第7話 制裁!

 そして、放課後。軽い鼻歌を交えつつ、体育館裏に向かうと、既に修羅が待っていた。


 手には、鉄パイプを持っている。は、いいんだが、修羅の他に三人、それぞれ手にナイフを持った、テンプレ的な不良君がいた。


 パイプでトントンと肩を叩きつつ、修羅が尊大に言い放つ。


「へえ? 逃げずにきっちり来るとは、いい根性じゃねえか?」

「おいおい、見くびるなよ。お前にケンカを売ったのは俺だぜ? 売った側が来なくてどうするよ?」

「ま、それもそうだがな。ケッケッケ」


 下品に笑う声。その自信の根拠は見え透いている。それに基づいてか、修羅が余裕たっぷりに言う。


「知ってるかぁ? 教師が生徒に暴力を振るえば、ソッコーで首が飛ぶんだぜ? しかも、四対一だ。土下座する準備はいいだろうなあ?」


 やっぱりだ。爆笑レベルで分かりやすい根拠。


 しかも、たかが四対一程度で参ると思っているらしい。まあ、普通ならそうだな。普通ならな。


「能書きはいいから、かかって来いよ小僧ども」


 ミニチンピラズに向けて、ビシッと中指を突き立ててみせる。ピキッと、修羅の額に青筋が走った。


「なめやがって! 土下座じゃ済まねえな! いっぺん死んでみろやぁっ!」


 鉄パイプとナイフを振りかぶり、四人が突進してくる。


「しっ!」


 射程に入った瞬間、俺の左ジャブが閃いた。修羅の顔面にクリーンヒット。チャグッ、と鼻が潰れる感触がして、ガラン、と鉄パイプを落とし、膝から崩れる。


「な……!?」


 あまりに一瞬の出来事に、理解が追いついていないらしい。


「修羅さ……ぶばっ!?」

「な、何……べぶっ!?」

「え、ええっ!? ひぼっ!?」


 あっという間に、全員KO。軽いもんだ。


「さぁてぇ? どっちが土下座するのかなあ?」

「「「ひ、ひえええーーーっ! お、お助けぇーっ!」」」


 修羅以外の三人が、腰を抜かしながらも慌てて逃げていった。


「な、何が……?」


 さすが頭が悪いのか、修羅の奴は、状況をまだ分かっていないらしい。悠然と歩み寄り、胸ぐらを掴んで奴を引きずり起こす。


「立てよ、オラ」

「ひ、ひいっ!」


 本気の殺意を込めた目で睨む。


 息を呑む修羅だったが、誰がこの程度で終わらせるかってんだ。


「ふっ!」

「がはっ!」


 まず、手抜き一切無しの左フックを、顔面に見舞う。何本か歯の折れる感触がした。


「しゅっ!」

「おごおっ!」


 続けて右のアッパーカット。鼻血が飛び散る。


「おらよっ!」

「うぼおっ!」


 そして、ミゾオチに左でボディブローを一撃。口からゲロが吹き出す。


「ふんっ!」

「ぶふうっ!」


 ダメ押しで、右ストレートを顔面へ。ツラが陥没する。へなへなと修羅が崩れ落ちた。


「いひっ、いひえええっ! た、助けてくれっ、オレの、オレの負けだあっ!」


 既に顔面を血まみれにし、完全に腰を抜かして、へたりこんだまま後ずさりする修羅。


 だが、まだまだだ。聞こえませんが? と言うような、大げさに耳に手を当てたジェスチャーと共に、あえて軽い調子で言った。


「んっんー? 人様に向かって、軽々しく『死ね』とのたまわったのは、どこのどちら様でしたっけねえ?」

「と、取り消す! アンタにゃ敵わねえ! だから許し」

「てやるかよ!」


 大きく足を振りかぶり、鉄板入りの特注靴で、全力のトーキックをツラに見舞った。


「げはあっ!」


 血とゲロをまき散らしながら、数メートル後方に修羅が吹っ飛ぶ。


「ひ、ひえ、ひえ、ひえええ!」


 這いつくばって地面をひっかき、必死に逃げる努力をしているが、そうはさせない。


「おい、逃げんなよ」

「ぎゃあっ!」


 先回りして、右手にストンピングを見舞う。血しぶきと共に、手の骨が粉々になった感触がした。


「こっちもだ」

「うぎゃあっ!」


 続けて左手を砕く。これでやっとオードブルレベルだ。


「ひ、ひへ、ひへあ、あ、あああ!」


 絶望に染まった顔。まだまだ、終わらせるつもりはない。


「おやあ? こんなところに、いーい感じの鉄パイプが転がっているではないですかあ?」


 地面に落ちていた獲物を手に取り、パシパシと手で弄んでみせる。


 どうするかって? 当然使うんだよ。


「これを? こうだ!」

「ぎはあっ!」


 思いっきり鉄パイプを打ち下ろし、右前腕部に命中させる。べきり、と、骨が折れる音がした。


「当然こっちもな!」

「ぎゃんっ!」


 続けて左。同じく骨が折れる。


「んー、両足が寂しそうだなあ? もいっちょいっとくか? おらよっ!」

「うぎゃっ!! ひぎあっ!!」


 おまけでもう二発、やはり全力のストンピングを、ふくらはぎに見舞った。こっちも確かに、すねの骨が折れる感触を覚えた。


「し、死ぬっ、死んじまうっ、殺される、助け、助けっ!」


 血と涙とゲロにまみれ、真っ青な顔色の修羅。かがみ込んで、奴のムースでガチガチの金髪をわしづかみにして顔を上げさせ、睨み付けながら問うた。


「痛いか?」

「えひ、へひえっ、あ、ああっ、い、痛え、半端なく痛え!」

「人はな、殴られりゃ痛いんだよ。そんな事も知らねえとはな。驚くほどの頭の悪さだ。ワカったら『はい』と言え」

「はいっ、はひっ、はいひいっ!!」


 どうやら、この足りないオツムにも染みたらしい。ぬらあっと、思いっきり邪悪な笑顔を作って、また睨む。


「クックック、どうだ? 今、怖いか?」

「へひ、へひあ、あ、ああ、こ、怖えっ! あ、アンタ何モンだ!?」


 バケモノを見る目そのままの顔に、この世の真理を説くように言ってやった。


「俺か? 俺は教師だ。いや、それ以前に大人だよ。大人を怒らせると怖いことも、ワカったかな?」

「えへ、えへえええ、は、はい、はいぃ……!」


 ガタガタと震えながら、何度も修羅がうなずく。


 この時点で骨の髄まで効いてるようだが、追い打ちを加えとくか。にっこりと言ってやる。


「よろしい。だが、気が変わったよ。人様に『死ね』なんてぇ、気安く言えるようなガキこそ、死ぬべきだな」

「いひっ!? そ、そんなっ!」


 絶望を超越したような、いいツラだ。続けてにこやかな顔を作る。


「いっちょ、スイカ割りをしようか、二階堂君?」

「へ、へ?」

「棒は俺が持ってる。君の頭がスイカだ」

「え、え、え?」


 本物のスイカの熟し具合を確かめるように、ポンポンと頭を叩いてみせる。


 察しが付いたらしい。修羅は、透き通るほどに顔色を無くしていた。にいっと殺意を込めて言ってやる。


「全力でブッ叩くぜ? いい感じに割れるだろうよ」


 鉄パイプを青眼に構え、大きく振りかぶる。


 そしてそれを、修羅の頭目がけて打ち下ろす!


「ちぇりゃあああああッ!!」

「まっ、ママぁーーーーっ!!」


 鉄パイプを寸止めし、コツンと叩くだけにする。


 修羅は、ションベンを漏らしていた。


「ククク……ハハハ……はーっはっはっは! ママか! 学校一の不良君の断末魔がママかよ! ケッサクだな、おい!」

「えへ、えへあ、へはは……おぶうっ!」


 放心状態の修羅。ゴミを蹴るように、二発目のトーキックをその顔面に見舞った。


「起きろ、このマザコンガキ」

「げぶっ、な、な、な、これ以上、何をすりゃあ、オレは許してもらえるんだ?」


 初めの威勢はどこへやら、無様極まりないツラでおののく声。


 そこへ、「1+1=2だろ?」ぐらいの調子で、言ってやった。


「ごめんなさい、は?」

「え?」

「ごめんなさい、はどうした? っつってるんだよ」

「ご、ごめんなさいいいいっ! オレが悪かったです! 何でもしますから、命だけは助けて下さいいっ!」


 必死の命乞いだが、聞きたいのはそれじゃない。腹の底からドスを利かせて言う。


「布引君には言ったのか?」

「はへ?」

「その詫びの台詞を、貴様は一度でも、布引君に言ったことがあるのか!」

「う、うう、ない、です……おぶふっ!?」


 頭をダンッ! と踏み、顔面をグリグリと地面にねじり込む。


「じゃあ言え。今言え。二度と布引君、いや、他の誰にも手出ししないと誓え」

「わ、わ、わ、わがっだ! 言う、言うよぉ!」


 上着の内ポケットからスマホを取りだし、ボイスレコーダーアプリを起動して、本体を修羅の顔に近づけた。


 泥と血にまみれた唇が、戦慄と共に言葉を紡ぐ。


「そ、草助……い、今まで悪かった。もう二度と、お前には手出ししねえ。誓う。誓うとも。お前だけじゃねえ、もうオレは誰にも手出ししねえ! じゃねえと、オレが殺されちまうよぉっ!! 助けてくれぇっ!!」


 最後の一言が余計だが、まあいいだろう。バッチリ録音できた。


「これにて決着だな。せいぜい死線をさまよいな。あばよ、ボウヤ」


 ボロ雑巾のようになって、もはやピクリとも動かない修羅。


 仕上げに、奴のこめかみに向けてトーキックを見舞って、脳しんとうを起こさせて気絶させた。

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