶような奴を、今後マークしていけば、あるいは……かも知れん。


 今後も、機会があるかどうかは分からんが、同じように刺客が襲って来るなら、少しずつ情報を集めることにしよう。


 とりあえず、こいつはもう、何も知らないらしい。用は済んだな。


「んじゃ、貴様はオネンネしてな」


 おもむろに、水平チョップをこめかみに見舞う。


 狙い通り、男は脳しんとうを起こし、その場に倒れて動かなくなった。


 校庭では、他のクラスが体育の授業をしていたが、やりあったのは校庭の端の方だったので、他の教師や生徒に見られることはなかった。


 それはそうと、本人確認をしておこう。


 マスクを引っぺがすと、やはりさっきの長峰に間違いはなかった。


 すかさず、ボコボコになったツラを、スマホで写真に撮る。


 これは、家でプリントアウトしてから、明日の朝、職員室のホワイトボードに貼っておこう。


 多少は、他の連中への牽制や警告になるかも知れない。


 いや、それより、規制されているボウガンで襲撃されたのは事実だ。


 いっちょ、警察に通報しておくか。その方が、効き目がある。


 と、いうわけで、その場からスマホで110番をかけ、長峰のことを通報した。


 後はまあ、せめてもの慈悲として、例の医者の手配もしてやった。


 警察と救急車はすぐに来て、軽く事情を聞かれたんだが、先に襲ってきたのはこいつなので正当防衛だという主張で押し切った。


 過剰防衛の疑いで何かあるかと思ったんだが、幸いにもそれはなかった。


 さすがに、長峰のその後の事までは知るよしもないが、無許可でボウガンを持っていたなら、それだけで逮捕だ。


 仮に許可を得た上でにせよ、人間を撃とうとしたんだから、やはり逮捕だろう。


 いずれにせよ、あの男は終わりだな。


「ふう」


 稲垣の奴が「相応の戦闘員がいる」って警告しやがったのは、こういうことか。


 なるほど確かに、いかに俺の左ジャブにリーチがあろうが、それより遠い間合いから、さっきのボウガンや、あるいは銃なんかで撃たれりゃ、一発アウトだ。


 今回は、初撃をかわせたのもさることながら、長峰の性格に救われたな。


 しかし、とりあえず一息は着いたが、束になってかかってこないのがおかしいな。


 いや、学校という場所である以上、まずは表面上でも、まともに運営しなければならんから、連中も派手に動けないんだろう。


 その後、職員室で、長峰の言葉を思い出していた。


 人を傷つけて喜びそうな奴は誰か? 注意深く観察してみたんだが、なんだか、どいつもこいつも該当しそうな気がした。


 やはり悪の組織か。まっとうな人間を探す方が難しいのかもしれない。

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