第4話 絶対的マウント!

 そんな余談はいいな。さらに続けて、とっくり説いてやることにした。


「大学の件は、お前等にはまだ少し先のことだろうが、ぶっちゃけな? 学校での授業の内容なんざ、覚える必要はねえんだよ。重要なのは、『どう考えたか?』だ」


 今のところ、生徒達はおとなしい。続ける。


「例えば、授業で分からん箇所があったとする。投げ出す前に立ち止まれ。自分は『なぜ』分からんのか? その疑問を多角的に考えろ。どう足掻いても分からんなら、棚上げしても、脇に捨ててもいい。重要なのは『覚える』事よりも『考えて、感じる』ことだ。暗記だけやって、お受験対策をやりたいんなら、素直に塾へ通え。ただし、ここにも通わん限り、俺は、お前等に単位をやらん」


 ついでに、これも教えておくか。付け加えた。


「学校での勉強なんかな? 覚えた後で、すっかり忘れてもいいんだよ。勉強することの意味は、まあこれは現国のカテゴリになるが、太宰治の『正義と微笑』って作品に、明快な答えが書いてある。詳細が気になった奴は、電子書籍なら無料だし、環境がないなら、図書館でもどこでもいいから、読め。キーワードは、『カルチベート』だ。それだけ、頭の隅に置いとけ」


 本のタイトルとキーワードだけ、黒板に書いて、もう少し持論を説くことにする。


「ただし俺は、従来の記憶力を試すテストを否定するわけじゃない。アレはアレで、一つの尺度にはなる。だが、それだけだ。アレが全てだなんざ、ちゃんちゃらおかしな話だ」


 そこで腕時計を何気なく見ると、残り時間は五分ほどだった。そろそろ締めるか。


「ところでお前等、生徒手帳は持ってるよな? アレには細かい校則がビッシリ書かれてる。俺は、その全てを厳格に守れとは言ってない。むしろ、校則のページなんぞ丸ごと破ってもいいんだ。お前等が肝に銘ずるべきは、『権利を主張する前に、義務を果たすこと』だけだ。世の中ってのは、上手い具合にできてるもんでな。自分のヤンチャは、後で必ずツケとして自身に返ってくるんだよ。必ず、間違いなくな」


 言い終わったところで、チャイムが鳴った。


「おっと、時間だな。もう少し話したかったが、まあ初回はこの辺にしとくか。次からは普通に授業をするつもりだが、肩の力は抜いとけ。ひと味違う授業をしてやるよ」


 そして、悠然と教室を去って、職員室へ戻った。


 職員室では、ちょっとした騒ぎになっていた。


 自分の席に座るや、バーコードハゲで小太り、かつ脂ぎった初老の小男がやってくる。

 傍らには、七三分けのメガネで、いかにもイヤミったらしい雰囲気の、ひょろ長い教師もいた。


 バーコードハゲの方が、ここの校長の木村九作きむらきゅうさく


 メガネの方が、教頭の中元四史なかもとしふみだ。ハンカチで額の汗を拭きながら、木村校長が言う。


「なんということをしてくれたんだね、東郷先生!?」

「はて、なんのことですか?」


 すっとぼける俺に、険しい顔の中元教頭が継ぐ。


「ふざけるのもいい加減にしたまえ! 授業風景を盗撮して、ネットにアップするなど言語道断だ!」


 予想通り過ぎて笑いすらこみ上げてくるクレームだった。柳に風、と言った調子で返す。


「俺は、別に悪いことはしてませんよ? 調子をこいてたガキ共に、ちょいと恥をかかせてやっただけです」

「んなっ? 生徒の人権……」


 まだ文句を言いたげな校長だったが、秘密兵器パート2をスーツの内ポケットから出した。


「まあまあ、これでも見て、落ち着いてください」

「人の話を……な、あああああっ!?」


 目の前に突きつけられた写真を見るや、校長の顔が一気に青ざめる。


 その写真は、防犯カメラが撮影したものだが、この校長本人が、思いっきり鼻の下を伸ばしたスケベ面で、制服姿の女子高生とラブホテルから出てきた瞬間を写している。


 ふん、誰が敵地に乗り込むのに、丸腰のままでいるもんかってんだ。


 このネタも、当然、ハッキングの成果だ。悠然と上から言ってやる。


「性交渉を含むパパ活、つまりは未成年買春にうつつを抜かすような腐れ校長に、とやかく言われたくありませんなあ?」


 校長は、メデューサに魅入られたかの如く固まっていた。


 なんでこんな奴が、校長をやれてるんだか、全く疑問だ。


 さておき、今度は教頭をギロリと睨む。


「な、なんだね、その失礼な目は? 私は別にやましいことなど!」

「じゃあ、これはなんでしょう?」


 スーツから、秘密兵器パート3を出す。


 それは、銀行の取引明細をプリントアウトしたものだ。


「そ、それはっ!?」


 やはり固まる教頭。会心の笑みと共に、超余裕で言ってやった。


「そうです。教頭による、修学旅行費積立金の着服の証拠です。どうします? お二人とも、今すぐ警察のお世話になりますか?」


 挑むような笑みを作って、余裕しゃくしゃくで二人を見る。


「な、何が望みだ?」


 わなわなと震える唇で校長が言う。


 二人を、殺気を込めた目で睨み、宣言する。


「今後、俺のやり方に一切口出ししないように。教育委員会に報告するなんぞ、もってのほか。妙な素振りを見せれば、この証拠を持って、即座に警察へ通報しますよ?」

「「ぐ、ぐうう!」」


 揃ってギリギリと歯ぎしりしながら、二人は、すごすごと自分の席に戻っていった。


 俺の勝ちだ。ザコにも程があるがな。


 だが、アイツ等とて、腐っても組織の構成員だ。もしかしたら、上の方にチクるなり何なりで、今後こっちが不利になるのかも知れない。


 しかし、それがどうした? だ。座右の銘が「我道直進」の俺をナメてもらっちゃ困る。


 それから、他のクラスの授業を同じようにやったり、職員室で授業の資料作りなどをしているうちに昼休みになった。


 ちなみにと言うか、二年C組以外のクラスも崩壊っぷりは似たようなもんだったので、まず最初に恫喝してからおとなしくさせて、反論を全部封じておいた。


 俺も、まさか弁当なんぞ持ってきてないから、当然足は学食へ向かう。


 中に入ると、まあ一般的な学食の風景だった。つまり、入り口に食券売り場があって、各メニューに応じたカウンターでセルフでメシを受け取るスタイルだ。


 また、ホールの一角には各種パンを売ってるコーナーと、飲み物の自販機が数台置いてある。


 どっちかというとパンの気分だったので、売り場へ行って適当に物色し、焼きそばパンとあんパンを買って、飲み物は紙パックの牛乳にした。


 いい天気だし、外で食いたい気分だ。メシを手に、中庭へ向かうことにした。

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