「アポトーシス」心の弱い人は読まないで
リュウ
第1話 「アポトーシス」心の弱い人は読まないで
地下鉄で麻生行きの地下鉄を待っていた。
今日も無事終了だとほっとしてホーム中央に設置されたベンチに腰をかけた。
この仕事についてもう五年経とうとしていた。
前の会社は社長と喧嘩して辞めた。
苛められたみたいなものだった。
後輩に部長職を譲ったのに、その後輩の成績が優れなかった。
常に私より売り上げが伸びなかった。
後輩と仲の良かった社長は、私を追い出しにかかった。
日報や報告に文字通り重箱の隅をつつくように指摘してきた。
小さなことなのに、死活問題だとかなんだとか。
うんざりした。
指摘する暇があるのなら、仕事をしろと言いたかった。
あまりにも理不尽なことが多くなったので、辞表を叩きつけた。
社長は、多分、気付いていたはずだ。
売り上げが伸びないのは、私のせいではないことを。
退職の日は、社長に挨拶をした。
今まで給与をくれたのだから、それなりのお礼をした。
社長は、こちらも見ずに曖昧な返事を返した。
風の噂で、社長は胃癌で亡くなったらしい。
二年前のことだったらしい。
退職後、今の会社に拾われた訳だが、この会社も優れた社員が居なかったため、現在は課長職を命ぜられていた。
最近、部下のミスが目立ったので、チェックシートを作って帰宅するところだった。
入社してからミスもなく、悪くはないかなと思っているところだった。
その時、声がした。
「死のうかな」
言葉が私の耳に入ってきた。
周りを見回していても誰もいない。
私が言ったのか?
私の独り言なのか?
今の私の生活は、坦々と進んでいる。
悪いことは、無いのになぜ、口走ってしまったのだろう。
確かにもう還暦を超えてしまっている。
昔なら、とっくに死んでいる歳だ。
医療の進んだ現在だから、栄養状態がよい現在だから、命が続いている。
仕事もこなしているので、生きがいにも問題ないはずだ。
なのに、死にたいなんて。
そういえば、最近、歳よりの事故が多い気がする。
ブレーキとアクセルを間違って店舗に突っ込むだとか、
横断歩道を渡る親子や子どもたちを轢くだとか、
杖を振り回し激昂している老人とか。
私のその年齢に達している。
自分の意識と別の行動をするようになっているのか?
”アポトーシス”
ふと、この言葉が頭に浮かんだ。
体を造るため、形を造るため、自ら死滅する細胞があるらしい。
社会にもあるのだろうか。
自ら、もう必要ないと反応することが。
それは、精神ではなく細胞レベルの反応かもしれない。
そんなことはないな。
私は若いころから変なことを考え付くようだ。
私は死ぬ理由がないではないか。
「まだ、死ななくてもいいよね」
私は誰に言う訳でもなく、呟いた。
ホームにアナウンスが流れ、電車の音が近づいてくる。
「アポトーシス」心の弱い人は読まないで リュウ @ryu_labo
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます