第12話 最強vs最強

―――キン―――



 開口一番、入れ替わった魔王は正面のゲルゼナードに言い放つ。


「ゲルゼナード。前回、貴様は我に負けておるから手加減してやるのじゃ。我は炎属性しか使わん。全力でかかってくるのじゃ。」


 それを聞き、ゲルゼナードは明らかに機嫌が悪くなる。


「上等である。たかが500年ほどしか生きていない若造には、儂が教育を施さんとな!」


{ちょっと、魔王!なに煽ってんの!?手加減までして、私たち大丈夫なんでしょうね!?}


{今回は3分の勝負じゃ。なら、最初から相手に全力を出させるのが最善じゃろう。}


 大丈夫か?って聞いたのに、まるで返答になってない。


{ああ、もう!もし魔王のせいで私まで死んだら、絶対許さないんだから!}


{天地がひっくり返ってもありえん。そこで見ているのじゃ。}


 瞬間、ゲルゼナードが超速飛行で眼前に迫る!


「“アイスランス“!」


「“ヴォルケーノ”」


 至近距離から放たれた氷の槍を、魔王は下から噴火した溶岩によって打ち消す。


「“ブリザード”!」


 噴火した溶岩に飲まれたゲルゼナードは、忌々しそうに上空で周りの溶岩を凍結させる。

 慌てて千春を見ると、エルに守られながらスマホをかざしていた。

 下の氷は溶岩で溶けたが、全員魔法で海上に浮いている。


 すると、魔王はまたしても上空のゲルゼナードを挑発する。


「昔と同じじゃ。バカの一つ覚えのように突進しては、我に追い払われる。滑稽滑稽。龍というよりは、蚊じゃな。」


「…ふん!わざと乗ってやっているだけである!そのふざけた面を今すぐ泣きっ面に変えてやるのである!」


 え、ふざけた面ってちょっとショック。

 後でごめんなさいしてもらおう。

 するとゲルゼナードに向かって凄まじい冷気が集まる。


「物量勝負といくのである。“アイスランス”!」


 見ると、極太の槍が空中から大量に射出される!

 ゆうに100は超えるそれに、魔王は私に提示した魔法で応える。


「“インフェルノ”」


 瞬間、家を燃やした“ファイヤーボール”とはまた違う、黒炎が視界を覆う。

 その炎も“アイスランス”と同様、途轍もない回数撃ち込まれていた。


 魔法のぶつかり合いにより、熱波がこちらにも届いてくる。

 熱すぎる!このままじゃ焼け死ぬ!


 そんなことを考えた直後、ゲルゼナードが黒炎から突如姿を現す!


「これなら避けられまい!“アイシクルノヴァ”!」


 瞬間、ゲルゼナードから放たれた拳が魔王の腹を捉える!

 そして、魔王は一瞬で氷漬けになってしまう。


 寒い寒い寒い!

 温度差ありすぎて風邪引いちゃう!


「追加でくれてやるのである!“フロストサンダー”!」


 直後、超大な稲妻が私たちの体を貫く!

 痛い痛い痛い!


 いや、魔王の体頑丈すぎでしょ!

 なんで逆にこれで死んでないのよ!?

 いや、私はそれで助かってるんだけどさ!?


「詠唱を防いだのである!どうであるかな!?謝るなら今のうちである!」


「こんなもの、防いだうちに入らん。」


 魔王は、体温を上げて氷漬けを解除する。


「さて、今度は我から攻めてやるのじゃ。」


 すると、魔王はそのまま体温を上げ続ける。

 周りの水は蒸発し、魔王の周囲だけ海に穴が開いていた。


「この身を剣とし、貴様お得意の殴り合いで決着をつけてやるのじゃ。」


 すると魔王は、超音速で相手の懐に飛び込み、ゲルゼナードとインファイトを始める。


 ドガガガガガガ!


 周囲は拳と拳のぶつかり合いにより、衝撃波が発生する。


「ほれほれほれ!どうしたのじゃ!?まさかこれで終わりではないじゃろうな!?」


 殴り合いをするゲルゼナードの顔からは苦悶の表情が溢れていた。

 すると、その顔に切り傷が入る。

 見ると、どういう原理かゲルゼナードの全身が浅く切り刻まれていた。


 流石にまずいと思ったのか、ゲルゼナードは魔法を唱える。


「“フローゼンタイム“!」


 瞬間、周りの時間が静止する。

 雷を出したり、時を止めたり無茶苦茶だ。


 辺りを見ると、静止したエルが泣きながら観戦しているのを見つけた。

 どういう情緒なんだ?あれ。


 その隙にゲルゼナードが飛び退く。


{アクセラレーション}


 魔王は静止した時を元通りに構築する。

 もう驚かなくなってきた。

 そしてまたしても、ゲルゼナードを挑発する。


「哀れじゃのう、ゲルゼナード。時を止めた隙に我を攻撃しないとは。もしや貴様、ビビッておるのか?」


「ッ…!サルティヌス、貴様ッ!」


 絶えず繰り返される挑発に、我慢の限界が来たらしい。

 ゲルゼナードは今まで以上の冷気を集め、魔王に奥義を放つつもりのようだ。


「ならば!儂の最大火力を受けてみるのである!貴様とて、防ぐことなどできん!」


「ほう…。ならば我も最後くらいは全力でいってやるのじゃ。」


 そうして両者は互いに魔力を高め、一撃にかける準備をする。

 すると、先程まで泣きながら観戦していたエルが、慌てて制止に入る。


「魔王様!おやめください!いくら私でも、それは食い止められる自信が…!」


「すまんが、エルギノイスト!後始末は任せたのじゃ!」


 どうやら、魔王には止める気はさらさらないようだ。

 これ、もしかしなくてもヤバいんじゃ?


「…御意。このエルギノイスト、命に懸けても被害を食い止めます。」


 そういうと、エルは全神経を集中させ辺り一面を結界で覆いつくす。


「やるのう。流石、我の臣下じゃ。」


 そうして両者は最後の一撃を放つ!


「正真正銘、最後の一撃である!“ゼロ・インパクト”!」


「我も最大火力で迎え打つのじゃ。“プロミネンス・フレア”」


 両者が詠唱を終える。

 まず、魔王の上空に小さな太陽が出現し、先手で攻撃を開始する。

 その太陽から極大な炎熱を纏った竜の頭が、ゲルゼナードに向かって突進を行う。


「無駄である!」


 しかし、ゲルゼナードはそれに臆することはない。

 瞬間、白い花びらが舞い落ちる。

 それらは眼前に迫る竜の頭を捉えると、すんでのところで霧散させた。


「フローゼンタイムの応用である。時間だけでなく、相手の行動全ての熱運動をゼロにする。誰であろうと、この攻撃を防ぐことなどできないのである。どうであるかな?儂に対する挑発を詫びたら許してやるのである。ほれ、また一枚。」


 すると、花びらが魔王の左肩に触れる。

 直後、勢いよく魔王の左腕が凍り付く。


「…まったく動かん。体温を上げることも出来ないようじゃ。」


 左腕の感覚が一切ない。

 本当にゼロになったみたいだ。

 体が欠損するような感覚に、私は恐怖を覚えていた。


 そんな私とは正反対に、魔王は笑った。

 明らかにこの現状を楽しんでいる。


「面白いのじゃ!やはり、以前よりも戦いに磨きがかかっておる!流石我の臣下、研鑽を怠らなかったようじゃの。この我をもってしても防げぬ攻撃。じゃが…」


 すると魔王は、残った右腕で上空の“プロミネンス・フレア”を操作する


「ゼロにできないほどの熱量には、無力な技じゃな。」


 言い放った直後、魔王は球体を指先の一点に凝縮する。

 そして、正真正銘最後の一撃をお見舞いする。


「即席じゃが、名前はどうしようかのう。まあ、よいか。適当に“プロミネンス・ノヴァ”なんかどうじゃ?」


 その即席の攻撃が魔王の指から離れる。

 最大火力はゲルゼナードへと向かっていく。


「舐めているようであるな。こんなもの、儂の“ゼロ・インパクト”の前では…なに!?」


 止まらない。

 確かに花びらは触れていたはずだ。


「儂の最大火力ですら、止められない!?一体どれだけの熱量なのである!?」


 そうして、“プロミネンス・ノヴァ”はゲルゼナードの足元に着弾した。


「退屈しのぎにはなったのじゃ、ゲルゼナードよ。」


 直後、世界が白に染まっていく。


 こうして、3分間の決戦は幕を閉じた。

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